第2話ー君がいるから
「これで大丈夫やな!」たくさんの文字をA4サイズに詰め込んだ履歴書用紙を印刷して、写真を撮った。
白い紙に詰め込まれた黒い文字は大盛りの親子丼みたいに、履歴書という名の食器にたっぷり入ってる、お米の一粒一粒に艶があり、上に明確に伝えた考えや経歴、理性や感性をうまく調和された人生の物語や前向きなアピールをふんだんにかけて、きれいに見えた。
この履歴書を誰かに見られても、有能な人材しか思わないやろ。と、彼女は思いながら、宝物のような彩り鮮やかな親子丼を日本語学科の事務室に持って行った。航空会社の大手企業のことだから、書類選考の段階で落ちたら、面接を受ける機会もないと、彼女はわかっている。
* * *
私はカバンを背負って、放課後の教室を飛び出す。
僕は自転車に乗り、イヤホンをつけて、混み合った街を抜け、いつもの狭い道へ曲がった。
工業都市の臭い空気や愛河という名の川から漂っている不思議な雰囲気と混じって、ぼんやりとした空に雲が薄い、この辺に住んでる人たちみんな忙しそうで、雲が流れるかどうかは一瞬たりとも気づいてないだろうと思った私は交差点を渡り、焼けた夕日の方に向かっていく。
夕日に染まった空がだんだん暗くなり、今日は茜色だった。僕は風の流れに沿って、駐輪場へまっすぐに進む。
アパートに入り、管理人さんに軽く挨拶をし、エレベーターの中に人がいないことを確かめ、私は乗る。
僕は家のドアを開け、
私は部屋のドアを閉める。スマホをポケットから取り出し、あの大切にしたい恩人に返事。
ただいまー、と元気を出せずに言った。疲労が蓄積した重い足を玄関に踏み込んで、瞳に映ったのは散らかったテーブル。僕はランドセルを下げ、スマホのロック画面を解除したら思わずあのアプリを開けた。
「あ、印刷してきたか!」自分のことじゃないのに、なぜ嬉しく感じるのか自分さえも知らない。
「うん!これからは書類選考の結果を待つしかないのだ。」私はスマホのキーボードを叩いて、すぐに来た返事を見るだけで気持ちが明るくなり、学校で出来た悩みが一切消えてしまい、外からまっすぐに透き通った希望の光が顔を照らし、その眩しさとかすかに混じった秋の匂いが心地よく感じた。
「これから何するの?」
「動画撮影するよ」
「え?もしかして、ユーチューバー?」
「そう!日本人に中国語を教える台湾ユーチューバーだよ」とっさに、希望という名の光がカーテン越しに差し込んできた。仄かな明かりに照らされた頬がみるみる赤めたたくは思わず口角が上がり、とろけそうなほど甘い笑顔になる。
「すげえ!僕も興味あるけど」
ぽつんと現れたメッセを読んだとたん、今まで経験したことのない喜びをただいまこの時空、この不思議な世の中、この狭い部屋の一隅に立ち上がった私は深く、ふかく、感じていた。
「私でよければ、無料で教えてあげるよ。」
「え本当?!やった!ちょっと申し訳ないけど。」
「じゃ約束するね。たくは私の履歴を協力してもらって、私はたくに中国語を教えたらどう?」
「へー!いいね!僕は最近中国語のテキストを買ったばっかだけど、それを使っていいよね?」
「うん、それでいいよ。」
昨日買ってきたレトルトカレーを電子レンジで適当に温め、ご飯の量も適当にフライパンに入れて、フライ返しで適当に潰し、あらかじめ切った人参やじゃがいもを入れて、しっかり混ぜた。
「たく?」耳を澄ませて電話の向こう側の何かをする音をじっと聞く。いきなり返事が来なくなって、本当はどうでもいいのに、なんとなく心臓の鼓動が強くなり、余計な心配までも......
「ごめん、今カレーを作った。」十分に注意しながらレトルトカレーを盛り付けたご飯の上に流し込みながら、彼は言った。
「たく〜」
「どした?」彼の優しい声をさりげなく心の奥まで響かせた。部屋の天井にぶつかった残響が間断なく続けている。私はその余韻を浸って、笑顔が不意にまぶたに浮かぶ......ゆり?ゆり?聞こえるー?、と確かめてきたその無垢な声が耳元に届き、白昼夢に浸っていた私を起こしてくれた。
「あ、はい!」私は慌てて返した。あー危ない。「じゃどこから?」バレないために、やろうとする事で柔らかくされた雰囲気を被った。
「あ、最初のページからお願いね!」たくはピンク色のテキストを丁寧に開けて、最初のページを開き、スマホで撮って一枚ずつチャットルームに送った。
私はどんどん送ってきた今日の分を一枚ずつ指で押して拡大する。中に描いてある人物の会話、きれいにまとめられたその場面で使うフレーズ、右欄にずらりと並んでいる例文、全て......全て......
中国っぽい!台湾人はそう言わないけれどー。あまりにも私の不満な気分を気づいたたくは、むしろ平気でそう言ってくれた。
「まあ、一緒じゃね?」
一緒じゃねえよ!私は心の中で強く反抗した。でも、彼に楽しく教えるために、受け止めないまでも、偏見を捨てて中国語の日常会話はもちろん、真理に至るまで正しく伝えることが必要だ。たくは悪くない、悪いのは涙無しには語れない黒歴史、今までも、そういう感じじゃないだろうかと、私は小さく息を吐いた。
「じゃやりましょうか!」
「はいよー」また来た、ただの短い返事なのに、声を出してくるだけで心をほっこり温めて、誰も代わりになれない優しさが血管を通して、脳へすーっと流れていき、その刹那あとは心身とも癒された。
「もしもし?」
「あ、はい。まずは一番上にあるテーマー『問候』。意味はご挨拶ね、読んでみて。」スマホを握り、彼が撮ってくれた最初のページを見ながら頭の中で整理し、教え方を考える。
「『問候』。」彼は読んでみた。こんなにもきれいな発音を聞くのは初めて、読み方も台湾人にそっくり、咄嗟に、言葉だけで伝えきれない感動が胸にぐっと来て、もっともっと彼の中国語を話す声を聴きたくなった。
「すごーい!本当に台湾人に似てるんだ!」
「えーまじで?!」
「まじ!!じゃ’それからアパートの前に男の人と管理人さんの会話ね、男の人は『早上好』と言った。『早』は早いでしょ、だから時間は朝だ。」
「へー」
「朝の中国語は『早上』、『好』はこんにちは、『よい一日を』という意味も含めるよ。じゃここで一回読んでみて。」
「『早上好』」ぐずぐずと自信がなさそうに、たくは復唱した。まだ磨いてない玉の声で。
まあ、台湾人はあまり『早上好』と言わんけど、日常会話は言えないかな。
我慢できず、つい言い出してしまったけれど、彼は逆に興味津々で楽しそうにやったり聞いたりした。「そっか!じゃ台湾人は普段何を言うの?」
いい質問だ。確かに台湾人自身はあまり考えたことないよな。真面目に見えるこの不思議な高3生からこういう質問を次々と投げて来て、そして負けないように私は素早く答えた。
「台湾人なら『早安』でいいよ。はややす、早くて安い。この漢字の覚え方はどう?」
「確かに覚えやすいね!ありがとう!」
正直言えば、これは日本語を学んでから気づいたの、まさか中国語漢字の覚え方になるとは夢にだに思わなかった。
* * *
朝を告げた日差しが教室の窓から微かに差し込んで、英語先生の顔に当たる。意外にみんなも同じ視線で先生の顔をじっと見つめている。
「先生の顔を見ないでよ、黒板に注目してや!」恥ずかしいと顔が真っ赤になって、いつも人懐っこくて綺麗な英語先生は真顔で言った。最近書類選考のことばかり考えて、そわそわした私は先生の微かな変化に気づく、改めて黒板に書いてある英語文章に目を移し、真面目なふりをしたらまたノートに視線を移す。先生がすらりと言った例文、CDの流れているテキストの内容、全ても確実に聞いたけれど、頭の中には入らんかった。
チャイムが鳴り2限が終わった。一気に弛緩した空気が教室の周りに流れ始め、メールの通知音とともに、生気を取り戻した私は通知の吹き出しを押し、ロックを解除したら目の前にインターンの合否結果が映っている。
この度は、ご応募をいただきまして誠にありがとうございます。
林様に是非一度お会いし、お話しさせていただきたく、
ご連絡差し上げました。
以下、面接の詳細をご確認の上、ご返信いただければと思います。
「結果発表された!私は面接を受けるって!」
「おお〜!よかったやん!おめでとー!」電話の中で、自分のことみたいに喜んでくれたと私は強く感じた。
「なんだかたくは私より嬉しそう......」
「だって、本当に大変だもん、あの履歴書。」まあ、たしかに履歴書の内容全てを完璧にしようと思っただけに、2人は履歴書に没頭して、血や汗が交わって額から流れたくらい一生懸命頑張った日もある。
でも辛いじゃなかったの。夢にしろ、彼にしろ、ゴールという目的地に辿り着くためにと思えば、たとえどんなに難しいことがあっても辛さを感じないのと、私は自分に言い聞かせた。
「そうだ!たく、模擬面接をしようか!面接官になってちょうだい!」
「いよー。」
「やったー!」宝くじに見事に当たったくらい嬉しいことこの上ない私がそう考えてやっぱ甘すぎる。
「じゃ、まず自己紹介してください。」
「えっと......」突然の真剣な声で本気になってもらったせいで、一瞬鳥肌が立って、背筋がゾクゾクっと震え上がった。
「初めまして、私は桜井優里と申します。本日に貴重な時間をいただき、ありがとうございます。わたしは、いや、わたしの趣味は...絵を描くことや、旅行することです......」ただの自己紹介だけでうまく話せないということを思えば思うほど、弱気になってしまい、自信も一瞬で崩れ去った気がして、声がどんどん小さくて低くなった。彼は、気にしていないだろ、どうせ友達だし。そう考えて気楽になったなー
「違う。まず名前+と申しますでいい、私はは要らん、しかも最初は趣味じゃなく、自分の学歴や経歴を面接官に伝わるということだ。」
「え?」突然真剣にやってくれて、私は驚いた。
「じゃ次、自分の長所を教えてください。」テンポが速すぎる!即反応はおろか、面接のポイントさえ全く掴めないのだ。
「私は、よく手作りをしていますので、多分......」
「多分?」たくは目を細めて、眉間にシワも寄っている。最悪だ。これは自信がなさすぎる自分のせいでなくてなんだろう。彼に認められるために、対応がなかなかできないまでも、せめて自信を持って流暢に話すことは必要じゃないだろうかと私は思う。
「手作りが得意です。」
「はい、じゃあ、今まで大変なことはなんですか?」
「えーっと、これは考えたことないんだよね。」
「だよねじゃねえよ!履歴書にあったんじゃないか?」
「あ、履歴書」私は慌てて履歴書を取り出し、文字がぎっしり詰まった履歴書の中に答えを探す。
まだ暖かい秋なのに、ひんやりとしたどこかの不自然な風が吹いてきて、空気が凝ってしまい、彼は深いため息をついた。
それからむずい質問が次々と攻め続け、そして私は聞くに耐えない答えばかり出しちゃって、驚きのあまりに涙をこらえて自分に自分の能力が強く疑われた。
「本当にダメやわ、このままじゃよろしくない。」
「たく本当に厳しすぎるよー!」
「甘えるな!厳しくないと何もなんないっしょ?」
「そりゃそうだけど......」
だけど、本当に厳しくしないと合格できないの?と私は疑いながらゆっくりと顔を上げ、目の前に貼り付けてある鏡に映った自分の怯える顔を見つめる。面接当日は本当にいけるのか、正直自分でもよくわからないのだ。