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20.煌く季節に

「五月祭かぁ……久しいな。」イシェルが嘆いた。恋ちゃん達と一緒にユリウスでこのイベント活動を数回楽しんだ。


 五月祭の時期になると、王都の客が一気に増えて、各ギルとからの任務も増える。素材集めや荷物配達は基本で、NPCたちのイベントシナリオ任務もある。イベントの報酬はどれも普段より多くて、プレイヤーたちがテンション高くクリアしていく。任務に疲れたら、恋ちゃんや葉子に付き合って、中央広場に設けっている篝火を囲んで踊るとか、鐘楼や教会の頂上に登って花火を見るとかリラックスする。


 そして「イシェル」においては、ガキの頃はいつもペトラとルイスと一緒に参加していたが、後になっては気分次第で参加しないときも数回あった。

 イシェルはレイタスを連れて五月広場の近くに散策して時間をつぶす。

 こんなことになったのは、ペトラは今回の茶会の場所を五月広場付近のある店にしたのだ。

 その話になれば、イシェルはいつも掛かる。


 イシェルは特製の手袋をはめている右手をみながらため息をついた。

 ペトラは本当にその事件の始末を知っているのか。

 インフィルドについて、永生の魔女について。

 一国の姫とは言え、そんなことを簡単に知るわけにはいかない。

 元々魔女という連中はこの世から離れる存在だ。彼女たちに関することは一切闇の中に隠されている。


 一国王室の財力をもって調査しても、何数年もかかるはずだ。

 ですが、ペトラは自分を誘い始めたのはこの最近の一か月だ。

 それに、冥王の府の戦いからは二年しか経っていないのだ。

 ルイスの野望が膨大するのも、冥府の件の後の事だ。

 とはいえ、面倒くさいなどを口にしても、実際は毎年も来る。何せ楽しい祭りを見逃すわけにはいかないだろう。


 広場中央はすでに篝火のための木材が整っている。まもなくここで火を付けられ、周りの男女も篝火を囲んで踊る。

 最初に、五月祭はオーディンを迎える祝日だ。

 ですが、開国の君主であるレックトと王妃のエミリーが篝火の下で恋人になり、そして結婚となったことがあったから、五月祭の篝火に恋と祝福の象徴にもなった。

 ここで踊る人々はレックトとエミリーの恋に祝福を捧げながら自分の恋も期待している。

 もちろん、篝火の前で告白し、恋人になった例も少なくない。

 悲劇も少なくないとイシェルは突っ込みたいのだが。


 イシェルはその歴史の裏の物語を知ったのだ。

 話によると、エミリーと結びになる前では、レックトは戦友であるヴァルキリーのシャルロッテのことが好きだった。

 二人は反旗を掲げる同士でありながら、掛け替えのない親友でもあるのだ。

 シャルロッテは何も持ってないレックトを支えで、彼が一方の君主となるまでも離れなかった。

 エミリーとの邂逅はその後のことだ。

 出会ってから、エミリーはすぐにレックトのことが好きになった。

 同時にシャルロッテも子供っぽいレックトから離れなくなることに気づいたのだ。

 レックトは二人の気持ちを知り、悩んでいた。


 シャルロッテは素直で颯爽な美少女、穏やかな時間を与えてくれる。

 エミリーは繊細で聡明な人、自由な生活に憧れている。

 有難いことに、この状況はレックトの事業に影響を与えなかった。

 レックトの新月軍団とシャルロッテの鉄騎隊は勝ち続けた。

 ライバル同士であるシャルロッテとエミリーは戦場での協力で親密な関係を築いた。

 だが一夫多妻制は貴族の中では珍しくない時代でも、二人は一夫一妻主義者である。

 三人の関係はいったいどうなるのか、彼たちはすごく悩んでいた。


 ついに、ある潜入作戦で、エミリーとレックトを救うために、シャルロッテは犠牲した。

 それから、レックトとエミリーの間にはシャルロッテという壁が立ち塞がって、二人の関係は進めることが出来なかった。

 最後にレックトはエミリーの気持ちに感動して、添い遂げることになった。

 ただ、シャルロッテがかわいそうだとイシェルは思う。

 ずっとレックトのそばにいて、彼のために戦死して、最後までも一緒にいられなかった。

 この裏の物語を知って、皆はこれまでに嬉しそうに踊れるのか。

 その答え、イシェルは知らなかった。


 それに、レックトはその後に新月軍団を親友のシェリンドに任し続けて、鉄騎隊を皇室の直近部隊に選んで、エリオンス最強の精鋭部隊に見守った。

 エミリーはこの件についてどう思うだろう。

 近い将来に、この二つの軍隊は刃を振り合い、敵同士になる。そう思うと、イシェルはため息を付いた。


「イシェルは五月祭の篝火の話を知っているのか?」

 レイタスは嬉しそうに跳ねたりして明るい街道を通って、振り返ってイシェルに問う。

 細長い髪はレイタスの振り返えに従い、空で踊り、柔らかくて美しい。


「当然だろう、俺が教えてあげただろう。レイタスも踊りに行きたいのか?」

 そういえば、レイタスも十五歳になった。ちょうど恋思いの年齢だ。

 イシェルは突然気づいた。


「行きたいだけと、今日はやめておく。」

 レイタスは残念そうに言った。


「どうしたの。」


「イシェルはこの後用事があるじゃない。あたしはちゃんとリリアおばさんのところにいるから。」


「うん?」

 レイタスの言葉に惑うイシェルは頭を掻く。


「踊りすらさせないと思っているのか。俺はそう固くないぞ。」


「分からないならいい、期待していないし。」

 レイタスは不満そうに呟いて振り返った。

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