28.君が外れた道
なぜルイスが昏睡してる間にペトラが攻撃しない理由は、イシェルはもう知った。
ペトラはとある可能性を賭ける。そして自分もペトラを黙諾した。
実はこの戦争に、時間は完全にルイスの味方ではない。持久戦になれば、彼にそんなにメリットがない。エリオンスもともと国々の角力のところので、動乱が起こったら、色々回す余地がある。特に北の大国アルラントとカラトル、誰もエリオンスで自分に有利の政権を育てたい。以前なら各国の間の斡旋でバランスを維持できるが、内乱が起こる時点で別の話になった。
大国の選択肢が増えた。
だがこれはペトラだけに対してじゃなく、ルイスに対しても同じだ。
しかもカラトルにはペトラに虎視眈々の王子がいるので、相手もペトラに力を貸し、自分に親しい傀儡国家を育てたいだろう。
この点から言えば、両方にとって上策は同じだ:閃撃戦で相手を潰し、局面を安定させる。
だから今の状況になる。両方も賭ける。誰か一番早いスピードで相手を倒す、と。
「現れた。」
突き進む鉄騎隊の前に、姿を現した人は――
ルイス。
「リシアもいるし、剣法も偽物ではない。」しかし、イシェルは違和感を感じる。
簡単すぎ。計算の多いルイスらしくない
ただし、イシェルは選択ない。鉄騎隊の兵力は新月軍団に及ばないから、核心を攻撃する道しか勝てない。
やっぱり、周りの新月軍団は潮水のように湧いてくる。
「止まるな!風翼発動!全力前進!」蒼き翼は一片一片に開き、夜空を掠める鳥のように。
鉄騎隊の追風の刃と新月軍団の新月の剣がぶつかり合い、火星が四散する。新月軍団は兵力の優勢で五月通りの周りの裏路地から搔き乱し、何度も鉄騎隊を両断しそうになる。
しかし、よたよたの風翼隊旗が倒れそうになる時、いつも誰か旗竿を受け取り、旗を舞い飛ばせる。
「やばい!」鉄騎隊の側面に一つの小隊がルイナを纏い、突撃は停滞状態に落ちる。
ルイスがもうすぐ来る。
「この剣が因果を……」世界はまだ静寂に沈み、イシェルの因果視が起動した。薄緑色の因果線が魔剣の導きによって、同じ場所へ集まる。
「導く!」
因果引導!
「これ、どういうことだ!」
「地面が突然……」敵軍の中に悲鳴が届いてきて、混乱が素早く拡散する。
「陥落した!」イシェル右側の道路の一部が落ち込んで、先の小隊とルイスの主力の一部を遮った。地面の陥落によって落馬し、踏まれる騎士がだんだん増えてゆき、敵軍の動きが緩やかにされた。
原理は簡単だ。
地面も物体であり、脆い部分もある。馬の蹄に踏まれるたびに、衝撃を受ける。普通、この無規律的な衝撃力は振動の形で大地に沿って拡散し、だんだん弱まっていき、あるいは相殺する。
しかし、例外もある。
重ねる波や衝撃も強くなる時がある。こんな衝撃が地面の脆い部分に到着する時、破壊することになる。
これは偶然事件の操り。
「チャンスだ!ルイナ!」鼓舞された兵士たちが勢いに乗って突き込み、ルイスに迫ってくる。
「くそ!」ルイスが慌てて姿勢を調整し、イシェルとの対決を準備する。先の混乱も彼に影響を与えたみたい。
天道鏡心流――
イシェルが魔剣を逆手に握り、空に綺麗な曲線を描く。
淵竜!
黒龍咆哮、剣の嵐がルイスの脇腹とリシアの右腕を裂く。
しかし――
易過ぎる。
違和感を感じるイシェルが振りかえ、ルイスとリシアが黒い影に変えて消えることを見た。そして、五月広場の辺りに、新月軍団が次から次へやってくる。
罠にかかった。
「止まるな!進め!」イシェルが号令する。
油断した。町中に大規模な軍団は兵力の優勢を発揮しにくいが、例外がある。例えば五月広場みたい大きな場所。
分身で自分をここに引き、待ち伏せて勝利を収める。これこそルイスのやり方。今イシェルの周りは鉄壁のような新月軍団、どうしても突破できない。
「いい手を打ったな……」イシェルの剣が回転し、突然の斬撃を防ぐ。
「ルイス!」イシェルは二度と剣に発力し、ルイスを飛ばす。
自分を撃殺し、鉄騎隊を徹底的に崩す。もし先の反応が一秒遅かったら、ルイスは成功する。
だが今追撃しようとしても、相手はもう夜色に消えた。魍魎みたいな敵はこんなにしつこい。
「投降しろ。あんた達の負けだ。」リシアの声が後ろから届く。
イシェル、ペトラ、ルイナは全て包囲され、レイタスは力使い過ぎてまだ昏睡中。鉄騎隊はもう逆転する機会がないようだ。
しかし、ペトラはまったく怯えてない:「目に見えないが、ルイスはこの辺りだろう。」
リシアは疑惑を抱えてる様子でペトラを見る。
「君の表情はもう答えた。だからはっきり言える。君たちこそ、負けた。」ペトラが剣を上げ、赤い焔が空へ飛び、明るい光を放つ。
「魔導軍団、攻撃!」新月軍団の後方がまだ悲鳴をあげる。高級魔法が次から次へ敵軍の中で爆発し、光り輝く。
一番前のは装甲を身に着ける魔武士。彼たちの手につける魔法付きの刀が推進装置に押され、鉄を泥のように斫る。
後ろに付いてるのは重装歩兵。彼らの身が重いプレートアーマーに守られ、手の中のやりは整然と敵へ向かう。
最後は射撃部隊。各種大型の攻撃魔法が絶えずに彼たちの銃口から噴出する。前の射手が撃ち終わったらすぐに後退して装弾し、装弾完了の後ろの射手が前へ進んで射撃する。このように繰り返す。
「魔導部隊!こんなに早く実用化されるとは!」リシアの新月軍団が魔導部隊の前に敗退しかできない。元の完璧な包囲網が速やかに破られた。
「けどあたし達の情報から見れば、もう少し時間がかかるはずだ。」リシアがあの追撃された夜のことを思い出し、歯を噛みながら言う。
「あれは偽情報だ。」ペトラは慈悲なき顔で宣告する:「こんな情報を信じたお前らは、失敗のみだ。」
魔導部隊が凄まじい剣幕で進み、それを耐えない新月軍団はだんだん後退して、半月陣形に変わって、ペトラ軍と対峙する。
「やっぱペトラだな。そう簡単に撃敗されることない。」暗闇から、ルイスの笑いが徐々に浮かぶ:「しかし、これは終わりじゃないよ。」
ルイスが右手を振り下ろす:「海魔族、入れ!」
暗い魔力は、全域を覆う。青い光がちらほら輝き、どんどんイシェルの視野を充満する。普通の人に遥かに凌ぐ視力のお蔭で、イシェルはその青い光の実体を見た:
鮫人。
上半身は筋骨隆々の体、下半身は鱗片に覆われる足。海に潜る時、足が尾に慣れるので、水陸両用の優秀兵士だ。こういう原因のため、鮫人は常に海魔族が地面を攻める先行部隊として使われる。
ペトラは不意に眉を寄せる:鮫人の魔法耐性は人族より優れてるので、彼たちが先駆けるなら魔導部隊の威力が絶対減る。
「ルイス、この前の海魔鮫の事件も君の仕業か?」イシェルが疑う。
「あれは意外だ。海魔鮫は元々不安定のものから、こうなるのも私の予想外だ。」ルイスが何の動揺もない。まるで口にするにも足りないことみたい。
「まだ覚えてるか、ルイス?おやじが言った『道』って。野心に喰われた魔族とぐるになり、周りの人を次々捨てる。お前は『道』に外れ過ぎだ。」イシェルは冷たい目でルイスを注視する。
「イシェル、『道』って何?」ルイスがその目を直視して問う。
「自分と、周りの人と、より多い人を、より良い姿で生きさせる。」イシェルの目にはもう迷いない。
「それは君の『道』だ。私のじゃない。」
「自分の野望のために、何を捨てても惜しまない。これは君の『道』?君はもう人の『道』に逸れ過ぎだ。」