「こちらが菊池殿下の婚約破棄回収劇場ローストビーフ添えでございます」「ありがとう。いただくわ」
いつも有り難うございます
よろしくお願いします。
(菊池祭り参加作品です)
★異世界恋愛ジャンルからコメディジャンルにお引越ししました。
「このような公の場で我が婚約者の悪行を晒すのは非常に不本意ではあるが、ジャネットへの度重なる暴挙を見逃す事は出来ない!クレア!私は今この場でお前との婚約を破棄し、新たにジャネットと婚約を結び直すことを宣言する!」
煌めくシャンデリア。
その輝きの下では、着飾った貴婦人たちが今日の特別な時間を思い思いに過ごしていた。
そのような公の場で第一王子であるフィリップ殿下は、馬鹿な婚約破棄を声高々に告げた。
もともとこの結婚は、カーディ公爵家の後ろ盾が欲しくて国王がカーディ家に頼み込んで決まったものだ。
み〜んな知っている。
それを国王の外遊中に勝手に破棄して…
第一王子は許されるはずがない。
婚約破棄を言い渡されたクレア様は大人しくそれを受け入れた。
きっとめんどくさいのだろう。
「了承致しました。これをもって私との婚約は破棄という事でお願いいたします。それで…この事を国王陛下はご存じでしょうか?」
「ふん。父上には全て終わってから報告する。お前には関係ない事だ。口を挟むな」
事後報告…。
そんな事が罷り通ると思っているのだろうか?
おそらく…フィリップ第一王子の王位継承権は無くなるであろう。
事の重大さをわかっていない王子の様子を眺めながら…左手に持つ皿に乗っているローストビーフをパクリと口の中に放り込んだ。
もっすもっすと肉を噛んでいた時、王族専用の扉が開いて第二王子の菊池殿下が入って来た。
「兄上、その必要はありません。父上は既にこの事はご存じです」
きゃーーーー!!
菊池殿下きたーーーーーーー!!!
私の推しである菊池殿下が登場ですよ!
口の中のローストビーフを急いで飲み込むと、心の中から「LOVEきくち」「こっち向いて♡」と描いたうちわを取り出した。(妄想中毒)
。。。
しがないブラックOLのこの私。
ある日突然、強い光の中に閉じ込められ、次に気がついた時は異世界にいた。
私は「聖女」として、この世界に召喚されたのだった。
「帰りたい…」そう言おうと思ったが、目の前に並べられた肉、もとい美味しそうな料理の品々から目が離せない。
「これ…」
「聖女様が到着早々お腹を空かしていたらいけないと思い準備しておりました。もしよろしければどうぞお食べ下さい」この場を納めているっぽい人がそう言った。
ゴクリと鳴る喉。
薄給の私。働けど働けど日々の暮らしは楽になるどころか、最近の物価高で生活は苦しくなるばかり。そうなると節約するのは食費であった。
「肉?昨日たべたよ。夢の中で」「フルーツ?いちごの香りの消しゴムの匂いで満足出来るまでになったよ」
そんな私が美しく盛られた料理を断れるわけがない。
でも、黄泉の国の食べ物食べちゃいけないんじゃなかったっけ?と、こんな時に訳のわからない豆知識が頭をよぎる。
「あの…ひとつお聞きしたいのですが…元の世界に帰る事はできますか?」
それでも一応聞いてみる。
「申し訳ありません……この世界に迎える事はできても、帰す事は出来ません…」
「あ、そうなの?うん、じゃあしょうがないですね!」
そうかそうかそれならしょうがない。心置きなく料理をたべよう。
よく考えなくても、帰る理由もなかった。
そうして始まった異世界生活。
私の担当で、何かと世話を焼いてくれるのがなんと「菊池」第二王子だと言う。
この世界には「菊池」がいたのだ。
しかも苗字ではなく、名前のほうが「菊池」
なんでも、昔召喚した聖女様が「菊池 マナ」さんだったそう。
普段は「マナ」と呼ばれていたけれど、当時の王様は聖女の全てを愛し、子どもに「菊池」と名付けたのが始まり。
ちなみにこの世界の人は「菊池」の発音が難しいらしく「キクッチー」と発音している。
菊池第二王子は私に「聖女様は私の事をどうぞ「キクッチー」とお呼び下さい」そう言ってくれた。
そんな事できるかーい!
いくらなんでも「キクッチー」なんてゆるキャラみたいに気安く呼べないわい!
キクッチー呼ばわりは丁寧にお断りして「菊池殿下」と、あなたの街の電気屋さんみたいに呼ぶ事にした。(キクチ電化)
そんな私と菊池殿下は年も近い事からすぐに打ち解け、お互いの世界の話を教え合う仲になった。
。。。
話を戻そう。
菊池殿下の登場に驚くフィリップ殿下。
「キクッチー!?お前何故…父上と隣国へ行ったのではなかったのか…?」
明らかに動揺しているフィリップ殿下を尻目に菊池殿下は続けた。
「行くはずでしたよ?でも父上が兄上の企みを知り、私に残るよう指示したのです。全てを任せるから。と言ってね」
「なっ、何故…父上が…」
驚くフィリップ殿下を前に、菊池殿下は深くため息を吐いた。
「兄上は影を自分のモノとして使っていましたよね?誰が何の為に影を付けたか…まさかご存じないわけないですよね?」
「は?影?私の影は私が自由に使って良いだろう」
菊池殿下は呆れ顔で首を横に振る。
「影は王族を守るため、また、影がいる事で悪事などに手を染めない抑止力にするため父上が雇った者たちです。兄上が何をしたか…当然、影から全て父上に報告が行っています。もちろん母上もこの事はご存じです。母上が泣いていましたよ」
母上が泣いていた。
これを聞いたその場にいた者達はすぐに「ああ、もう第一王子は終わったな…」と悟る。
何故なら、国王は王妃にベタ惚れしている。何を置いても王妃を優先したい人なのだ。
そんな王妃を泣かせたのだから…いくら息子でも容赦なく罰を与えるだろう。
フィリップ殿下もすぐにそれを悟ったようで。
「え…、母上が…じゃあ…私は…」
「そう。父上からばっさりと切り捨てられました」
そう言ってニッコリと笑う菊池殿下が怖い。
「い、嫌だ、キクッチー!どうにかしてくれ!」
「無理ですね。前に警告したじゃないですか。クレア嬢を大切にするようにと。父上も同じ事を言っていたでしょう?」
「そんなわかりにくい警告ではなく、早くに影の意味を教えてくれたら良かったじゃないか!そうだ、じゃあクレアとの婚約破棄は撤回する!これでいいんブヒャッッ!!!」
フィリップ殿下が最後まで言う前に、菊池殿下はフィリップ殿下を殴り飛ばしていた。
紙みたいに軽くぶっ飛んで行くフィリップ殿下。
「いい加減にしろよ?クレアの事を何だと思ってんだよ。影の事だって考えりゃわかる事だろうが」
菊池殿下は、フィリップを殴った右手を痛そうに振りながら「兄上の王位継承権を凍結します。父上が戻るまで、自室から出ないように」そう告げた。
「嫌だ!待ってくれ!クレア!クレアなんとかしてくれ!」
ジタバタと騒ぐフィリップ殿下は4人の近衛隊に四肢を捕まれ、引きずられるように会場から出て行った。
それを見た私。
「ゴムゴムの…」と感想を呟く。
会場に静けさが戻る。
菊池殿下は振り返り、困ったような、それでいてとても大切な人を愛しむような瞳でクレア様を見つめた。
一歩、また一歩とクレア様に近づきその前に跪いた。
「クレア嬢、幼い頃から貴女に憧れていました。そして憧れはいつしか恋心に変わりました。自分の気持ちに気がついた時は…既に貴女は兄の婚約者でした。だから…どんな形でも貴女を支えようと心に決めていました。苦しかった。でもやっと…気持ちを打ち明ける事ができます。ずっと貴女が好きでした。大切にします。どうか私を選んでいただけないでしょうか」
そう言って少し赤くなった手を差し出した。
「キクッチー殿下…」
わがままで思い通りにならないと癇癪を起こし周りに当たるフィリップ殿下とは違い、いつも穏やかな菊池殿下。
クレア様はフィリップ殿下との結婚は政略結婚だと、自分は何かを言える立場ではないとずっと耐えてきたのだろう。
クレア様の頬を涙が伝う。
「クレア、泣かないで?」
菊池殿下にそう言われてクレア様はさらに大粒の涙を溢した。
「私も…ずっとキクッチー殿下が好きでした…あなたと共に歩いていきたいです」
そう言ってクレア様は、菊池殿下の差し出しす手に自身の手をそっと重ねた。
菊池殿下はその手を引き寄せ、そしてクレア様はすっぽりと菊池殿下の胸の中に収まってしまった。
「クレア…選んでくれてありがとう」
どどーーーーん!
たーまやーーー!
これがかの有名な、異世界行ったら必ず見せられる「婚約破棄劇場」かと、大いに興奮していた。
東京ドームを私だらけで埋め尽くし、それぞれが「菊池」「キクッチー」「こっち向いて」「ウインクして」のウチワを上に掲げている。
全ての私がキクッチーの事を信じ、崇めているのだ。
私の心は「最」の「高」と「満」の「足」で満たされた。
私の感動がどれほどか…伝わったであろうか…
「我が婚約者はまた異世界に行ってしまったようだ…」
余韻に浸っている私の元にシエルがやってきた。
手にはお皿に美しく盛られたローストビーフやサラダ。
それを「どうぞ聖女様」と優しく微笑み差し出してくれる。
私が異世界に召喚された時、肉に気を取られてよく覚えていないが、あの場にいた「この場を納めているっぽい人」がシエルであった。
菊池殿下の側近のシエル。
菊池殿下と共に色々と私の事を気にかけてくれた。
菊池殿下が忙しい時は、シエルがそばにいてくれたのだ。
そしていつしかお互いに惹かれあっていた。
お互いの気持ちを確認した後、きちんとした手続きを行なってから私たちは正式に婚約した。
「シエル、ちょっと言ってみたいんだけど、いい?」
それだけで私の意図を汲み取るシエル。
「どうぞ。でも小さい声でお願いします」
「シエル!私は貴方との婚約を破棄します!!」
これよこれ。
ヤンキー映画を観終わった後に、何故か自分もリーゼントになった気分になるのと同じ感覚なのかもしれない。ちょっと違うかもだけど。
「婚約破棄ですね?いいですよ。でもそうしたらローストビーフは食べられなくなると思います」
「え?絶対嫌」
「ですよね〜?聖女菊池様?」
そう。私の名前は「菊池 聖」
シエルは「菊池殿下」と「聖女菊池様」に囲まれたため「菊池」と「キクッチー」の使い分けを修得。
日本人なら100%使い分ける事が出来る「菊池」と「キクッチー」であるが、この世界ではなかなか難しかったらしい。
「ふふ。もう一回言って?」
「はい。何度でも。聖女菊池様」
この世界で聞く「菊池」はなかなか心地良い。
菊池祭り作品になります。
菊池祭り?最近あちこちに菊池がいるけど?あれなに?
コロンがモチベーションを上げるために「全部の主人公を菊池で書こう」と、思って始めた一人祭り。
賛同してくださる方々がお祭りに参加して下さいました。
主人公が「菊池」ってだけのゆるゆるなお祭りです。
もしも「ばかばかしいけど参加しても良い」と思った方は、どうぞタグに「菊池祭り」と書いていただければ参加可能です。
詳しくは活動報告にてご確認ください。
拙い文章を最後までお読み下さりありがとうございました。
誤字脱字がありましたらお知らせくださると、ありがたいです。
一部訂正いたしました。