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11.星が落ちるまで

 夜になったばかりに、イシェルが自宅に戻った。そしてレイタスはぐっすり寝ている。

 留守番が退屈だったのだろうか、自分で何かをはしゃいだからたろうか。


 イシェルが苦笑いした。


 金髪の小魔女様が自分の右手を枕にして、左手と両足が全く違う方向に伸ばしている。あまりにもひどい寝相だ。


「こいつ……」


 イシェルがつっこむのをやめて、黙ってレイタスを抱き上げて、彼女のベッドまでに運んだ。薄い布団をも被ってあげた。

 そして不意に彼女の右手のひらにある新月紋様の印が又一つ増えたこと気付いた。


「今日は多分疲れたか。次は海へ連れてあげよう。こいつなら喜ぶはずだ。」

 こう考えていると、イシェルが思わず笑った――二人は海辺に出会ったのだ。

 窓から涼しい風が彼に当たった。心地のいい風だ。


月色(げっしょく)に乗ってくるとは、いい興味だね。名乗るつもりはあるかい?」


 イシェルが振り返って、興味深く窓際に座っている女性騎士を観察している。

 白金の鎧を着て、銀色の月光に綺麗にきらめいている。

 兜は既に外して、彼女の美貌を晒している。あれは秋日の一番甘美な果実だと思えてくる容貌だ。

 彼女の鎧の兜や、リストバンドと靴に青い翼の印が魔力で光っている――それが鉄騎隊の印だ。


「よっ、あたしが鉄騎隊の副総長だるものだ。名はルイナと言うが、初めましてな、イシェル卿。」


 彼女も又興味深くイシェルを観察しているが、まるで彼を惑わすようにスリムな両足を交差して強調する。

 お姫様は人を使うのに結構大胆だなってイシェルが思った。


「初めまして~で、美しき副総長さんは俺に何か用?飲みにいくとても誘ってくるつもりか?」


「こんないい夜だもの、一杯飲みたくなるのも確かだが、それ以上に男爵閣下と一度勝負したいな。」

「それは勘弁してくれよ騎士殿。そいうのが興味ないんだ。」イシェルが両手を挙げて降参する。


 ルイナが「フフ~」と笑って、「本当に騎士精神がないな。では麗しき我が姫様のお誘いに乗っていただけないかしら?」


「お姫様に誘われたのが嬉しいが、なんかいやな予感するなー。」


「お姫様が曰き、永生魔女の話の続きを聞きたくばって伝えて置けばよろしいと。」

 イシェルの顔が厳しくなった。




 そこに倒れているのはある獣の屍骸だ。

 外見から見ればヒグマと似てるが、体型が二倍以上大きくて、目が人の拳サイズで真っ赤だった。そして毛皮が鉄のように硬くて、一番優秀な猟師であっても手がつけられない存在だった。

 その存在が今、息が止めて少年の足元に倒れている。体の半分がなくなって、血の代わりに漆黒な液体が断面に垂れている。


灰魔熊(ハイマクマ)は魔法が使えないが、肉体の強靭さは尋常魔物では比べられないんだ。この怪物を倒したなら、復讐の日は遠くないさ。」


 魔女は魔物の死体を一瞥して、無関心に言う。

 少年から見れば魔女は何時も倦怠で、関心を持たせることはなさそうだ。

 しかし偶にもその冷たい瞳から何色が光ってくる。何故だかそんな目をしている魔女を見ると鳥肌が立ってしまう。

 少年が自分の右手を見て、黒線は肩まですぐ近いところにきた。


「残りの時間、どれぐらいある?」少年が冷淡に聞いた。


 自分も察しているように、強くなればなるほど、何かを失い続けている。

 あの剣を受け取った日以来、黒い瞳に宿る彩りが段々薄くなり、感情の波動も弱くなっている。


「後一ヶ月も足りないぞ。」


 魔女が少し止まってから聞く:「毎回狩りが終わればユリウスの方へ眺めるが、それは未練か?憎みか?」


「知らん。」


 少年が頭を振った。

「唯必ずそこに帰るしかしらない。でももう戻れない気もする。」

「ならば今すぐ帰ろうか。」魔女が手を振って、夜色みたいな黒いペガサスを呼んできた。

「君がこの剣を握らせた場所に帰ろう。」




 後に少年がどうなったのか、ペトラは今ここで話す気はない。

 わざともったいをつけるように、ペトラが話を終え、背中が城の壁に当たって星空を見上げた。


 イシェルが堪えられなくて:「ペトラ、君は…..」


「どうしたの?」ペトラが彼に瞬いて、その目は子供のように無邪気だった。


「いいえ、何でもない。姫様。」

 イシェルが自分の衝動を控えて、冷静になった。

「ねー、イシェル。」ペトラが気にしないまま、ユリウスの城壁に飛び上がってそこに座った。夜空を横切る銀河の全貌を目に収めるために。


「ん?」


「人が死んだら、お星様になるの?」


「知らんが、ならないでほしいな。」


「冥王の府の原因で?」


 イシェルの目が曇った。

 一年ちょっと前に、エリオンス境内に奇妙な巨物が出現し、そこから冥界の生き物がどんどん湧いてくる。

 その内には赤炎悪魔や夢喰い蜘蛛など太古の怖い生き物も混ざっている。事態が発覚される前に何匹が王都の近くまでに潜んできて、ちょうど狩りに城を出た先王が遭難してしまった。

 国を守るために、イシェルとルイスが新月軍を率いて原因を究明し解決した。


 しかしこの結果は莫大な犠牲を払って引き換えたものだ――イシェルとルイスを除く、新月軍は生還者いない。

 実質滅んでいた新月軍が王室の支持を基に他の軍団から一部の精鋭を引き抜いて新米を募集し、新しく作った。

 それからイシェルが政治に問わなくなり、新月軍副団長の職務も辞めた。

 ペトラが振り返って悲しく笑った:


「あなたがきっと今も悲しんでいるでしょ。みんなが死んで、あなた戻ってきた。しかし星がまだ煌く、未来はやがて来る。」


「星がまだ煌く」とは、エリオンス古語で、何があっても世界は依然として人をやさしくしてくれるのが意味で、人々に生きる勇気を与える。


「だが俺が求める未来は、永遠にやってこない。」


 イシェルも頭上の星空を見上げた、無数の星が彼に圧倒しに来るような窒息感を感じた、

 同じ景色を見ても、違う瞳には違う色彩が映される。

 かつての「自分」も、ワールドカップにミスを犯さなかったら、神田は別のチームに転入することがないかもしれない。チームが解散せずにすむかもしれない。恋ちゃんの病気も金が集まれなくて治れないことにならないかもしれない。


 口には出さないが、本当は誰も自分を責めているのだろう?マネージャーさんも、チームメンバーも、恋ちゃんも、神田も。多分「イシェル」も怯えているのだ、死者からの苛みを。


「もし本当に死んだ人が星になるなら、俺は地上に立てられないんだろう。穴があったら入りたい。」


「エリオンス一番の剣使い、ストライア王家の英雄が、もはや死者に向かう勇気を失ったというの?」


「守るべく人が守れなかったから、彼らの顔をどう合わせるのがわからなくなった。」


「それ以上の人を守ってあげたじゃない?!あなたは正真正銘の英雄よ!」

 イシェルが黙って振り返って城壁のやぐらから降りていく。

 ペトラがため息をついて、激しい感情が収まり、寂しげな笑顔を出した:


「でも私は、何時か天上の星となってほしい。あの人がどこにいて、何かあっても見守ってあげたい。その星が堕ちるまで。」


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