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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇3章◇

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第108話 王城へ②



 バラックの転移で王城に到着したアンジュとキュリバトは、国王の執務室に通された。


「アンジュ。久しぶりだ、な・・・」

 国王は目を見開いている。


 今の自分は以前のような服装でも体型でもない。ゆったりとしたワンピース姿とふっくらとした腹は、誰が見ても明らかに妊婦だ。


 アンジュはそのことを追求されないように、慌てて挨拶をした。


「ご、ご無沙汰しております、陛下!非常事態とのことで、何があったのか教えてください」

「あ、ああ。実はーーー」


 国王は経緯を説明した。


 エゴウェラという町の領主から野生動物・オーランの襲撃の報告と、騎士団と魔法士の出動を要請され、レイフォナーは現地へと向かった。オーランの住処である山林に到着すると、クランツの闇魔法でつくられた結界が張られていた。バラックの力で結界を解除し、山林に入って調査を始めたところオーランとの戦闘が始まったという。


「オーランたちは非常に凶暴でありながら連携がとれていたそうだ。まるで標的を孤立させるような動きだったと。そしてレイフォナーの足元に黒い影が現れ、それに吸い込まれるようにして姿を消した」


 国王は、アンジュの近くにいたショールとチェザライに目を向けた。実力者であるにもかからわず、頭や首に包帯が巻かれている二人の姿に、どれだけ壮絶な戦闘だったかは想像に難くない。


 片膝をついている二人は、口を開いた。


「オーランたちの目は黒く染まり、闇魔法で操られていました」

「レイフォナー殿下をお守りできず、誠に申し訳ございません!!」

 ショールとチェザライは涙声でそう話し、頭を下げた。


 レイフォナーが消えるとオーランたちは赤い瞳に戻り、逃げるようにして山林の奥に走っていったという。騎士団員や魔法士にも多数の負傷者が出たため深追いはせず、息絶えたオーランや現場の調査を行ったが、闇の魔力を感じるもののレイフォナーの所在はつかめなかったのだ。


 国王は両手で顔を覆い、部屋は静まり返ってしまった。


「レイフォナー殿下は転移させられた・・・でも!バラック先生なら、レイフォナー殿下の居場所がわかるのでは!?」


 アンジュにそう言われたバラックは、右手に視線を落とした。中指には、レイフォナーの魔力が込められている指輪がはまっている。


「なんとなく殿下の魔力を感じることはできる。じゃが、分厚い雲に遮られているかのように、魔力にたどり着けん」

「その指輪、貸していただけますか?」


 バラックは指輪を外し、アンジュに渡した。指輪をぎゅっと握ったアンジュは、目を閉じた。


 そうか、自分はこのために王城に呼ばれたのだ。レイフォナーの居場所を突き止めるために。それは自分にしかできないことだと思うと、不思議と自信が湧いてきた。

 

 レイフォナーの魔力を探ると、バラックの言う通り途中で何かに遮られている感じがした。それは闇の魔力に違いない。この先に進むためには、光魔法が必要だ。


 すると、指輪を握っているアンジュの手のひらから黄金の光が放たれた。


 レイフォナーの魔力を目指して光の魔力を流してみた。途中で遮るそれを突破し、たどり着いたのは予想もしていなかった場所だった。



「・・・海?」


 アンジュがぼそっと呟くと光は消えた。


「中央大陸の北部・シュノワ国のさらに先、海中からレイフォナー殿下の魔力を感じます」

 アンジュは国王を見つめた。

「海中?」

「はい。魔力を追跡してもたどり着けなかったのは、闇の魔力に遮られていたからです。おそらくクランツ殿下がつくった闇空間がその場所にあり、レイフォナー殿下はそこに閉じ込められていると思います」

「あの子は無事だろうか?」

「怪我の程度や体調まではわかりません・・・ですが、魔力を感知できるということは、ご存命である証拠です」

「そうか・・・」


 国王は一先ず胸を撫で下ろした。


「私が救出に向かいます」


 アンジュはバラックに視線を移した。


「先生、転移をお願いします」

「シュノワまでなら可能じゃが、闇空間など無理じゃ」


 転移の成功には、バラックが行ったことのある場所という条件がある。そのため、闇空間への転移が失敗することは確実だ。だがシュノワの港まで行けば、レイフォナーの魔力をもっと強く感じることができるはず。


「正確な位置がわからなくても、行ったことのない闇空間だとしても、レイフォナー殿下の近くまで行けるかもしれません!」

「許可できない」

 すかさず口を挟んだのは、執務席から立ち上がった国王だ。


 バラックの転移魔法は、出発地と目的地の間の空間を圧縮することで一瞬で移動できる。だが圧縮された空間は異空間と化し、無限とも言える広さだという。そこを通過するにはバラック自身が案内役として一緒に転移する必要がある。もし訪れたことのない場所へ転移しようとすると目的地が見つからず異空間内で迷子になり、現実の空間に戻ってくることはできない。それは人形などを使って何度も検証し、実証済みだ。


「転移の失敗。それは、死を意味する。そんな所へ二人を行かせられない」

「いいえ、陛下。バラック先生にお願いするのは、転移の発動だけです。闇空間へ向かうのは私一人です」


 その場の全員が目を見開いた。


「バラック先生が付き添わなくても転移自体は可能ですよね?」

「それは可能じゃが・・・異空間内に閉じ込められるとわかっていながら、お前さんを送り込むなどできん」


 アンジュは胸に手を当て、自信たっぷりに言い放った。


「バラック先生、私は光魔法使いです。もし異空間内で迷子になっても闇空間を見つけ出し、レイフォナー殿下のもとへたどり着いてみせます。そして必ず、そこから脱出して帰ってきます!」

 教え子に気圧されたバラックは国王に視線を移した。

「陛下、いかがなさいますか?」


 珍しく動揺している国王は、少し俯いた。


 このままただ待っていてもレイフォナーは戻ってこないだろう。何か手を打たねばならないのはわかっている。アンジュは自信があるようだが、闇空間への転移が失敗すると承知で向かわせるのはただの犠牲に過ぎない。

 しかもアンジュは身重ーーーレイフォナーの子なのだろう。そんな状態で救出に向かわせていいはずがない。だがレイフォナーを救える可能性は、光の魔力を有しているアンジュのみ。どのような決断が正解なのか。(まつりごと)ですらこんなに迷ったことはない。


 アンジュは、執務机に両手をついている国王の横に立ち、その手を取った。


「必ず、レイフォナー殿下を救出して戻ってまいります。陛下、ご命令を」


 落ち着き払った声、自身に満ちた瞳、不安を取り除いてくれるような笑み。アンジュはまさしく、この国の女神だーーー闇魔法使いと対等に渡り合える戦の女神、万人に手を差し伸べる慈愛の女神。

 一国を統べる自分がこんなにも動揺していることが情けなくなり、声を上げて笑ってしまいそうになった。


「まったく・・・なんとお転婆で勇敢な女神だ。さすがはアーメイアの娘」

「え?」

 国王は、キョトンとしているアンジュを抱きしめた。

「アンジュ。闇空間へ向かい、レイフォナーの救出を命ずる。必ず、レイフォナーと腹の子と三人で戻ってこい。よいな?」


 優しい口調と温かい腕からは家族を想う気持ちが伝わり、アンジュもその一員として見てもらえたような気分になった。


「はい!陛下」



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