エピローグ そんなに正しくなれない人間
ペトラの推測を聞いた時、イシェルは実に驚いた。
その永遠の怠惰に浸る魔女が誰かを愛することになり、しかもその為に自分の命さえ捧げたとは、考えるだけでも不思議だ。
けど、人間は元々そんなに理性的な動物じゃないかも。
――そんなに正しくなれないこそ、人間じゃないですか?
緋の言葉が突然に頭に浮かび、思わず笑い声を出る。
女の感は怖いな。イシェルは心の中に感慨する。
「だらか、結果的に言えば、ペトラの賭けは勝ったな。」イシェルが両手を頭の後ろに交差し、怠そうに真夏の光が満ちる通りを歩く。
レイタスが軽い歩調でイシェルの隣に寄せ、少し不満そうに頬を膨らむ:「し!か!し!レイタスが完全に最終決戦を逃した!イシェルは酷い!そんな時に寝かせるなんて!レイタスなら一発解決かもしれないのに!」
「かもと知ってるくせによく言うな!そんな不安定な力を使いこなせる前によく学びなさい!」イシェルがレイタスの額を弾き、完全に相手の文句をなかったことにする。
ペトラのお蔭で、レイタスが今宮廷魔法師の元に魔力の使い方を習い、しかも進展速い。
保護者の立場を失いたくないのせいかも、イシェルがあまりレイタスを誉めない。二人の雰囲気がまだ内戦の前に戻った。
ルイスはこの反乱のため公爵の爵位を回収され、リシアと一緒に中隊長と小隊長まで降格された。
しかし、彼にとって、これはあまり大事なことじゃない。リンナイと再会し、闇から解放され、これはもう莫大な喜びだ。
「だけどペトラ姉さんも凄いね。ルイス兄さんの為に国さえ賭けるなんて。」レイタスが感慨する。
「馬鹿。立場を越えた感情があるだよ。」イシェルがまだレイタスの額を弾き:「それに、利益衝突ができる時、誰かを犠牲にするのは永遠に一番の策ではない。いつも全ての人を保つを前提として思考すべきだ。次々に周りの人間を捨てるなら、最後に人自身としての道さえ外れることになるだぞ。」
これもイシェルがペトラに感心するところだ。
誰が勝ってもエリオンスの動乱をもたらす場合、ペトラは両方の衝突を解けようとして、最終的にルイスを降伏させた。
まあ、ルイスが死戦を選んだなら、多分こんなにいい結局がないけど。その時、ルイスとリシアの死で終わらせなければならないかも。
現実って時にもこんな嫌のほどに嫌いな奴だ。
だが今、イシェルはまだレイタスがこんな考え方を身につけると望んでない。せめて彼女がもう少し賢くなる時に、ゆっくり大人になっても間に合う。
だってイシェルが遊べる時間が少ない、のんびり遊べる時間がもっと少ないという観点を持ってるだ。だからレイタスにとって、こんな時間が少し長くなれるならいいなと思ってる。
「ほら見て、もうすぐだ。」レイタスが頭を上げて見ると、天極剣道場が目の前にある。
今日はイシェルが天極剣道場の道場主と鉄騎隊総隊長を引き継ぐ日だ。
「そうね。以前がいつもおやじが煩いって言ってるが、今自分もそんなに煩い人になるとはな。」イシェルが肩を垂らし、重い気分になる。
「はははははは、全然イシェルが説教する様子を描けない。」レイタスが隣で揶揄する。
イシェルがレイタスを後にして、長い階段を上り始める。
「そうだ、もう一つ聞きたいことある。」レイタスの声が後ろから届く。
「うん?」
「リンナイの魂がルイス兄さんを振りかえさせると知ってるなら、どうして最初から言わないの?」
「これか……」イシェルが浅い笑顔をはじける:「多分ルイスみたいな奴に、よく殴らなきゃ謝らないだろう。」
「は?」レイタスがぼんやりしてる様子でイシェルの後ろにつき、階段を上る。
イシェルが頭を上げ、薄紫色のドレスを身に纏いペトラが階段の終点で彼を待ってる。真夏の木洩れ日が彼女の身に落ちて、鮮やかな色を描き出す。
――なら、半分のことを教える。
――なぜ半分?
――人は気にすることがあるから生きる。これは老師の言葉だ。
ほんの少し前の言葉を思い出し、イシェルが笑いながらその人に向かう。
「おめでとう、Round Oneを通過した。」なんお兆しもなく、緋の少女が翼を羽ばたき、イシェルの前に現れる。
周りの時空がまだ停滞された。レイタスが上へ上る姿のままで止まった。
「そろそろ出ると思う。」イシェルが平然とニコを見る:「約束はちゃんと守るよ。」
「焦る奴ね。破ると怖がってるの?」ニコは不満そうにイシェルをじっと見返す。
「何といっても悪魔と取引してるだ。」イシェルは肩をすくめる。
「信用されてないな。」ニコはわざと悲しそうな表情を装って、シャンパンを取り出し:「本来は祝ってあげようと思ってる、やっぱなしにしよう。」シャンパンが空にを捨てられ、消えてしまった。最初から存在してないみたい。
イシェルが残念そうに舌打ちをして:「しょうがない、俺は自分で把握できることしか信じてない。」
「まあいい。遠回りはここまでだ。」ニコが普段の表情に戻る:「王立図書館二階、階段を上って一番右の隅に、紫色のカバーの本がある。私が置いてきたものだ。中には君の報酬がある。」
「この時代の医学?」イシェルが驚く。医学水準なら、自分の時代が遥かに上のはず。
「適切な言い方は治療術、しかも失われたものだ。」ニコが両手を広げて:「魔法を学ぶ人は大体身体が弱い。あちこちに問題が出るも可笑しくない。あの娘の病気がここでもある、効果的な治療法も珍しくないだろう。記録が少ないけど。」
「……ありがとう。」イシェルの目に抑えない感激の色が浮かぶ。
「等価交換だけだ。」ニコが興味津々にイシェルを巡って飛行して、様々な角度から彼を注視する:「何といっても君も及第点を取ったね。ルイスの方に寄せるほどのバカ真似はしてなかった。」
ニコの問題は簡単じゃない。単純的な一方を選ぶじゃない。新しい歴史の可能性を切り開かなければならない。しかもこの道で勝利を収める。
「ちょっと聞きたいが、」イシェルがニコを仰ぐ:「もし私がルイスの方に寄せて、そして勝利したなら、任務完成と言えるのか?」
「馬鹿な。私が選ぶ人はこんなあほなことをするわけないだろう?」ニコがにこにこ笑う:「ルイスはタイプじゃないよ。」
――誤魔化された。
イシェルは心に突っ込む。目の前の魔女が単なるルイスを気に入らなかっただけか?それとも他の不合格の要素を持ってるのか?彼は分かってない。
結果的に言えば、イシェルはペトラを選ぶも重要だけど、もっと重要のは彼が開く新しい歴史の方向――ルイスとペトラの和解。
しかし、事後がこんなに沢山のことを言っても、イシェルの直感で選ぶ。ニコの話の通り、彼女が選んだイシェルは、その道を発見できる人だ。
思慮でもない、計算でもない、心だ。
運命の時が来る瞬間、一番自然な反応は、一番いい選択かも。
「まあいいや。」イシェルは頭を傾げる:「でも、これにも合格か?なんかペトラが事情を全て計画した気がする。」
「ばか。」ニコは冗談半分に罵る:「人の力を借りるも、賢さだ。」
「へい……」イシェルは少しびっくりした:「君もこんなこと言うだ。」
「事実を論ずるだけじゃない?」ニコが白目で返事する:「前の世界でも、ペトラが色々計画した。イシェルが居なければ、完成する人もないだろう?」
イシェルの目が丸くなった。しかし、ニコの意味は分かった。イシェルにペトラが必要、ペトラにもイシェルが必要。今ここにある歴史の可能性が、誰が欠席しても存在しない。
「分かればいい。Round Twoの任務、発表するよ。」
「ううん。」イシェルが頭を縦に振り、少し緊張そうに唾を飲む。
「生きて、そして――東方の王になる。」
「東方の王?」イシェルが戸惑う。東方といえば、エリオンスが所在するノア大陸の東方を指すはず。エリオンス以外幾つの国がある。東方の王になるとは、この幾つの国を併呑して一方の覇者になると同然。
「この任務の終点は、世界の覇王になるではないかな?」イシェルが推測する。
「そうと言ったら、断る?」ニコが反問する。
「……ちょっと心外だけ。」イシェルは肩をすくめる:「君が望む歴史の新しい可能性が、天下統一か?」
「もっと知るチャンスが来るわ。ただしその前に、君は自分を証明しなぎゃ。」ニコは軽く笑って、お姉さんが未熟の弟を見てるように。
「最後君に一つの忠告を。」ニコの体が透明になってゆく:「このゲームに、君はプレイヤーだけだ。だから――他のプレイヤーを勝つしかないだ。」