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19.歴史の可能性

 ペトラが帰った後、イシェルが街に出て適当に歩む。


 大通りを避けて、薄暗い裏道を通って、記憶中の道に辿って鐘楼の裏口に着いた。

 ここは本当に何も変わっていないなと思っていた。御影石で敷かれる石板の道も、壁を越えていくレモンの木枝も、門に染みる泥の痕も、昔とそっくりだった。


 古びたの鐘楼は高かい、イシェルはよくルイスやペトラと一緒にその頂上に登って王都を俯瞰する。

 鐘楼の北には王宮で、王宮には「ユミル」と言う人の数十倍の大きさを持つ巨像がある。巨像の頭の中は意外に狭いが空洞が開いていて、イシェルとペトラが中に入ったこともある。鉄騎隊のお巡りさんに見つかって散々説教された。

 鐘楼の南にはルイスの家――公爵の館で、ルイスが何時も門前にイシェルと待ち合わせて、二人で一緒に天極道場に通っていた。そして公爵の館の南の一辺も公爵の私有地で、兵士の訓練場として使われて、公爵家の私兵を育つ。


「やっば昔の場所に来たら思い出がよく浮かべてくるな。」イシェルが感心ながら、壁の着力点を借りて数回ジャンプしたら頂上に着いた。子供の頃の大変さは全然実感できない。


「ぼうっとする場合かい?もう時間はないのよ。」ニコが隣の空間から姿を現した。


「分かってるさ。ペトラはいつも時間を守るから、物語が終わり近くなった今はあまり時間がない。けど偶にはこうやって頭を空っぽにしてほしいんだ。」イシェルが柱に背中を持たされて、街の光景を見下ろしながら言う:「何せ焦っても仕方がない。無駄の時間を過ごしすぎて、反って待ち続けた方がいい。」


「進捗はあったね。」ニコが指でイシェルのあごを触って、誘惑の目で彼を見つめている。


「まあまあだな。」イシェルがだるく答えた。「海魔蛟との戦いを経て、手掛かりが繋がった。」


「ほお?言ってごらん?」ニコの目が光っていることで、イシェルは自分の推測が合っていると分かった。


「最初から理解できないところがある。まずは俺の介入する時点は、何故他ではなく、一年前の今にした。」


「君と格好いい公爵殿や美しい姫様の間の感情を深めるためかもね。」ニコがニヤニヤと言う。


「それもありえるな。この『局』は深く陥れば陥るほど難しくなるから。」イシェルが言う。「だとしたら一層俺をこの世界に生まれ変わったほうが効果がいいのでは?」


「冗談言うね。」ニコが肩をすぼめて言う。「いくら悪魔であっても命を作る力はないの。」


「そして『Fate Breaker』もそれなりに長く遊んてだが、イシェル・ブロンバーグという名には聞き覚えが少ない。同時代のトップ級のNPCにして、これはおかしいぞ。」


「単に君が忘れがちなんじゃないの?何時も無関心のふりをして。」ニコが突っ込んだ。


「何時も無関心のふりをして悪かったな。」イシェルが苦笑いした。


「最後はこの歴史への見慣れない感じだ。内乱を実体験するのが出来なかったが、一応聞いたことがある。しかしこの数日のできことは聞いた話しと全然違う。」


「悪くない。」ニコが満足に頷いた。「やる気なさそうに見えて、よく考えといたな。で、これらのことがこの鐘楼となんの関係があるの?」


「知ってる?人の記憶は大半『あたり記憶』になっているさ。」イシェルが心理学の授業で学んだ知識を説明した。「普段思い出せないことが、関するものを見て、心あたりをつけたら、思い出しやすくなる。薬を飲むことを忘れてたが、隣にちょうど誰が薬を飲むと自分も飲むべきだと思い出すのと同じ。」


「こう言う豆知識はよく知っているね。」ニコが笑った。「で、今は私にどんなお薬を飲ませるつもり?」


「真面目さが足りないのはお互い様だな。」イシェルが頭を振っていう。「ここにきたのは、昔に見たあるシーンを思い出すためだ。」


「何のシーン?」


「葬式だ。」イシェルの目が光った。「イシェル・ブロンバーグの葬式だ。」


 偽笑顔だったニコの表情から、本当の愉悦感が沸いてきた。彼女がぱちぱちと拍手して褒めた:「おめでとう。やっと可能性を掴んだね。」


「ってことは、俺がこなかったら、『イシェル』はここに存在しない。この時点で、死んでいた『イシェル』を蘇らせるのに、俺が必要だった。君が言っていた俺がもう破局のキーを見た。それは当たり前だ。そのキーは『イシェル』だからな。」

 イシェルが自信を取り戻し続けると同時に、ニコの愉悦も段々高まっている。


「『イシェル』と言う名前に疎く感じた理由は、俺がゲームを始めた頃、彼は既に死んでいた。唯一の関する記憶は彼の盛大な葬式。そして死んだはずの彼が生き残ったから、最近のできことが聞いた歴史と違うのも当然だ。この『歴史』が、存在しないから。」


「お見事だ。」ニコが又拍手した。「では賢いお探偵さんはこのことを究明することで、あたしがあげた任務をどう果たすつもり?」


「関係はもちろんあるさ。」イシェルが笑った。「歴史が違うなら、元の歴史に従う意味もない。内戦の勝者は必ずしもルイスとは限らない。」


「で、君はペトラを支持する気ね。」ニコがくすくすと笑っていう:「姫ちゃんは賢いけど、残酷無情のルイスに比べたらまだちょっとたりないよ。」


「これは……未だ決まっていない。」イシェルの勢いが弱くなった。「先も言っただろう。陥れば陥るほど答えが出ない。」


「随分とキャラにはまっているね。後輩ちゃんは未だにも先輩が手術代を集めてくれるのをまっているぞ。」


「あれはもちろん忘れていない。」イシェルは複雑の顔をしている。「二人の魂は混ざって、融合して、今ここにいるのは谷崎であり、イシェルでもある。恋ちゃんと神田のことをほっとけない、ペトラとルイスのことも同じだ。」


 魂が何、どんな形で存在いているのか。谷崎の世界においては確実な答えは出ていなかった。二人の魂が融合したら、今はどっちが主導しているのも分からない。そもそも谷崎にしても、イシェルにしても、自分のことや遠い未来のことがはっきりに見えていない。

「一つだけ、確定事項だと思うことがある。」イシェルが話題を変えた。


「おお?それは何?」


「君が求めることについて、手掛かりがあった。」イシェルがニコの顔をじっとみて、微かの表情変化も捉えたい。


 ニコは唯笑う。「そう?なら言ってごらんなさい、あたしの求めることって。」


「難しいことはない。」イシェルが肩をすぼめて言う。「何回もヒントをくれたから。君は新しい可能性、新しい歴史を作りたい。」

 イシェルが蘇らせた時点で、歴史が変わっている。しかしそれだけでは足りない。時代の流れはそう簡単に変えられない。変わらないならわざとこのひとを舞台に帰らせる意味もない。元の流れはどれも彼女が望む未来ではないはずだ。


「面白い推測。頭も目も悪くないね。」ニコが満足して頷く:「唯、君が未だ見逃していることがある。頭や目で見つかれないものもあるから。ちゃんと掴んでね、未来への鍵を。」


 ニコがそう言って消えた。


「来るのも去るのも予兆のないやつ。」イシェルの目が又けだるくなって、柱に背中を当てて銀色の月を見上げる。「まあ、今はもう少しぼうっとしてもいいんだろう。」


 間もなく彼は目を開くことすら面倒だと思って、床に腰を下ろして居眠りするつもりだ。目を閉じる瞬間に教会の尖った屋根が視界に入った。すると頭に又あの月夜に泣いている少女の姿が浮かんできた。


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