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3.緋色少女は夜に燃える

 恋ちゃんの家から出て、谷崎がネットカフェに戻る。

 夜の方がお客さんが沢山くるから、谷崎のシフトもよく夜勤が入っている。


「悔しいの?」予想外の声が坂の果てから伝えてきた。


 谷崎が頭を上げて、向こうに緋色の少女が立っている。


 炎のような緋色。

 文字通りに、彼女は緋色を主体にするドレスを着ている。正確に言えば、そのドレスは緋色と白が混じ合うデザインだが、白い画布の上に燃えている緋色の炎のイメージがする。緋色の炎が深い夜色を照らすように、谷崎の目に焼き付いた。


 谷崎が彼女と目が合った。その両目に狐のような狡猾(こうかつ)が溢れている。


「何を言いたい。」


「だから、あのくそったれの店の中に引っ込んで、後輩の手術代も出せないなんて、悔しいと思わない?」


 谷崎が眉を顰めた。「俺の個人プライベートを覗いたのか。」


「言い方が悪いわね。」少女が軽く笑って、手で耳あたりの髪を梳かし(とかし)た。「事前準備をしただけよ。」

「事前準備?」谷崎の眉が一層よりあった。「目的はなんだ。」

「あたしの問題に答えていないね。」少女が谷崎の質問を無視して、勝手に自分の問題を強調(きょうちょう)した。


 ――お前の質問に答える義理はない。

 と言いたいが、少女の目から不思議の魔力を感じた。何かが、そこにきらめいている。

 この感じ、とても見覚えがある。

 チャンスでありながら。

 リスクも伴う。


 谷崎が思い出した。それは現状を変えるチャンスが現れる時に、自分が感じた気持ち。身が震えて、瞳が広がって、心音も激しくなる。


「……人間違いだ。」谷崎の目が冷静を取り戻して、まだ波のない水のようになった。


「どうやら由来不明(ゆうらいふめい)の女を信用しないわね。」少女はくじけることなく、妖艶(ようえん)に笑った。愉しみと媚惑(こびわく)の意思を率直(そっちょく)に表す。「大丈夫。今度は唯お知らせのためだ。君は資格があることをね。」


「資格?」谷崎が戸惑う。


「そう。」少女が頷く。「目の前の全てを変える資格。しかしこの資格、この権柄(けんぺい)は、君自分の手で握るわ。」


「権柄?」


「簡単に言えば、試練があるの。君に『時間』を貸して、その『時間』内にあたしがあげた任務を果たしてくれば、それに相応しい報酬を支払うよ。チームの中心に戻るとか、後輩の病みを治すとか、あるいは……過去に戻るとか。」神秘的な瞳に映されて、谷崎は自分がもう見透かされた気がする。


「その任務はなんだ。後、実現できることを証明してくれ。」


「ごめん、それ以上教えられることはない。君が受けると言うまで、任務の内容は内緒ね。」少女の眉が顰めて、説明が嫌な顔をしている。「教えていいのは唯一つ、受け取るのに損はないって。」

 二人の間に依然として深い闇がある。目の前の道が川のように見えて、道の向こうは戻れない彼岸。谷崎がじっと少女を見て、緋色の炎が未だ夜色の中に燃える。


「……俺は手に把握できるものだけを信じる。ごめん、引き返してもらおう。」谷崎が怠く断った。あまりにも都合のいい話だから。


 少女がめげずに軽く笑う。「決めるのに未だ早い。よく考えて、君は受け取るだ。あたしはニコ、また再会の日によろしくね。」そして振り返って、暗い裏道の中に消えた。


「――こんなところで、腐りつづけたくないなら。」


 ぼんやりに聞こえる言葉が深くて重い闇の中から耳に届く。


 彼がぽかんとして、嘆いた。ネットカフエへの道を続けた。しかし驚くことに、店の入口に「臨時休業(りんじきゅうぎょう)」という板が掛けている。

「店長からのメッセージはこんなことを言っていないぞ。」谷崎がドアを押し、鍵がかかっていない。中に待っているのは緊張で震えている貴志とある見慣れた顔だ。

 輪郭(りんかく)が整った顔に、まっすぐな剣のような眉、鋭い目付き。この顔を他人と間違うのはありえない。


「よ、久しぶりだ。」谷崎がのんびり挨拶した。「今日は酒を飲むに来た訳じゃないよな、神田。」


「もちろん、」神田も淡々と答えた。「君を倒すに来ただけだ。」


「ほう?君が谷崎か。」神田の隣に、高そうな服を着ている男がいる。「今日の午後に散々やられたな、実力を出すチャンスもなかった。野田のやつはも今ごろ悔やんでいるはずだ。」


 どうやらこいつはその時の奴の仲間みたい。


「褒めるのはいいが、」谷崎がだるく聞いた。「今夜はなんの用があるのか?」

「いやあ、」男が肩を揺らして、「うちの神田と勝負してくれないかな。」

「うちのって」谷崎が眉をあげた。「久峰(ひさみね)グループの若旦那さんか。」

「まあ緊張するな。」男が口元をあげて、「ただで勝負してくれるのはつまらないだ。俺は軽い程度の博打(ばくち)が好きだ。もし君が勝ったら、この数のお金をあげよう。」


 男が指一本を出して言った。


「100万?」谷崎が笑った。「若旦那は気前がいいね。」

「ちがう。」男が頭を振った。「1000万だ。」

「!」谷崎が目と丸くした。このお金があれば、恋ちゃんの手術代が十分だ。


「君がすごさは分かる。こういう試合では負けたことはないだろう?それなりに儲かったはずだ。」男が笑った。

 やはり調べてきた。谷崎は企画を立つことが苦手で、人脈も広くないから、集金は順調ではなかった。今まではずっと賭け試合でお金を集まっていた。


「で、こっちは条件が課されるのだろう。」谷崎は彼を見てから、神田のほうに注意を移った。彼の実力は神田に劣らなかったが、あくまでは昔の話だ。この一年間、神田はプロのチームで一流の選手と戦い続けて、有名なコーチの指導を受けていた。そして自分はただ時間を荒廃して、勝率は高くない。


「頭がいい人は話が早い。」男が愉悦の表情を表して:「こっちは勝手に1000万を出せば流石にも痛いな、それと対等することが欲しい。もし負ければ、君が三年間好き勝手に使われてやるだけでいい。」


「……」谷崎が猶予した。相手に使われるって、人身売買になるのとあまり変わらない。運がよければ神田のようにチームに重役を担うが、運が悪かったらチーム専用の訓練相手になるとか雑役に振り回されて又三年間時間を荒廃する。相手がその気になれば、期間中に罠を仕掛けて時間を伸ばすこともできる。


 罠を仕掛けなくても、三年間時間を費やしたらプロの電子競技選手としての生涯も尽きてしまう。電子競技は多くの運動競技と同じ、選手生命が短いのだ。


「逸ちゃん、これはやっば、諦めよ?」貴志が彼の服を引っ張って言った。「あいつが今の久峰チームのエースだぜ。いくらお前でも勝てないよ。」


 しかし谷崎は一旦目を瞑って(つむって)から、まだ強く開けて言った:「……話に乗る。」

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