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あの日の約束  作者: 桜井さめき
2/10

第1話ー私の人生を変えてくれたのは

今年で7年目を迎えた、彼氏いない歴のこと。彼女はこれを意識したけれども、自分ではどうにもならないことも受け入れた。

「さみしいなー本当にもうームリだよムリムリ!」彼女は言いながらスマホを強く握り、学校からすぐ近くにあるワンルームアパートでチャットアプリをインストールしてきた。


1人開催した卒業研究ーひな祭り展が終わってからというもの、ベッドに雛人形やら手作りのものやらで散らかしっぱなし、片付ける気が起きるのは一瞬たりともなさそうだ。

床にうずまくり膝を抱えながらスマホをいじり、彼女はこのアプリの様々な機能を研究している。

「えーっと、名前設定か、、考えるのめんどくさいなー、まあ、このままゆりでいいや!」

気づけば外は既に真っ暗な夜になって、車の行き交う騒音も、ぶらぶらする足音も、風が吹いて木が揺れる音までも全てなくなり、不思議なほど静かな町にセミの鳴き声は雷の如く大きく響いている。彼女は夜空を見上げ、実家のことを思い出した。

「そうだ、明日は月一回の帰省日だ!」


*   *  *


じっと空を見上げていると、重い雲が流れて、もうすぐ雨が降りそうだということがわかる。ゆりはスーツケースを新幹線の乗り場まで全身の力を込めて引いてきた。彼女にとって、アパートから新幹線までの距離は台湾と日本の距離と同じ、遠くもないくせに、行くだけでずいぶん疲れた。

実家に帰るのはちょうど始発駅から終着駅までで、それに明日から4連休なので、帰省の人が混んでることも想像に難くない、普段歩くスピードが遅い人でも、4連休の前日にあって足が速くなってきた。 

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        気づかないうちに雨が降ってきた。一粒一粒の雨がまっすぐ落ちて、30秒に過ぎないうちにだんだん激しくなり、大粒の雨が激しい音を立てて地面を叩きつけている。絶え間なく降り続ける雨に行き交う人々の靴がぐっしょりと濡れていた。乗り場に着いたゆりは待ち行列の最後尾に並んで辺りを見回し。周りをキョロキョロするサラリーマン、何度も繰り返し腕時計を見る高校生、今日を限りにタバコをやめることにしたイライラしてるおじさんなど、、とにかく乗り場に漂ってる不安な雰囲気は大嫌い。理由はなんでも言えないけど。


*   *  *


気づけば窓から見える建物がすっかり少なくなり、瞳に映った田園景色が無限に広がって、柔らかに輝いて見えるからこそ、なんとなく不安も解消されてしまった。多分すごい雨が降ったせいで心身とも疲れて、何もできなくなってしまったので、家に着くなり2階にある自分の部屋に入って、スマホをいじり始める。

「あ!昨日やったあのアプリ、」大手企業のインターンシップ説明会で手に入れた企業専用履歴書は未だに空白のまま放ってるのに、頭の中で考えるのはなぜこれじゃないのか、チャットアプリで彼氏作ると言ってもほぼ不可能だし。

それでも......頑張らないと......たとえ彼氏いない歴10年になっても、絶対に、諦めないで。と不安を感じながらも自分に言い聞かせたゆり。


話せる人いませんか?とタイムラインに投稿した。そして2分もかからずある高校生がチャットルームに入ってきた。

「こんばんは。」

「こんばんは。」本当に、このアプリで頼んでもいいのかは知らないけれど、試してみないと何もならないよと、自分に勇気を与えて、深い呼吸をし、履歴書の書き方を聞いてみた。

「いいよ、電話で一緒にやろうか?」

着信の音が鳴いて、このチャットアプリならではの音だ。他のSNSの着信音と全く違う故に、全身が緊張感に満ちるのだ。

「初めまして、よろしくお願いします。」電話の向こうから暖かい声が聞こえてくる。これは間違いなく日本DKの声だ。小春日和の暖かな日差しが差し込んで、晴れ渡る空からひんやりと澄んだ風が優しく吹いてくるような感じで、彼の声は柔らかくじんわり温まり、暖かさが全身に広がっていた。メッセージのやりとりより100倍暖かく感じて、言葉にできないくらい感動した。初めての挨拶をしてから今まで、これからもずっと変わらないのだ。


私は震える指で専用履歴書をスキャンして向こうに送った。

「見えた?」

「あ、見えた。えーっと、今まで何か大変なことがあった?」

「私、大1の冬休みは国際ボランティアでカンボジアに行ったの。私たちの仕事は主にそちらに住んでる子供達に英語を教えたり、図書室の外壁に大きな絵を描いたりした。」

「うんうん、確かに貴重な経験だね!」

「ええ、開発途上国のことなので、夜ともなると周囲は真っ暗になり、街灯のなく畦に懐中電灯とかスマホのライトをつかないとかなり危ないですよ!」聞いた途端、彼は少し笑って、

「いや、だから大変なこととかあったの?例えば地元の子供達に教える時、」

「あ!確かにある!カンボジアではどの時期でも38度〜40度くらいなので、蒸し暑く濁った空気の中で子供達とドアのない教室で教えることはすごく辛いんだけれども、アルファベットしか書けない地元の子供達は何となく毎日笑顔溢れて、安らかな、幸せそうな顔で毎日みんなに本当に楽しかった!と伝え、悩みなんてどんでもないと見られ、ワクワクする気持ちは毎日も強く感じた。私たちボランティアと比べると、すごく大きい差が出てくるので、むしろ子供達は私たちの先生だと強く思うの......」その夜、彼がいくつかの質問をしつつ、意外に正しい日本語文章を作って、自己PRとか企業からの難しい質問とか色々もきれいにまとめていた。


彼のまとめ力は驚くほど上手だったと私は思う。完全に負けた、あなたの優しさや良すぎる頭。この男の子

は一体どんな人だ?聞き取りがまだ下手な私は耳を澄ませて、1つ1つの話をじっくり聞いたら頭の中で字幕になり、よく噛んでいた。その柔らかい声までも、もれなく受け止めた。


雨が降り止んだ。歩道に水たまりができて、夜空に浮かぶ明るく澄んだ月を映っている。今夜はいつにも増して静かで、清らかな風が優しく吹いて、瑕疵のない完璧すぎる一輪の白いバラが密かに咲いた。

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