丹沢哀歌・笹井宏之賞応募作品(1)
ここなるは丹沢ふもと青春を過ぐしし地なればやすらぐべきを
見はるかす山端の朱色ゐのこりてあふぎみすれば中天満月
ベランダに出づれば強風身にすがし街の灯一望ここちよきこと
唐突に夜空に花火上がり出づはつかなりともわが憂さ晴らせ
夢花火いくばくもなくうち終り残滓のけむりいち黒く流る
山郷はいかづち多し風強し怖くもすがし五階なればや
放電の暗雲おほふと見るほどに二の塔山頂いかづちの落つ
団地五階最上なれば灯を点けぬ我のみならず誰も怖がりて
西空にいかづち幾条走れるか天帝鉄槌おろさるめり
丹沢の戸川の里の綺羅綺羅社悉皆ひとを見ず何の何教なるや
山肌に霧けるしらくもかかりゐてふもとの煙上り来て和す
山々ゆ裾野に霧けるかすみ雲自転車か徒歩か迷はせつつ
台風は21号戸川にてはいささ雨なり掃除もしくれぬ
望み絶ゆ又貸し爺の部屋に来てクズしきヤー公吾がり住まへり
悪中にわれのみ放られて実存のいつまで続く限りはあらぬか
三度四度はた幾そたび追ひ来るものか云ふも甲斐なきストーカーうから
寝ては覚め寝ては覚めつつ夜を過ぐす函谷関かは我が睡眠行
サルうからけふもけふとて夜鍋ごとフレディ勤めの悪行に徹す
※フレディ:エルム街のフレディ。
あまりにもこはなかなかにわがたづき寝も遣れずんば生きも生き得ぬ
いま何時草木も寝むる丑三つに書くも書くなり盗るも盗るなり
ドアカメラ付け悪しき者らを撮らえてんさていかならむ証拠得らるるや
最善の一手はなんぞ打つべしや四面楚歌なり虞美人もゐず
あしたよりまめだち勤め捜したしさてもいづくにまひろうべしや
松田駅始めて降りるがあやしかりもばら東名もとほりゐつを
我はこのハローワークの巡礼ぞ秦野・松田とお札もらはな
足柄の駅には何もなかりけり仕事求めてけふここに来しも
金時のすこやかなるにわづかでもあやからむとて来しともなくに




