鬼餅
「幸三おじー!!君子が帰ってこない。なんでかな。。」私は結局朝まで待ったが、君子が帰ってこないので、朝一で幸三おじーの家に行き、わけを話した。
「あはやぁ、春、わんと一緒に鬼のところにいちゅみ。もしかしたら何かあったかもしれん。」
「わかった。準備してくるね。」私はそう言って家に戻った。準備が整って家を出ようとした時、ふとムーチーに目がいった。
「そういえば幸三おじーが言ってたな。鬼に持っていくのは酒と肉。けど、鬼になる前に好きだったものでもいいって。。あきにーにーはムーチー好きだったからこれも持っていこう。」私はムーチーを3つほど持って幸三おじーの家に向かった。その後、一緒に山に向かった。
「ここが鬼がいるガマか。。」幸三おじーがここに来るのは初めてだ。酒と肉を持って行っていたのは私と君子だった。私は、
「あきにーにー!酒と肉持ってきたよ。」と私が言うと、ガマの奥の方から鬼がやってきた。
「あげ、なんでかー?まだ3日経ってんだろ。もぉー持って来たば。」鬼はニタニタ笑いながらガマから出てきた。
「ねぇ!昨日、私と一緒にいつも一緒に来ていた女の子が1人で来たはず。その子はどうしたの?」すると鬼は、
「あー、あいつな?あいつ、わんにカマ持ってからにわんをくるそうとしたからわんがくるした。やしが安心しれ、ちゃんと食べてあげたから」
「う、うそ、君子を食べたの。。」私は肩を落とした。やはりコイツは鬼だ。平気でこんな残酷な事を淡々と言うのだ。すると幸三おじーが
「やーに1つ聞きたいことある。」と、幸三おじーは鬼に言った。
「なによ、やーも食われたいば?」鬼はヒヒヒと笑いながらそう言った。
「あらん、やーは、本当に春のこと知らんわけ?やーと春は、本当に仲良くていい兄妹だったんだよ?そんな大切な思い出も、やーは忘れてしまったわけ?」すると鬼は
「はーなー、その話は聞きあきた。知らんもんは知らん。しにかしましい。やー、わじわじする。」そう言うと鬼は幸三おじーを爪で首元をえぐりとった。周りには血が飛び散る。
「こ、幸三おじー!!!!」私は叫んだ。鬼はギロっと私を見て
「次はやーな。」そう言って私に襲いかかろうとした時、ピタッと動きが止まった。
「なんか、いい匂いするやっさ。やー何持ってる」そう言って鬼は私の胸元に手を入れムーチーを掴んだ。
「なんか、懐かしい匂いがするやっさ。」鬼はムーチーを葉っぱごと食べた。
「ぬーがこれ、しにまーさんしが。これ、なんて言う。酒と肉よりこれがまーさん。えー、うんじゅ、ぬーやがこれ!」
「こ、これはムーチーっていう餅だよ。」そう聞くと鬼は、
「ムーチー。。え、やー、これをあちゃーももってこい。酒と肉はいらん。これ、たくさん作ってから持ってこい。」そう言うと鬼はガマの奥に戻っていった。
ふと横に目をやるとそこには首のえぐられた幸三おじーが倒れていた。
「幸三おじー、君子。私が必ず仇をとるからね。」私は急いで村に戻り、ムーチーを作った。
次の日、私は作ったムーチーを持ってガマに向かった。ガマに着くと鬼は既にガマの外にいて待っていた。
「えー、待ちくたびれよや。だー、早く持ってこい。やーさんばーよ。」鬼はムーチーが相当気にったらしくまるでご飯を待てない子どもの様だった。
「待って、こんな所で食べるのも何だし、たまには山をおりて岬の方でも行かない?」すると鬼は、
「ふーん、やー、気つかえるや!ここは生臭い匂いもするし、その方がいいやー。だー、案内しれ。」私はこの村の外れにある岬に鬼を連れていった。北風が少し強く吹き、寒い。しかし鬼は寒さなんて感じないのだろう。
「こんな所があるば!じょーとーやっさー!眺めもいいし、だー、早くムーチー食べさせれ!」そう言うと鬼は岬の端に座りムーチーを請求した。私は、
「わかった。ちょっと、待ってて。」私は風呂敷に包んでいたムーチーを鬼の前に持ってきた。それを見て鬼は嬉しそうな顔をした。
「ねぇ、食べる前に少しだけ話を聞いて。そしたら毎日ムーチー作って来てあげる。」私は鬼にそう言った。すると鬼は
「だーるば!だーなによ。やしが、短めにや。やーさんばーよ。」
「ここはさ、私とあきにーにーがよく来てたわけ。私がよくここで泣いていたからあきにーにーは大丈夫だよーっていつも励ましてくれた。最初は絶対に救ってみせるって思ったけど、人間にはもう戻らないと思うと寂しいなぁ。でも、私の心にはずっと優しいあきにーにーが居るよ。ありがとう。さよならあきにーにー。」私はそう言って、
「食べていいよ!」と言った。すると鬼はバクバクとムーチーを食べ始めたその時だ。
「んん、なんかコレ!あが!!」鬼は立ち上がり口を抑えた。私が作ったムーチーには鉄釘を入れた。口からは大量の血がこぼれ落ちた。
「あきにーにー、大好きだよ」私はそう言って私は岬に端の方に立っている鬼を突き落とした。鬼はそのまま真っ逆さまに落ちていき海に消えた。
私は膝をつき、一つ息を吸った。
「お母さん、君子、幸三おじー、鬼やっつけたよ。.......ぅぅうっ、ヒッ。」涙が止まらなかった。鬼であり兄である人を殺したのだ私は。泣き崩れた背中を風がビュービューと吹き抜ける。すると、
「春、ありがとう。ごめんなぁ」と、どこかから声が聞こえた。
「あきにーにー??」
と、後ろを振り返ったが誰もいない。あきにーにー、ずっと私を見守ってて。
「あきにーにー、大好きだよ。」
それからの言うもの、ムーチーは鬼退治に使われたことからオニムーチー(鬼餅)と言うようになり、沖縄は大寒にあたるムーチービーサーと呼ばれる旧暦の12月8日には、ムーチーを食べて家内安全などをお祈りする大切な日になったとさ。
めでたしめでたし。