第7話ー曖昧の終止符
「たく、ごめんね泣」
「私が悪かったの」
「たく!無視しないで、お願い......」
「今どこ?」
「ごめんなさい、本当にごめん泣」
しつこく感じるはずなのに、なぜか僕は今思うのは、心配しているのは、彼女の気持ちにほかならないのだ。
人差し指で人生今まで一番早いスピードで軽く返事をした。そして彼女はものすごく速いスピードでメッセージを打つ。チャットルームにパッと吹き出しが目の前に飛び出した。
「今電話できますか?」いきなりの敬語は自分を一層不安にさせてしまい、眼球がくるりと回し、僕にとって彼女はどういう存在なんだろう?うるさいか?いや、違う、そう感じはしないのだと、僕はなんだかわかっている。彼女は一体、いや、僕はいったい何を考えているのか......。扉を全身の力を込めて強く押すなり、外からさっと吹いてくる乾いた風は肌を刺すような、寒くてひんやりとする。空気に混じった流れていた自動車から排出された大気汚染物質を、僕は少し嫌だと感じながらも、思いっきり吸い込み、心を落ち着かせてみた。
夜11時30分。空は真に黒く、暗雲に遮られた星々が僕を嘲笑う。お前はなんもできねえやん!、考えることすらできねえじゃねえか!って、幾つの貶す言葉をまるで誰かに真っ向から立ち向かって、バカにされて笑ったり言ったりされたような、相当真実で恐ろしい気持ちが襲ってきた。僕は下を向いてチャット画面を凝視する。彼女は今ももがいているのか、それとも僕だけなのか。答えられない質問が頭の中におびただしく滞って、僕の思考回路が壊れたロボットみたいに不器用になった。
「ごめん、今友達とカラオケ」何も考えられなくなった僕は適当に今の状態を述べて送り、カラオケルームに戻った。
お酒を一滴たりとも飲まんかったのに、何か熱いものが込み上げてきて、胸がジーンとした気がする。何粒でもこぼれ出した涙は冷奴に落とし、トレーシングと巧妙に絡み合って、甘しょっぱくなっていた。
「ドンッドンッ!」メッセの通知音が私の目をスマホに移させた。たくの返事だ。きっとしつこく感じてむしろ話したくなくなっただろうと思い、親指をホームボタンに長く置き、「やっぱり......」
まあ、せっかくだから、動画でも撮ろうかなー
そう決まると、私はカバンの中からクオリティーが高くするために夜市で買った三脚を取り出し、素早く机の上に立たせ、脚ロック部をゆるめて脚を伸ばし、スマホをホルダーに挟んでしっかりと固定すると確かめる。
たばこの匂いがなし、落ち着きと洗練された空間の中にやさしく和やかな空気が漂い、私は深呼吸する勢いで一口吸い込む。その刹那、ほのぼのした気分に心が和んだ私は強いて口角が上がって笑顔を作る。カメラを開けて鏡としてチェック。涙はほぼ乾いたから大丈夫。よっしゃー、5、4、3、2!赤いボタンを押されるや否や、私は挨拶し始めた。
「みなさん、こんにちは!桜井さめきでーす!今日はみんなに居酒屋で使える単語やフレーズを紹介したいと思いまーす!」
「遅いなー!今度こそお前の番やで!」
「ほいほーい!」誘う人は僕なのに、一緒に楽しめなかったことに対し僕は申し訳ない思いを込めて軽く謝り、マイクを手に取り、歌おうとする。
「たく、あの姉さんとどうなった?」左のほうに座っているゆうしは急に口を出して聞いた。さすがツバサ、あちらこちらで口外し、僕とゆりのこと、その価値を一瞬で台無しにされてしまったと、僕は強くつよく思う。
「え?別になんもなかったよ?」穏やかな調子で答えた僕の胸の深くのほうではやたらと不安になる。全身が、微かに震えている。
「彼女に何も言われへんかった?」とツバサ。彼らの真顔を直視することができない。明るく賑やかな曲はまだ部屋に流れている。僕はじっとテレビを見つめる。目の端で2人にも疑いの眼差しで見られることを、僕は捉えている。部屋の温度はわけわからなく下がった感じがする。体温をキープするため、素直に答えへんと低体温症が起こるに間違いない。
「まあ、逆やけど。電話できるかとか」
「へえええええーー!」ツバサとゆうしは期せずして目をカッと開き、信じられへんと言わんばかりの顔で声を揃えて張り上げた。
「じゃ何で電話せんかったの?」納得のいかない顔をしかめて、ゆうしは怪訝そうに僕に問う。
「わからん」と素っ気なく答えた僕は、傍に呆れているツバサとゆうしに目を向ける。
「ほら〜見てー!器はどっちでも高級そうに見えるよねー!」私はそれぞれを指差しながら、単語を教える。
「この上品なお箸も、握るだけで心が癒されたよね!お箸の中国語はー筷子(kuài zǐ)」
いやー楽しいー!値段はやや高いけれど、たまにも思い切り500元払って贅沢な食事を楽しめながら心を休ませることも別に悪くないな、動画も撮れるし、動画のテーマを悩まずに済むのだ。私は頬を綻ばせて、気にしなくなった静かなチャットルームを入り、軽く短いメッセージを打ったら素早く画面を閉じ、再びスマホを机に置く。引き続き残った枝豆を私はエレガントに食べていく。
ミュートされた空間の中に、僕のスマホをツバサに取られた。空気が凍ったり薄くなったりまずくなったりした。できればほんまに穴を作って逃げたいけど......けど、足が......動けない。
「やばー!」
「やばいでしょ?」チャット画面に目を凝らしている2人の反応にひきかえ、向こうに立ってる僕はどうでもいい口調で平気に返した。
「まずい、」と心配げなゆうし。「見ないかい?新しい返事よ?」
「え?」スマホの画面をツバサは変わって僕の方に見せてくれた。僕は口を開けたまま、いつの間に現れた返事を睨みつける。
「さめきさんは、何も言ってくれなかった、連絡先も交換せんかったし。ごめん」
やっぱりかー!彼の話を聞いて、謎めいた雲は散って、澄み渡り始めた空の真ん中から差してくる曙光が見えたように、気持ちが一瞬晴れてきた。
「俺が悪かったから、お願い、たくしか直せない。」隣にいるゆうしは同感でうなずいた。
僕は無言のまま考えながた、ゆるりとツバサの伸ばした右手からスマホを取り、目を伏せて、じっと画面を見つめる。
「居酒屋で泣いた。」
外のアスファルトを走る車はだんだん少なくなり、何もなかった夜空の端からぽつんと光っている半月は潔く淡く、静寂に満ちた街をくまなく照らしている。2人の顔を見上げ、今すぐ何をすべきか、僕は分かっていた。
「ブルッブルッ」チャットアプリから着信音が穏やかな空間で唐突に鳴り響く。周りの喋っている客の目を引きつけた。
私は慌てて両手のひらでスマホを遮る。いや、あまりにもナンセンスやん!鮮やかな緑色の通話ボタンを間髪を入れずに私は押し、慌てふためく席から立ち上がり、歩幅を広くしてレジに向かう。せっせと食事代を払って、せっせと店を出す。
「も、もしもし?」
「泣いてるの?」最近彼は共通テストの勉強で結構忙しくて、12月中旬以降の電話は、中国語を教えられなくなり、彼は勉強机に向かって洋楽を流れっぱなしの雰囲気で自分に集中させるのだ。興味ない洋楽の曲を聞くとむしろ集中できるというたくなりの勉強法だ。勉強終えたら、時折無言から抜き出し、くだらない話を軽く喋る。そのまんま寝落ちしちゃう。一番幸せを感じるのはこの時だ。たく?たく?柔らかい声で確かめる。寝ちゃった?と、弱々しく聞く。添い寝してる彼女みたいに心が溶けそうなほど耳元で優しく囁く。
「おやすみ。」彼の寝息を聞いて、心が落ち着くことも楽しめるのだ。そばにいてくれると安心して目を閉じたら、夜明けまで電話が繋がりっぱなしもありがちなことだけれど、断言したら片方だけが密かに思いを寄せる。彼からの心配は滅多にないのだからそう聞かれて、心がほっこりしたのだ。
「......どうしたの?」返事をもらえず、たくはさっきより緊張感が高まり、心拍のリズムが乱れたまま、再び聞いてみた。
「いや、別に」こりゃ間違いなく大嘘だと僕は分かっている。僕たちの性格は違っていても、弱さをひたすら隠す強がりは一緒だ。
「居酒屋で泣くのはすごいね!ゆりは泣き虫だね!」
「ゆりは泣き虫じゃないの!」彼の話になんとなくキレた私は、泣き出しそうな声が混じり、つばを飛ばす勢いで叫んだ。刹那、歩道橋の上吹き抜ける風の匂いが頭に貫く。胸を焦がすほど切なさや寂しさが心の底から同時に湧き上がって、悲しい曲になり、冬の名残に響く。
「泣いてるやん!」
「あっ......あんたのせいじゃね?」
「まあ、な。ごめん」
「いやいやいやいや、ぜん、全部あたしが悪かったんだ」どうして?たくの謝り言葉が耳に入ると、胸が熱くなるほど心の痛みを切実に感じたのだ。だから、あんたからのお詫びなんて、いらない!
心から発した言葉は怒涛のごとく台湾と日本の黒い夜空に響き渡った。たくはおそらく私の切なさを感じて、少し怪訝そうだった。
「どうした?急におかしくなって」
そっかー!最近なんだかメンヘラ気質を強める一方で、寂しがり屋なんだと気づいたらすぐ自分を責めてしまうのだ。そして救ってくれる人はいつも彼なのだ。気になる人も、焦せらせる人も、一生守りたい人も、さらに愛しい人もすべて、同じ人、同じ名前、同じ体温だ。不意に声を触ったら安心できるあの人のこと、叶わぬ恋だと知りながらも、思いが募るのだ。
「ゆり?ゆりちゃん?」
「あっ......はい!」名前の後ろにちゃんをつけられたことは何度でもあるが、たくには初めてだ。少し驚いて恍惚から覚め、意識はだいぶ戻ってきたとしても、恋に落ちる瞬間しか生じない感覚やそれなりの匂いはまだ心臓の鼓動を激しくするのだ。
「たく、やっぱー」
「ぼくのことどう思う?」
「え?」予想だにしていなかった質問が彼の口から飛び込んできた。普段あんまそういう質問をしない彼は、今日、今夜、只今、聞いてきた。
どしゃぶりの雨に打たれたような、一時的に激しい感情に襲われてしまい、返事をすることはおろか、返す言葉を考える気力すら失ってしまった自分は大嫌いだ。
「わかるやろ?」私の反応に少し苛立ちを感じたたくは、焦る気持ちを全身の力を込めて抑え、私の本音を待っていたことを、なんとなく理解している。思い切りやろうか!彼に嫌われないため。
「好き......なんて絶対いうもんか!」
「なんで?」
「だって、好きと言っても全然無理やん!私のことそっちは全然好きじゃないし......」人生一番恥ずかしいことこの上ないに決まってると私は思う。気遣いをする時の彼、中国語勉強に熱意を持つ彼、ありふれた愚痴をこぼしたら、優しい風が吹いた陽だまりのような笑顔がほころぶ彼、伸ばした手で仄かな光を掴み、私の手のひらを広げて、その暖かさをこれからも見守るよと言わんばかりの優しげな眼差しで渡してくれるような、どの彼でも大切にしたい存在だ。
もし彼がいなかったら、今の私もいないと確信してきた途端、彼は凡人じゃ決して聞き取れない速いスピードを出して、言う。
「なんでてっきり僕はゆりのこと好きじゃないと思ってるの?好きじゃないわけじゃないかもしれない場合もあるじゃない?」
いやいやいやいや、ない多すぎるやろ。全然聞き取れんや!それなのに、おそらく彼と長い間喋ってきたおかげで、その中に挟まれたいくつか重要なキーワードが、私は聞こえてくるような気がした。ちょっと、確認してみようか。
「え?」
「いや、別に。」そっけない態度はいきなり彼からされてしまい、瞬時戸惑った私は思わず、悔しさをあらわにした。
「へえええええええー!そんなー!」
......。
......。
「はっきり言えよ」
「イヤだ」