7.姫様のお呼び
朝顔が凛と咲く初夏の朝に、少女がさらっと剣を出した。
練習用の木剣や飾り用の軽いものではなく、正真正銘の騎士ソードだ。
周りの貴族達が目を丸くして、じっと少女の動きを見つめている。
構っている少女が剣を前方へ斬りかけてから、又引き上げて突き進む。そして移動する同時に左右へ斬りかけて、動きに躊躇うことがない。そして――
「はっ!」という英気な声を叫んで、彼女が地面を蹴り、突き進む方向を変えた。跳んで行く姿は白鷺の如き、草地を渡り、目標に向かって絶賛の角度で切り掛かる。
すると剣光が瞬き、庭にある岩が真ん中から二つになった。
「さすがに姫様!お見事でございます!」
観客の内にある若い貴族が率先に拍手して感服の言葉を捧げた。この男は剣のような眉を持って、五官の輪郭は深くて立体感がある。彼と目が会うと、剣に指される威勢が感じられる。白い上着と金色で縁取りした黒いコートを身に纏い、左肩に金色の炎紋章で綴られ、右肩には金玉の勲章をかけて、紫色のリボンが風の中に軽く舞い上がる。
イシェルはこの人に会ったことがある。彼こそが新月軍の団長、エリオンスの軍務卿――ルイス・シェリンドである。ゲームの時では、エリオンスで活動すれば時々重要な場所に彼に会える。
他の貴族一同も彼に続いて拍手と感心する言葉が一時庭を賑わした。
「お褒めすぎです、ルイス卿。鬼門から戻ってきたルイス卿とイシェル卿に比べてはとても程遠いです。これからもエリオンスの繁盛にご助力いただくことをお願いします。」
「そして単刀直入にご意見をお聞きしたいんですが、わたくし、戴冠式を来月の初にする予定です。皆さんは如何と思われますか?」
この発言が放たれたら、雰囲気が一気に変わった。貴族ともの顔は一斉に厳しくなって、自分の気持ちを表に出ないよう注意していた。つまらなさそうな顔をしているのはたった一人、姫のお口から名を出した二人の一人、イシェルだった。
ルイスがそのイシェルに一瞥してから、堂々と自分の意見を述べた:
「姫様、先王がおなくになってまだ一年、姫様の人望もまだ民間に染み渡っていない今では、もう少し待って慎重にした方がよろしいかと。」
ルイスの言葉に応じて、一部の貴族が同意の声を出した。しかしペトラ姫を支持する一方もすぐに反論を訴えた:
「いいえ、弔う一年は既に足した以上、すぐにでも戴冠式を行うべきだ。人望が足りないなら尚更一刻も早く民に姫様の賢明と威容を思い知らしてやるのだ!」
「「そうだとも!!」」
そして中立派は相変わらず沈黙を保っている。
「……」ルイスが暫く無言にペトラ姫と向き合っていたが、ペトラは決断を変える気がない。
「畏まりました。では姫様の御意のままにしましょう。詳細なことは世間に公表する前に、ご相談に乗らせていただきます。」
「ええ、ではご苦労です、ルイス卿。」
ペトラが満足に頷いて、その場から離れるつもりだ。
「いいえ、姫様のために尽力するのはこのルイス・シェドリンの光栄です。」
ルイスが右手心臓に置き、騎士の礼をして、ペトラを目送した。
ペトラの姿が消えた後、ルイスとイシェル二人はどうてもいい話をしている。
「姫の剣術、どう思うです?」
「洗練で素早い動き、そして凛冽な剣光だな。もう一流に近いじゃない?」イシェルは道端の朝顔を見て、無心に言う。
「姫の身でそこまで剣術を上達したのは、油断できないですな。」ルイスが肩をすくめながら、わざぽい口調で言った。
「鉄騎隊、今はまだお前の相手になれないだろう?一ヶ月だけで、できることは少ないからな。」
「君は相変わらず肝心な言葉を軽く言うのですね、イシェル。」
ルイスがイシェルの目線に従って見れば、淡い紫の朝顔が目に映った。清らかで少し凛々しく見えるのは、あの場に居た少女とそっくりだった。
「確かに今では支持派の実力は未だこちらに敵わないが、準備不足という点においてはお互い様です。彼女の狙い通りですね。にしても、今朝の一剣は凄かったですよ。」
「こんなくだらないことに早起きしなけれゃならんなんて、本当に嫌だなー。」
イシェルが大きい欠伸をして、文句を吐いた。
「お前らのことはもう関わりたくないって、言っただろう。たかが没落貴族がこの局面に手出しことが出来るというのか?俺をここに招待するとは、あの姫様がなにを考えてんのかと思うくらいだな。」
「まー、嫌だったら一層表だけでもこっちに加勢しましょう。そうしたら絶対に二度と呼ばわれないことを保障しますよ。」
ルイスがイシェルの肩を叩いて、意味ありげに笑った。
「いや、結構だ。いい条件だが、没落貴族のままで居たい。上がどうなるのか知ったこっじゃない。」
イシェルが手を振って別れを告ぐ。そして足のペースを速めにして、王城から去っていくつもりだ。
「イシェル閣下、少々お待ちを。姫様がお呼びでございます。」
しかし出口に待ち伏せているメードさんはそうさせなかった。
ルイスは後ろからずっとイシェルの姿を目を細めて見ていた。