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 ごとごとと馬車が走る。馬車なんて初めて乗った。見た目よりも硬いソファは座り心地が悪い。あと道も悪い。

 城を出るときに、ものすごく宰相のグエンに頭を下げられた。

「うちの姫様が誠にご迷惑をおかけします。元来飽き性の方なのですぐに気が変わって下されば、いずれは元の世界に戻してくださるでしょう。ですが頑固な方でもあるので、申し訳ありませんがリト殿にはしばらく姫様にお付き合い願いたいのです。あの方は一度言ったことは絶対に曲げない方なので」

 そういって、賄賂よろしくお金の入った小袋をそっと渡された。

「なにか困ったことがあれば、このお金で解決してください。どうか姫様をよろしくお願いします」

 つまり丸投げである。うんとも、いいえともいわないうちに少なすぎる賄賂を手の中に握らされ、ダリアとともに馬車に乗せられ、見送られた。

 ダリアと、二人きりで馬車に乗せられた。大事なことなので二度言ってみる。

 え? 普通王女様を一人で外出させるものなの? 日本でも皇室が外出する際にはSPがついてたよ。しかも昨日あったばかりの異世界人と王女様を二人きりにするってどうなの? 自分の適性職業が強盗だったり暗殺者だったりしたらどうするつもりなのだろうか?

 あまりにふわふわとしたやり取りに、逆に理都の方が不安になった。一応自分は男で、王女様は女で、もちろん自分はそんなつもりはないが、王家的に、家臣的に、それはどうなのだろうか?

 とにかくびっくりしたまま、馬車に乗せられ現在東の森へと向かっているらしい。馬車の窓からはのどかな田園風景が広がる。道が悪いのは、基本的に舗装されていないからだ。理都の世界からすると、科学文明が違うのでこれは仕方ないのかもしれない。

 時折牛飼いや羊飼いとすれ違う。映画で見た中世のヨーロッパを思わせる世界だった。

 しかし、あれだなと、理都は思った。本当に田舎だ。普通城を出たら城下町が広がっているものだろう。しかし、ここの城を出たらすぐに農村だった。いや、町はあった。道は一応石畳で舗装されてはいたが、ごとごとを馬車を揺らして数分で抜けてしまうような小さな町が。そこからは未舗装の道が続く。

 すぐに尻が痛くなった。目の前のダリアは平気な顔をしている。きっと慣れているのだろう。しかし馬車の椅子とはこんなに硬いものなのか、初めて知った。人間の体に優しくない乗り物だなと思う。

 ところでと、理都は言った。

「東の森に何をしに行くんですか?」

「ん? まず勇者の適性を調べてみようと思ってな。あそこには我が国唯一のドラゴンがいるのだ」

「ドラゴン」

 浮かんだのはゴジラの姿だった。異世界へ来る前に見た映画の影響だろう。改めてドラゴンの姿を想像する。西洋のドラゴンと日本のドラゴンとは姿かたちが違うが、この場合やはり西洋風のドラゴンだろうか?

 てか、マジで?

「いや、ドラゴンて? 俺に何させる気ですか?」

 まさか退治しろとは言わないよな。絶対無理な自信がある。尻尾を巻いて逃げ出す自信がある。一瞬で即死する自信がある。

 ゴジラは口から放射能という名の怪光線を出して街を焼き払ったが、ここのドラゴンも口から火を噴くのだろうか。たとえそうじゃなくても、きっと爪や牙やなにか、体重でもいい、絶対に殺される。

青ざめる理都に、ダリアは大丈夫だと、すごく簡単なことのように言った。

「わたしがいるから大丈夫だ」

「え? それ本当に大丈夫なんですか? 俺痛い目も死ぬような目もごめんですよ」

「大丈夫だ。わたしの異世界召喚事業にはきちんとコンプライアンスがあるからな。決してリトを死なせはしない」

「コンプライアンス・・・」

 なんでそんな言葉がこの世界にあるのだろう。不思議だ。



 一時間ほど馬車に揺られていただろう。そろそろお尻と腰が限界に近付いてきたところで、馬の脚が止まった。外から御者がドアを開けてくれる。エスコートされて先にダリアが降りる。続いて理都が降りた。

 そこはこんもりと茂る森の入り口だった。しかし、森と言ってもかなり開けている雰囲気がする。馬車が止まったのは森の入り口の広場だった。建物がいくつか並び、人が複数人歩いている。ドラゴンがいるというが、ひどく長閑な雰囲気だった。

「ここにドラゴンがいるんですか?」

 あまりに穏やかな人並みに、不思議に思って尋ねた。

「うむ。この道の先にいる」

 広場から森の奥へ続く一本道がある。石畳などで舗装はされていないが、茶色い道はきちんと人の行き来があるようになっていた。

「結構人がいるんですね。ドラゴンって危険な生き物じゃないんですか?」

 漫画ではそうだったし、映画でもそうだったし、ゴジラもそうだった。ドラゴンは基本人間の敵という印象がある理都は、あまりに呑気に出歩いている広場の人々を見る。

 よく見ると、なぜか土産物店が並んでいるのだ。ドラゴン饅頭という旗を立てた店を見つけて、顔をしかめる。

 ドラゴン饅頭?

「まあ、本来は危険な生き物だな」

「あ、やっぱりそうですよね?」

 ドラゴン饅頭って?

 軒先にドラゴンの形をしたキーホルダーがぶら下がってる。

 どういうこと?

「姫様では、わたしはこれで」

「うむ、ご苦労であった」

 御者ががたごとと音を立てて来た道を戻っていく。その馬車の背中を見送りながら、自分も載せて帰ってくれないだろうかと、理都は思った。

「ではいくそ、リト」

 ダリアが先頭を切って歩き出した。理都はもやっとした気持ちを抱えたまま後に続いた。



 森の中といっても、きちんと手入れされているのか普通に明るい。もっと生い茂っておどろおどろしい雰囲気を想像していただけに理都が肩透かしを食らった。時折反対側から歩いてくる人物がいる。たいがいは旅装姿だった。

 旅装?

 疑問ばかりが浮かぶが、呑気に歩いているダリアに聞くのも面倒くさい。そもそも理都は頭の中ではいろいろと思考をこね繰り返すタイプだが、元来が無口は人間だった。しゃべる労力を惜しいと思ってしまうから説明責任を問わずに、ここまで流されてしまっているのがよい証拠だった。

 つまり現状に流れるまま身を任せる、よくある若者だった。

 まあ、流されすぎてまさか異世界まで来ることになるとは思わなかったが。

 道はそんなに遠くなかった。歩いて十分程度だろうか。急に森が開けて、大きな口を開けた洞窟に出る。洞窟の周りはきちんと手入れされ、なぜか数メートルほど離れたところで腰丈の鉄柵で囲まれていた。その鉄柵を挟んで少し離れた場所には小さな家まであった。

「ここよ」

「ここ、ですか?」

 うららかな陽光が差し込んでいる、日当たりのよい洞窟。中は薄暗くのぞけない。この中にその、ダリアの言うドラゴンがいるのか?

 鉄柵にかかっている木の板に『勝手に餌を与えないでください』と書かれた文字が、ものすごく気になる。

「ハンス!」

 ダリアが鉄柵をつかんで洞窟に向って叫んだ。

「おーい、ハンス! わたしだぞ!」

 え? それもしかしてドラゴンの名前なの?

 え? 呼びかけて出てくるものなの?

「おや姫様ではないですか、お久しぶりですねぇ」

 呼ばれて出てきたのはドラゴンではなく、隣の小さな家から出てきた初老中年の男だった。肌は真っ黒に焼け、白いタンクトップから出ている腕が丸太のように太い。さらには胸襟も厚い。作業着のようなズボンの中の脚も、きっと筋肉パンパンだろうと想像させる、男だった。

「おお、ヨハンか!」

 ダリアが笑顔を向けた。

「久しぶりだな、元気にしておるか?」

「ええ、おかげさまで。この森もぐっとすみよくなりましたよ」

「そうかそうか、おまえのおかげで我が国の木造生産の方も順調だ。そうだ、紹介しよう」

 ダリアが理都を見る。

「こいつは異世界から召喚した人間でな、名前をリトと言う。今度新しく立ち上げた事業の要となる男よ。リト、この男はヨハン。この国有林を管理しているハンスという男だ。ちなみにドラゴンの管理者でもある」

 お互いにこんにちはと、頭を下げながらドラゴンの管理者?とはてなが浮かんだ。

「姫様、とうとう異世界人まで呼び出すようになったんですか?」

 あきれた口調が、宰相のグエンと似ている。

「それで異世界人とうちのハンスをどうするつもりなんですかい?」

「うむ、戦わせてみてはどうかと思ってな。ほら、お隣のカラヴァーンの国では少し前に勇者が喚びだされて魔王軍と戦ったではないか? 凱旋パレードはそれはすごかったと聞くし、勇者グッズもかなり売れているらしい。我が国でもそれにあやかって商売ができぬかと思ってな。勇者は金になるだろう?」

 勇者は金になる・・・。理都はなぜか遠い目になった。

「しかし、姫様ハンスは魔王軍のもんじゃありませんぜ。あれは普通のドラゴン種ですから」

「だが、ドラゴンは世界でも有数な危険で強力な生き物の筆頭ではないか? 戦って勝てば勇者としての箔がつくというものだろう?」

「箔ねぇ」

 小難し気にヨハンは首を捻りつつ理都を見た。理都は首を振った。

「無理ですよ、ドラゴンと戦うなんて。俺、ごく普通の一般人なんで。てか、死にたくありませんから」

「そこは大丈夫だ、コンプライアンスがある」

「コンプライアンスって、そんな使い方でしたっけ?」

「とにかくヨハン、ハンスを呼んでくれないか? わたしが呼びかけても出てこんのだ」

「姫様はハンスに嫌われておりますからなぁ」

 しぶしぶというように、ヨハンが鉄柵に近付いた。

「おーい、ハンス! 姫様がお呼びだぞ! 出てきてくれ!」

 絶対に戦いを挑まれたら即降参しようと心に決めて、洞窟の入り口を見る。しばらくして、小さな地響きと共にのっそりとのっそりと、緑の鱗をした大きな爬虫類が現れた。

 爬虫類に似ている。というか、インドネシアにいるコモドドラゴンに似ている。縦に伸びた大きな口。胴体は長く、分厚い鱗のようなものでおおわれている。手足は太く、ぶっとい鈎爪がついていた。当然口にも鋭い牙が並んでいる。尻尾も長い。尾をふりふりと歩いてくる。

 体は大きかった。とはいえどゴジラよりは小さい。人間二人分ぐらいの大きさだが、厚みは像のようだ。

 え? 無理? 勝てる気しない? てか、戦いたくない。てか、なんで戦はなきゃいけないの?

 初めて見るドラゴンに興奮よりも恐怖を感じて立ち尽くす理都など知る由もない、ダリアが「おーい」と声を上げた。

「久しぶりだな、ハンス! 元気にしているか?」

 このお姫様はなんでそんな友好的なんだ? さっき自分でドラゴンは危険で強力な生き物と言っていなかったか?

 名を呼ばれたドラゴンんのハンスは金色のとがった眼をダリアに向ける。ふしゅうと鼻息を漏らした。その風圧で理都の前髪が揺れる。

 こわっ!

 理都は鉄柵から二歩ほど下がった。

「健康状態は良好ですぜ。よく食うし、排泄物もきちんと出てますし、瞳や鱗の色つやも健康そのものですよ」

 ヨハンが答える。

 ええぇ?

 管理ってそんなところまでしてるの?

「ハンス! ここになわたしが異世界から召喚した異世界人がいるのだが、ぜひ戦ってみてくれないか? もちろん殺さない程度で頼む。協力してくれれば褒美を出すぞ!」

 おい、お姫様がどんでもないこと言い出した!

「無理無理無理!」

 理都が首をぶんぶん振る。なんでそんなに明るくほがらかに、とんでもないことを言い出すんだこのお姫様は?

 理都はさらに二歩下がった。無理やり戦わされるぐらいなら逃げる!

 心に固く誓う。そもそもコンプライアンスいうなら、理都の意見もきちんと聞くべきだ。自分はドラゴンと戦いたくない。死ななかったとしても、戦いたくない。痛い思いはしたくない。

「あ、武器を持ってくるのを忘れた」

 ダリアが言った。

「ヨハン、剣かなにか持ってないか? リト剣は扱えるか? 勇者と言えば剣だろう?」

「うちには斧しかありませんよ」

「斧ではかっこつかぬなぁ。では弓は?」

「狩猟用のがありますけどねぇ」

 渋るようにヨハンが眉根を寄せて、理都を見た。思い切り首を横に振って全力で拒否をアピールする。それを見たヨハンが言った。

「無理なんじゃないですかねぇ、姫様」

 そう、無理だ。理都には剣も弓も扱えない。扱ったことすらない。それを必死でダリアに伝える。

「しかし、本物の勇者というのは、こう勝手に武器が扱えるような能力を持っているらしいぞ。隣国のカラヴァーンの勇者もそうだったらしい。王家に伝わる神器を手にしたとたん、戦い方が頭に浮かんできたらしいぞ」

「どこにその神器とやらがあるんですか!」

 おもわず叫んだ。

 だってこのお姫様、武器を持ってくるのを忘れたといったではないか。さらには管理人から適当に斧や弓を借りようとしている。

 そんな武器で、なにを脳内に取り入れろというのか?

 無茶ぶりにもほどがる。

「無理ですよ!」

 力いっぱい叫んだ。むうと唇を寄せるダリア。頭をかくヨハン。

 そして、どすんと音を立てて寝そべりだしたハンス。

 しばらく沈黙が流れた。

 先に口を開いたのはヨハンだった。

「姫様、ハンスは草食ドラゴンですよ。確かに強力なドラゴン種ですが、こいつはもうずっと戦闘に出ていませんし、いまさら戦えと言われても無理ですよ」

 まるで子供に言い聞かせるようにヨハンが言った。

 草食ドラゴン初めて聞いた言葉だった。ドラゴンに肉食や草食があるのか。

「ハンスの主食は、森で間伐した樹木です。それは姫様もご存じでしょうが」

「別にリトを食えと言ってるわけではない。戦うだけでいいのだ」

「おい、お姫様!」

 理都が突っ込む。

「無理ですよ。ハンスは面倒くさがりな性格です。ここに定住してからは餌はいっさい自分では取ってこなくなったし、体の手入れも俺任せですませているような奴ですよ。朝から昼まで、ほとんど寝ているだけのドラゴンが、いきなり勇者が来たからって戦ったりはせんでしょう」

 なんかとんでもないことを聞いた。

「そもそもハンスは観光用ドラゴンですから、逆に戦闘されちゃ困りますよ!」

 力強くヨハンに反対され、ダリアは押し黙った。

 ヨハンいわく、このハンスというドラゴンは五十年ほど前に突如飛来してきて国有林の中にある洞窟に住み着いたらしい。そのころ若くして国有林の管理者になっていたヨハンは、ちょうど間伐や枝打ち、下草ようの邪魔なゴミをどうしようかと考えていたところだった。そこで草食ドラゴンが住み着いた洞窟にそのゴミを食事として与えることおを思いついた。案の定ドラゴンはよく食べた。大きな牙でばりばりと巨木を食べるのだ。

 餌がしぜんと人間の手からもらえるとわかると、ドラゴンは動物園に飼われているトラのようになった。大人しくなり、気を許すようになり、徐々に面倒くさがりになった。凶暴性を失ったドラゴンは、衣食住のすべてをハンスにゆだねるようになった。当然健康管理もだ。

 そして、さらにはそこに現国王が思いついた。

 世にも珍しいドラゴンを観光事業の一つとしてはどうかと。もともと観光業の場の少なかったユーフレシアで唯一のドラゴン。しかも大人しい。それなりに人の言うことを聞く。餌さえ与えておけば人間に襲い掛かったりしない。

 ということでできたのが観光用ドラゴンハンスである。

 鉄柵の木の板に『勝手に餌を与えないでください』というのには意味があった。

 観光客が面白半分にハンスに樹木を与えるので、太り始めたのだそうだ。それをやめさせるための文言だったらしい。

「だから、いくら勇者様でもうちのハンスとは戦ってもらっちゃ困りますぜ。ハンスも嫌だよなぁ?」

 ヨハンがハンスの方に顔を向けると、言葉がわかるのかハンスは再びぶおうと鼻息を出した。また前髪がさららと揺れる。

「えー」とあきらめ悪そうにダリアが唸ったが、ヨハンもハンスも受け付けない。理都はやっとほっとした。王女様だからって好き勝手にできるわけではないらしい。国民万歳。ヨハン万歳。

とにかく命と怪我から助かった。

「そもそも隣の勇者様だって、魔王を倒したわけじゃないでしょうが」

「え? そうなんですか!」

 あまりにダリアが勇者が魔王軍を倒した倒したと繰り返すので、すっかりそうだと思い込んでいたのだが、違うのか。

「違う違う」

 ヨハンは右手をひらひらと顔の前で振った。

「隣のカラヴァーンは魔王国と国境が隣接していてな、一部分が重なり合っているんだ。といってもそんな広い地域じゃない。小さな領土だが両国ともそこを自国領だとして長いこと言い争っていたが、そこへ突然勇者が召喚されて、その領土の領有権争いになったらしい。そして、勇者が勝って、そこで暮らしていた魔族の一部が、国境を越えてうちの国に逃げ出してきたんだ」

「じゃあ、この国結構危ないんですか?」

 魔族と聞くと凶暴なイメージがある。

「いや、それは大丈夫だ」

 ヨハンが、なぜかすねた顔をしているダリアを指す。 

「この国は常に強力な結界を姫様が張り巡らせているからな。魔族なんかの危険種族は簡単には出入りはできないようになってる。ユーフレシア国に在留したいしなら、一定額の税金と法律の順守をすることを誓約にして、今国境で検問所を作って対応しているそうだ」

 国中に結界、それもすごいが、魔族相手に税金取ろうとする思考もすごい。さすがに理都は絶句した。

 金がない金がないと言っていたが、ドラゴンを観光地化して、魔族に税金と引き換えに在留許可を出すのか。

 とんでもねぇな

 てか、人間と魔族って共存できるの?

「在留資格所得者には、強制力の強い魔術書類にサインをしてもらうからな。この国の中では魔力もほとんど使えぬし、人間と変わらぬ暮らしをしてもらう。まあ、一部特殊な能力を持っている魔族には、それはそれで能力を活かし特別な仕事についてもらう予定だがな」

「はぁ、よく考えているんですね」

「そうだ、わたしはよく考えている!」

 当然胸を張ってダリアが叫んだ。

「だから勇者は金もうけになると思ったのだ! カラヴァーンの勇者のように!」

「無理ですよ。俺は勇者じゃありません」

「しかし神器に触れれば変わるかもしれない!」

「じゃあ、どこにあるんですか、その神器? 城にあるんですか? さっき武器を持ってくるの忘れたって言ってましたけど」

 ダリアは虚空を見つめ何かを考えるような仕草をした。数秒の沈黙の後、

「うちの宝物庫にそれらしい神器はないな」

「はいじゃあ、勇者はなしってことで」

 きっぱりと理都が断言する。ダリアは渋るようにごねたが、ヨハンもハンスも戦闘を反対したため、結局勇者説はあきらめることになったのだった。

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