鬼との約束
生きながらえた春は友だちの君子に助けられた。村長の幸三と鬼について話し、兄は救えるのではないかと思い、君子と約束した。そして2人は鬼に会いに、山に向かう。
「よし、行こう。」私と君子は山に向かった。幸三おじーからは、
「いいねー?鬼は酒と肉が好き。それと鬼になる前に好きだった物も。ちゅーはとりあえず、酒とこの豚肉持っていきなさい。もし何かあったらコレを渡してひんぎなさい。」
鬼になった以上、何があるかわからない。つまり、私たちも殺されることだってあるのだ。その為の保険のようなもの。山に向かってしばらく歩くと川がある。あの日、あきにーにーがいた川。それからさらに奥に進んでいくと、
「なんだろコレ、血?」草に赤く血の様なものが付いていた。それはその草の方からどんどん奥に続いており、まるでその場所は血だらけで誰かが通ったみたいな後だった。
「ねぇ春ちゃん。もしかして、この先に居るんじゃない?」君子は少し肩が震えながらそう言った。正直、私も震えるぐらい怖い。でも、今さら逃げ出せない。
「そうだね。行こう。」私は君子の手を握り1歩ずつ前に進んで行った。それからしばらく歩いていくと大きなガマがあった。
「こんなの初めて見た。」ここに16年住んでいて初めて知った大きなガマ。すると、
「うぅぅぅぅぅ」とガマの中から唸り声が聞こえた。私たちはガマの入口に立ち、
「あ、あきにーにー!!あきにーにー!いるなら返事をして。」と言った。すると、ペタペタとガマの奥からこっち近づいてくる音がした。この音にびっくりして2、3歩後ろに下がった。ガマの奥から目が赤く、頭から角が生え、手には血管が浮きでて、血だらけでの着物を着たソレは来た。
「たーよ。やがましい。わんに食われたいば?」ソレはもぉ私の知っているあきにーにーの顔ではなかった。あきにーにーではなくそれはもう鬼だった。けど、
「あきにーにー?春だよ?覚えてる?今日はさ、お酒とお肉持ってきたよ。」そう言った時鬼はガっと私との距離を詰め、
「へーー、美味そうなの持ってるし。食わせれ。酒もよこせ。」そう言って鬼は私から酒と肉を奪い取りそれらにがぶりついた。
「あ、あの。あきにーにー?」と私が言うと、
「え、やーよ、さっきからたーの話してるば。あきにーにーってたーよ。わん、いま気分いいからやーたちくるしてないだげで、くるされたくなければあまかいけ。」
「あ、あきにーにーはさ、みんなに頼られてて、カッコよくて、私、好きだったの!!だからあきにーにー!戻って!!鬼ならんで人間に戻って!!」と君子が言った。すると鬼は唸り声をあげながら身体はピキピキと音を立て、
「はーなー、やがましい。わんしらんりば。やーらかしましい。やしが、酒と肉はほしいやっさ。3日に1回、酒と肉持ってこい。じゃないとお前なんかの村に行ってからやーらのアンマーたーもみんなわんがくるしてあげるさ。」そういって不気味に笑った。これ以上長くいたら恐らく本当に殺されそうだ。
「わかった。それを守るから村には絶対に来ないで。約束して!! 」と私は言った。すると鬼は、
「やーたちが守ればわんも守るさ。」
鬼になったあきにーにーは、もうあきにーにーではない。これは鬼だ。私が村を守らないと。
「約束は絶対。じゃー、私たちは帰ります。」そう言うと、「かえれかえれー、楽しみにしてる」といいまた不気味に鬼は笑った。
それから半年が経った。鬼はしっかり約束を守り、私たちも約束を守った。3日に1回、酒と肉を持っていく。今日がその日だったが、私は風邪を引いてしまった。
「春ちゃん、大丈夫?」と君子が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ。でもちょっとダルいかも。今日の持っていくの、君子にお願いしてもいい?」すると君子は袖をまくり上げて、
「まっかせなさい!置いて直ぐに帰ってくるわ。」あれから半年が経っているが鬼が人間に戻る気配というのは一向にない。幸三おじーも、鬼が人間に戻るというのは聞いた事がないと言っていて、恐らく、人の呪いを受けたものはその呪いにずっと縛られるのだろう。私は私なりにそう理解している。
「じゃー行ってくるね!春ちゃんはちゃんと体調治してね!!」君子はそう言って山に行った。それからしばらくして眠ろうとした時
「春ー!いるね?見舞いに来たよー」と聞こえた。家の戸を開けるとそこには幸三おじーが立っていた。
「幸三おじー。ありがとう。大丈夫だよ。」私がちゃんとご飯を食べているか心配だったらしく紅芋ともち米を持ってきてくれた。それらを渡すと幸三おじーは、
「クンチつけて、ちばれよ。」と言って、帰って行った。
「今日はもち米も紅芋もあるし、ムーチーでも作ろうかな。そう言えば、あきにーにーもお母さんが作るムーチー、好きだったなぁ。。」
ムーチーはもち米を臼で粉にして、紅芋を蒸して皮をむいて潰して、粉にしたもち米に水と水に溶かした黒糖、潰した紅芋を混ぜてよくこねて、それを月桃の葉っぱで包み、蒸した餅だ。あきにーにーが好きだったのでよくお母さんが作っていた。君子も好きなので、私は君子が帰ってくる前に作ろうと思い、少し急いで作った。
しかし、夜になっても君子は帰ってこなかった。
次回、最終回!!