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あの日の約束  作者: 桜井さめき
5/10

第4話ー宝石をばら撒いたような星空、美しく遠く

 朝日がまだ昇ってないうちに、小籠包を買うために外に出かける。朝6時。暁の爽やかな薄明に、かすかに白みはじめている。頬に当たる空気はひんやりと冷たく、私は不意にポケットからスマホを取り出し、風を遮るなり、眼前にあるホーム画面で一瞬ちらつくチャットアプリのアイコンが眩しく感じた。


 ミニ餃子やら伝統おにぎりやら焼餅やら様々な朝食をレジ横にある長いテーブルにずらっと置かれる。お店の隅に置いてあるステンレス蒸籠は5段の透明な引き出しがある。中に詰め込まれた蒸し立ての伝統饅頭や肉まんを湯気に包まれて、ぼんやり見える饅頭を私は1つ挟み出し、ホクホクの匂いだけでも美味しさがはっきりと伝わる。レジに行って、私は饅頭を屋台で買った小籠包の上に乗せ、サンダルを履いてるおじさんの後ろに並び、お勘定を待っている。

 伝統の朝食店の共通点はいくつかある。規模が大きく、24時間営業、繁華街でない場所によくある。私の勉強している大学の周りには何十軒もあり、稼ぎやすいかと思いたくなるほど次々と出店しまくっている。

 私は広いテーブルに座り、スマホを手に取り、先眩しいと感じさせたアプリアイコンを押して、すいすいと指で覗いてみる。知り合って2ヶ月も経った今、たくのタイムラインを見るのは初めてだ。

そう、今更。


(3ヶ月前)初めて投稿しました、よろしくお願いします。

(2ヶ月前)ラーメンうまかったー

(1ヶ月前)ひま。

(1週間前)久しぶりに徹夜した


 「1週間前?その時は......」私はじっくり考え始めて、瞬く間に光が頭の中に走って、はっきりと思い出した。その日、真夜中に、私たち2人話した......。心の隅っこから微かな光がぽつんと輝く、彼の世界に、私はいる、ということは友達が極めて少ない自分にとってすごくよかった、この上ない幸せを私は強く感じている。


 愉悦に浸っている時、通知音が鳴いた。彼からのメッセージなのだ。電話に出るや否や、私は現実に戻ってきた。

 「ごめんね、12月から電話無理やわ。」

 「え?どうかしたの?......」変に胸が締め付けられる気持ちが湧き上がって、嫌な予感はまして息苦しくさせてくれた。

 「進学するため、毎日勉強せなあかんし、母さんに電話禁止されたし」

落ち着いて考えたら、まあ確かに、たくは今年の高3生、来年の受験生だ。甘えるじゃダメとわかっても、せめて......少しでも......震える手を合わせて、私は心の中で祈った。

 「じゃ......あの日の約束は?中国語を教えること」

 履歴書はすでに助けてもらったので、今まで続いてきた中国語の勉強、実はやめても別に構わないのも、私たちは知っている。けど中国語の勉強はこのまま続けたいという気持ちも、お互いある。

外の風はどんなに強く吹いてきても、アスファルトを走っている自動車の音はどんだけデカくても彼の深く吸い込む息の音ははっきり聞こえる。

「中国語は、途切れてはいけないもんだな......」心を痛めるほど弱々しい声で、彼は言った。

「中国語のみならず、勉強ならなんでもせやろ?」

「ええ...」と、小さく呟いた私は何かで驚かれた気がして、。締め付けられた心もだんだん緩めたような気がした。そして、微笑みをこぼした微かな音は、普段日本語の聞き取りはクソ下手の私でも耳元をまっすぐ通るように、澄んだ音は優しく耳元で響いた。

「できれば僕は、中国語を勉強し続けたいって。」

刹那、ひまわりが太陽を向いて咲いてくるような、晴れた気持ちは口角を上げさせた。これ以上感心させられたことはないんだ。

「うん、私でよければ、中国語を教えて続けたいと思います!」

実は、たくと知り合って以来、私の中国語を教えるチャンネルの登録者数はどんどん増えてきて、元々YouTuberを諦めようと思った私を救って、やる気をいっぱい出して様々なジャンルの動画を撮ることができ、雨が降り止み、暗かった空にかかっている灰色の雲がだんだん広がって薄雲になり、明るく澄んでる空に、ぼんやりと現れた虹の真ん中、一筋の光がそっと差し込んだ。


 「来月になったらできるかどうかわからんけど......」大丈夫。私は心の中で即返事した。私はきらりと光る希望という名の光を掴みかけたように、心強くなった。どうなってもいい、短くてもいい、あなたは希望を連れてきた虹だからこそ、消えても永遠に輝いていると私はホッとしながら心の中で言った。



*  *  *



 静寂な夜空に、暗い雲が徐々に流れ、ぼやけた空にやや明るい灰色がついてくる。折り畳みベッドガードの隣に置きっぱなしのスマホが突然明るくなった。朝5時のアラームだ。目をつむったまま、私は手を伸ばしてアラーム音を探す。どこに置いたっけ......。私はさらに手を伸ばし、パッと押すと、音が止めた。

雲の隙間から仄かな光が漏れ、空が白みはじめる前に、私はチャットルームに入って、声の調子を整え、電話をかけるボタンを押す。

 電話の向こうからやはり寝起きの声、だるそうに聞こえても必死に声を出すのも強く感じた。

 「お......おはよう......」

 「おはよう!昨日約束したよね、早く起きてー」こっちは10時からの授業。たっぷり寝ても全然平気くらいの時間でも、たくのために(自分のためにでも)、こんな早い時間に起きて、強いて元気を出させることはどんでもないのだ、しかも......

 「しかも何?」顔を洗って、歯磨きをしたたくは自然に本調子になって私を問う。

 「いや、別に」

 「じゃ、あぁ〜」伸びをしながらあくびをして、気分はなんとか爽やかになった。「やろうか!」

 「はーい!じゃ昨日の続きね」「31ページだ」「そう!前の内容復習した?」「うん!昨日は大変疲れたから少しだけ復習した。」満足げな声とともに耳元に届き、安心した。話題を変える作戦も大成功だ。

 「いいね!前に学んできた知識が本当に頭の中に入ったか確かめるため、小テストも用意した、チャレンジしてみない?」

 「よし、かかってこい!」テスト嫌だと思いがちな高校生かと思いきや、彼に嬉しそうに元気一杯で応じられた。綻んだ顔を見上げ、淡い水色に染まった空はすっかり明るくなり、彼の嬉しい声の残響が回っていて、ぽっかり浮かぶ雲の隙間に美しき消えてゆく。



 しかも、たくの声を聞くだけで、頭と身体、腕や足、そして心に至るまで元気を一瞬で取り戻すことができるのだ。


 言ったら失うと信じているこの言葉を心の奥に、私は丁寧に隠した。


 「じゃ、そろそろ学校行くわ」制服ブレザーを着て、テーブルの上に置いてる先からずっと食べたかったのに、中会話を勉強するため、食べる余裕がなかったパンを持ち上げ、

 「今日もありがとう、じゃな!」と、たくは満足げに言った。腕時計をチラ見、朝7時だ。時間が過ぎるのが早いと感じながら電話を切り、学校に向けて家を出た。



*  *  *



 黎明を迎え、徐々に明るくなる空。日の出が鮮やかに染め上げる平静な空。雲の絶え間より出づる朝日が微かに照らし始めた空。毎朝、電話をかける直前空色を確かめることはいつの間に毎日の行事となった。


 美しい朝日に包まれて目覚めた朝。前日から降り続ける雪が染まった真っ白な朝。ほんのりと明けた空に漂っている大雨の匂いと混じった着信音に起こされた朝。毎朝、電話に出る寸前、空を見上げることは当たり前のようになって、もしこの日に顔を上げてないと、いつか何か起こる時が来るのかも。


 「ね〜今度は5時半に起こしていい?なんか5時はさすがに、」

 

 早過ぎるわ

 早過ぎるわ


聞き分けのづらいスピードで、2人はまた同時に同じ言葉を口にした。

わかる。お互い分かっているからこそ、毎日電話でやり続けるのだ。


先月に予告した電話できないことは2人の仲良さとともに泡のようにふわふわと舞い上がり、遠くの空に消えてしまった。


 「じゃ今回何する?」

 「まあ、やっぱり実用的なやつでいいよな、挨拶とか」

 「へーいいね!じゃ1日の始まり!」

 「おはよう!」

 「早安!(zǎo ān)例えば、お父さん、おはようございます!の中国語!」

 「えっとー待ってよ!」彼の声は快晴の空を飛ぶ鳥のごとき、自由に飛び回しながら前に学んだ知識を頑張って思い出す。「分かった!爸爸,早安!(bà ba zǎo ān)」

 「正解!」「やった!」歓声を上げ、心臓が喜んで跳ねているくらい嬉しく感じるのは久々なのだ。彼の弾んだ声から普段どれだけ一生懸命に勉強しているか、その真面目に机に向かっている様子を、私は妙に感じる。



                  *     *     *


 

 憂鬱を秘めた茜色、今日は小さな雲片が多数の群れをなし、集まって水面の波のようにした雲が濃いバラ色に染まり、夕暮れの空一面に広がっている。何か悪いことでも起こりそうな気配が、僕がした。


 刹那、身体を震わせるほどひんやりとした冬風が地面に集められた落ち葉を吹き散らし、あたりが暗く始め、空色の変化が激しく、空の下に雷のごとく枯葉がふかふかと大きく響いている。


 メッセージの通知がきた。いつにも増して大きく鳴る音、地震が起きたかのように、部屋で乱暴に振る舞った。


 「日本航空のインターン選考、落ちたって」

 「へえええ!!まじか......大丈夫?」自分自身に起きたことじゃないくせに、なぜかこの気持ちはまるで岩石が心の底に強く重く落とすようで、よほど悲しみが湧き上がってきた。

 「ごめんね、こんなに手伝ってくれたのに......」暗闇に怯えるゆりの声が強烈な電流のように胸を真っ直ぐ貫いた。僕は慌てて慰めの言葉とか何とか探そうとする。

 「いや、あのう......僕は別に大丈夫だよ、ドンマイ」


 なんだこのうそくさい慰める言葉、彼女にとって、きっと僕より百倍も辛いんだろうと、僕は殊に思いながらにっと笑って、励ましてみた。

 「ゆりはこんなに頑張ったから、次回はきっと大丈夫だよ!」

 「うん、わかるよ!ありがと!」爽やかな返事は電話の向こうから僕の耳元に予告なく響いてくる。その時一瞬、僕はアホになったかのように、口を開けたまま呆然としている。

 「なんか、元気を取り戻すの早いね」

 「それは当然、たくがいるからなんでも大丈夫やで!」

 「まあいいけどさ、頼りすぎじゃダメだよ?」

 「はいはい〜」

 「ちゃんと話聞けよもう!」

 「てか昨日教えた部分、復習した?」なんと完璧な無視。僕は椅子から立ち上がって、自信満々に声を上げた。

 「もちろん!復習したよ」

 「じゃテスト、」話が終わるか終わらないかのうちに、パソコンのキーボードをカチャカチャと叩く音が速やかに鳴り渡る。

 「待ったなー!」スクショの音を微かに聞こえて、マックのキーノートで作ったらしい問題集が眼前に現れた。

 「あ、今回の簡単そう!いいよじゃやるわ!」

 「待って、やり方わかる?」心配げな声が届き、拡大された問題集の画面を僕が睨んで、気楽に返した。

 「まあ、上半の穴埋めのA、B、C、D、Eは下半のア、イ、ウ、エ、オの中に相応しいのを選んで括弧の中に入れるやろ?」

 「そうだね、てへへ......」決まり悪そうに、彼女はちょっと笑って見せた。僕はノートを手に取り、ちょっと待ってやと、言いつつ穴埋めの文章を空白のところに書き始めた。多分さらさらと紙の上を滑る鉛筆の音を聞かれたもので、彼女は胸騒ぎがして、不安げに言う。

 「え?何してるの?ア、イ、ウ、エ、オだけ書いていいよ?」

 「これ、全て実用会話やろ?なのでそれぞれノートに書いたらいつか使うかもしれないよな」


 驚きのあまり、彼女は呆気にとられた。そこまで真剣にやってくれる生徒はたくしかいないと思われているとなんだかわかっている。言葉にできない感動は、見えない糸を通じてちゃんとここに届いてきたゆえに、彼女の表情や胸に秘めた気持ちが、言われるまでもなくわかっている。

 「たしかにね!じゃ書き終えたら教えてね!」

 「書いたよー」

 「じゃ、10分スタート!」

 「え!?早っ!」驚いた僕は慌ててぽつんと机に向かって、せっせと鉛筆を動かし始めた。

 この間毎朝会話やら単語やら勉強してきた僕にはもはや慣れたから、前回よりすんなり理解でき、自分の思い通りにやれるようになってきた。そして彼女はきっと、呆れながらも感心してくれたのだと、僕は強く思う。



             *        *        *



 時間が終わった。いつも通り、彼はスマホでノートを撮影し、チャットルームでアップロードした。私は写った写真をトントンと押し、高校生なりに書いた中国語や日本語を整然と並ばれて、束縛なく紙面に舞っている様子を、私に慕われている。

 「ありえない......全部......正解」私はスマホに向かって睨みつけながら、ポカンとした顔で囁く。

 「え?!まじで?!」

 「うん!おめでとう!」日々連綿と続ける努力は必ず報われるから、どんなことがあっても絶対に諦めないで、という言ったことのない励まし言葉は証になって、彼から輝くように見えた。


 「てか明日旅に出ようかなと」

 「え?!いきなりどうした?」

 「いや、別に。ただ1人で気分転換したいなぁって。明日の深夜12時、出発するとき電話するわ」


 夜空に舞う幾千の星がキラキラときれいに輝いていて、明日は旅行に行けるような晴れる日と予告された。彼からの電話、明日の深夜12時だ。嬉しく感じるのか、心配するのか、それともワクワクしているのか全てわからず、ただ1つだけ確かなことがある、


 「どうして、私と電話したいの?」ありふれた風景である電話する事は今夜なんとなく訳ありと思って、期待と不安を胸に抱きながら、彼に問う。

 「なんか深夜の街は真っ暗で怖い気がするから、歩きながらゆりと一緒に話せば、そこまで怖くもないし、落ち着けると思う。」照れ笑いを浮かべて、たくが言った。


 げ。りんご色に染めた頬が一瞬熱くなり、耳まで赤くしてきた自分は期待してるからドキドキするのか、それとも緊張、いや、ありえん、電話はほぼ毎日やってるくせに、いい加減慣れたはずなのに......


 ドキドキの理由、確かめたとしても、絶対に認めない、認めたくもない。








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