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 朝が来た。希望のない朝である。

 目が覚めた理都は、まず見慣れぬ天井をじっと睨みつけた。昨日起きたことをしばらく反芻する。とんでもねぇ、夢見たな。

 観光事業の為に異世界人を召喚する。やっぱりとんでもねぇ。

 見た目より柔らかくないベットから体を起こして、辺りを見回す。客室ですと通された部屋は、広くはあったし調度はそれなりに華美だが、全体的にほこり臭かった。窓にかかるカーテンの赤も心なしか褪せたような色をしている。

 やはり自分の部屋ではない。

 夢じゃなかった・・・・。

 額に手をやり小さく呻く。

 夢でいてほしかった。だって意味が分からない。ここは異世界。本当に異世界なのか? 昨日はお姫様と数人の家臣と、あとはいくつかの部屋を見ただけで終わった。もしかしたら、誰かにドッキリでもしかけられているんじゃないのか? 思い当たる友人の顔を頭に浮かべて・・・誰も浮かばなかったが・・・そもそもこんな悪質で手の込んだドッキリをするような非常識な友人は持ち合わせてはいない。

 理都はベッドから降り、近くの窓のカーテンを開けた。

 眩しい日差し。そこから見える景色は、遠くに山林。その手前にのんびりとした田園風景。そこからさらに近づくと、城との境目だろう鉄柵と一列に並んだ木々。それから・・・あとはなんか庭園だ。よく外国にありそうな、手入れされた庭園が見える。

 薔薇かなにかが咲いているように見える。あとは石畳。

「異世界か・・・まじか・・・」

 全体的に西洋風の世界が眼前に広がっていた。日本ではない。

「いい天気だな」

 ほかに言うことが思いつかづ、のんびりと青空を見上げていると、ばたんと、いきなり背後の扉が開いて驚いた。振り返ると、くだんの異世界召喚首謀者の少女が立っていた。

「おはよう! 気分はどうだ、リト!」

 満面の笑顔が、眩しすぎて逆に目が痛い。

「おはようございます・・・この世界ではノックなしに他人の部屋に入るもんなんですか?」

「普通はノックをする。しかし、わたしは許される!」

 どこの王様だ、いや、この方は未来の女王様、現、王女様だったか。

 一応挨拶を返した。

「おはようございます、朝から元気ですね」

「うむ! 今日は気分がいい。新しい事業を立ち上げたその輝かし一日目だ。気合が入るというものだろう」

 事業・・・・・。

 それは自分のことか。一瞬頭痛が走ったような気がした。

「これ、姫様何を勝手にお客様の部屋に突撃しているんですか、若い娘がはしたのうございますよ!」

 そこへ中年のメイドが一人入ってきた。彼女は昨日理都にお茶を入れてくれた人でもある。確か侍女頭のカーラと教えてくれた。

「それにお客様に失礼です!」

 子供を躾けるように告げるが、ダリアは特に気にした様子もなく、侍女頭の後からずかずかと部屋に入り込んできた。

 カーラはまず理都に頭を下げた。

「おはようございます。今日の御気分はいかがですか?」

「あ、おはようございます。とくには問題ないです」

「それはようございました。今朝のお支度を用意させますね」

 侍女頭がパンパンと手を叩くと、扉から二人の、今度は若いメイド服姿の娘が入ってきた。彼女たちは理都を部屋続きの洗面所へと連れていく。

 顔を洗うために水道の蛇口をひねり、湯の温度を調整してくれる。驚くことにこの世界は上下水道の完備がきちんとなされているらしい。現代人の理都にとっては一番危惧し安心した部分であった。

「自分でできますよ」と言いながらも、差し出されたタオルで顔を拭いて間に髪を梳かされる。歯磨きをして口を漱ぎ終わったても、またタオルで今度は優しく口の周りを拭かれた。

「あの、一人でできますから」

 新しい西洋風の服、といっても白いワイシャツと黒のパンツだが、の着替えを手伝おうとする二人に低調に断りを入れるのだが、「お客様には姫様にここちよく過ごされるよう申し使っておりますから」と言われ、小さな子供のように結局着替えを手伝われた。

 なれない。むしろこの扱いは申し訳ない。根が平凡な人間だ。この至れり尽くせりは、逆に申し訳なくなってくるのだ。

 あとでお姫様に頼んでやめてもらおうと心に誓って、洗面所からでると、客間の窓はすべてカーテンが開けられ部屋の中には眩しいほどに白い日差しが差し込んでいた。

 カーラが窓辺に飾る花瓶の花を活けなおしている。ダリアは部屋の隅に置かれた、小さめのソファに座ってこちらを見ていた。

「支度はすんだか?」

 頷くと、彼女は拍子をつけて立ち上がった。

「では朝食を共にしよう」



 王家専用の食堂に案内された。相変わらず部屋は広いが、理都が想像していた英国王室の晩餐会のような長い机が並んでいるようなことはなかった。むしろこじんまりとしている。テーブルには席が六客ほどある。理都とダリアが向かい合うように座ると、給仕が次々と食事を運び込んできた。

 不思議そうに部屋の中を見回していると、

「ここは王家の親族だけが使う食堂だ。基本はわたしと父上が使う。おまえも今日からは一緒に使うことになる」

「いいんですか?」

「構わぬ。そなたはこの国の英雄になる男だからな。それに父上は基本的に自室で召し上がる。ここを使うのはわたししかおらぬから、リトがいてくれるのはありがたい。一人でする食事ほどつまらぬものはないからな」

 テーブルの上にはパンやスープ、フルーツが並ぶ。昨日は夕飯を食べ損ねていたので、ありがたくスプーンを握る。

「一人の食事がさみしいなら臣下の人と食べたらいいじゃないですか?」

「彼らは礼儀にうるさいのだ。王族と家臣が普段食事を一緒にするものではないといってな。堅苦しくて仕方ない」

 パンをちぎりながらダリアが顔をしかめた。お姫様にはお姫様らしい苦労があるらしい。

 しばらく黙々と食事をしていると、先に一息ついたらいいダリアが再び口を開いた。

「まだ今日の予定を言っていなかったな」

「予定なんてあるんですか?」

「当たり前だろう、何のためにおまえを召喚したと思っているんだ! 今日は忙しくなるぞ。まずはおまえの適性を見定めなくてはな」

「適正?」

「そうだ。勇者か、聖者か、賢者か、魔術師か、治療師というのもあるし、薬師というのもあっかな?」

 まるでRPGゲームの職業選択のようだなと、理都は思った。

「とにかく近隣国では、異世界人はそういう職業によくついているらしい」

「そうなんですか?」

「だから、今日は一つ一つ、おまえの適性を調べるためのテストを城外で行う」

「お城の外にでられるんですか?」

 それはちょっとわくわくした。漫画の中やゲームの中ではよく見る異世界を、現実に目の当たりにできるとなれば、さすがに理都も興奮する。

「城の中では検査はできぬからな。すでに向かう先の手筈もととのえてある。あとは大船に乗ったつもりで、わたしに任せてくれればよい」

 相変わらず薄い胸をそらせてダリアが言う。

 というか、彼女はまるきり理都に何者かになれる適性がある前提で話を進めるが、まったくもって自信のない理都は戸惑うばかりだ。コンソメ味のスープをすすりながら、マジ大丈夫なのかと不安になるばかりだった。




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