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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇3章◇

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第104話 出動要請



 レイフォナーは執務席で書類に目を通しているーーーように見えるが、実際は違う。瞳は一点をぼんやりと見つめたまま動いていない。アンジュが村に帰ってからずっとこんな様子だ。よく眠れておらず、食事は以前ほど食べなくなって少し痩せてしまい、仕事は滞っている。


 護衛のショールとチェザライ、補佐のサンラマゼルは、以前もこんなことがあったな、とため息ばかりついている主を見つめている。


「殿下、目と手と頭を動かしてください」

「・・・」

 ショールもたまらず口を開いた。 

「そんなに王女との婚姻が嫌なら、やめちまえよ」

「ショーくん、それは無理だよ」


 光剣を入手した以上、王女との婚姻を反故にすればメアソーグの信用にかかわる。それに、来月には先延ばしになっていたレイフォナーの立太子と、ラハリルとの婚姻が国民へ発表されることが決まっているのだ。


 静まり返ってしまった部屋に、サンラマゼルのため息が響いた。


「アンジュさんも一緒に娶ってはいかがです?」

「・・・お前も見ていただろう?アンジュは自ら身を引いたんだぞ」

 レイフォナーはやっと口を開いたが、眉間にシワを寄せている。

「引き止めてほしいって思ってたんじゃね?」

「あはは!モテないショーくんが女心を語ってる〜」

 ショールはチェザライの頭にゲンコツを食らわした。

「痛いっ!」


 以前アンジュを娶ることに難色を示していた国王も王妃も、今では側妃として迎え入れることを望んでいる。アンジュを否定する者はもう誰もいない。もし二人を娶れば、アンジュばかりを構ってしまうのは目に見えている。だが正妃であるラハリルを蔑ろにもできない。両方に子ができれば、醜い派閥争いが起きるのは必至だ。


 ラハリルとの婚姻はもう避けられないのだから、アンジュのことは諦めるべきだとわかっているのに、どうしても忘れられない。


 キュリバトの報告では、アンジュは毎日元気に過ごしているという。午前中は日課の畑仕事。午後は魔法の訓練や薬草採り、王都での日雇いの仕事、刺繍や菓子作りなど。アンジュは以前の生活を取り戻しているのに、自分はいつまで経っても彼女のいない生活に馴染めないでいる。


 元気のないレイフォナーを奮い立たせようと、サンラマゼルは手に持っていた書類を渡した。


 気怠そうに目を通していたレイフォナーは、次第に眉をひそめた。


「オーランの襲撃・・・騎士団及び魔法士の出動要請?」

「はい。最優先すべき案件かと」


 王都から北へ約六十キロ。エゴウェラという町がある。北側に山林が広がっているが、町人たちは誰も近寄ることはない。オーランという危険な動物が生息しているからだ。白い体毛に赤い瞳で見た目は大きな犬だが、鋭い牙と爪を持ち、成獣の体長は二メートルにもなる。彼らは人間を嫌っており、山林から出てくることはない。そのため山林に立ち入った人間は追い出そうと威嚇し、それでも出ていかないと攻撃を仕掛ける。並の人間では到底太刀打ちできない。


 だが、一週間ほど前にオーランがエゴウェラの町に現れ、人々を襲い、家屋を破壊し、作物を荒らした。領主は直ちに兵を挙げ、オーランを追って山林へと向かったが、中に入ることができなかった。


「山林を囲むようにして、まるで透明な壁が立ち塞がり、進行できなかったため引き返したそうです。その数日後、再びオーランが町に現れ、応戦した私兵たちは多くの死傷者を出しました。お手上げ状態になった領主は、殿下に助けを求めてきたというわけです」


 レイフォナーは右手を口元に当てて黙り込んだ。


「人間を嫌っているのに町に出てきた・・・意思に反した行動だな」

「うん、それに透明な壁。これって・・・」


 ショールとチェザライは、レイフォナーを見つめた。


「クランツの仕業だろう。現地へは私が向かう」

「殿下自ら向かわれるのですか!?」

「やめとけ。罠だったらどうする」

「なにもレイくんが行かなくてもさ〜」


 たとえ罠だろうが、レイフォナーの気持ちは揺るがなかった。


 クランツが何か企んでいるのだとすれば、それは自分とアンジュに関係していることに違いない。彼女を守るためにも、直接自分の目で確認する必要がある。


「危険は承知の上だ。被害状況も確認したい。サンラマゼル、予定の調整を」

「・・・かしこまりました」



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