まっすぐな救助
世界にはあらゆる災害が存在し、被害もそれに伴って増加している
そんな世界で危険に飛び込む
「一人」と「一匹」
小さな救助はやがて世界へと広がる
それは世界一つには留まらない
「ふぁ~ 眠い・・・・・・ 」
綱を持つ青年はあくびとだるさを前面に出す
そんな青年の綱に繋がる目つきが悪いと評判の犬
シベリアンハスキーの「シュバルツ」は
心配そうにくぅーんと鳴く
「心配すんな~ シュバルツがいざって時は引っ張るだろ? 」
無茶振りが過ぎる青年に少し困ったかのように前を見つめたあと
元気に吠えた
「任せろ! 」と言ったようだった
「おっ! いいね~ 」
冗談を真面目に受け、その上にこの頼りがいと
親バカ以上にシュバルツを天才犬かと本気で思う
青年は訓練犬を育成する側らで救助医という
「よくぶっ倒れねえな」と心配を命一杯に請け負うそんな人
破走 道筆
「はそう みちふで」というゲーム武器にもじられ
レア武器という仇名だ
しかし「はしり みちふで」なので
「なんか偉くなったみたいでそっちのほうが面白い」と言っている
はしりなのでパシリといじられることもしばしばだが・・・・・・
そんな道筆の睡眠時間は夜の七時から十時まで
なので六時くらいに戻らなくてはご飯がないまま眠る
ちなみにシュバルツも
なので散歩がすごく早い
気が済むと全力で走ることで空腹にするという作戦
この手法は眠気も増加する危険もあるために
諸刃の剣だが毎日、それである
「はぁっ・・・・・・ はぁっ・・・・・・ 」
独特の息による回復法は案外、効くらしく
お腹がちょうど鳴ると同時に
「あっやばい・・・・・・ 」
斬られた侍の如く倒れた
あと橋を越えればの土手の上
きつく握った綱はどうあがいても取れないし
なんか異常に重い
まるで空間に固定したかの様に・・・・・・
手近にあった石を口に持っていく
それは妙に輝きがあり
ツルツルな表面はチョコの様だったから
通常,犬はチョコを咥えたり食べたら高コレステロールで
血圧上昇により鼻血などもありえるが
なりふり構わず押し込む
舌の上に乗った瞬間に光が口から溢れ出す
ビクッと驚き、後ずさりしたが
すぐに口から取り出そうと舌で掻き出そうとした
傍から見たら完全に犬と人のキス
誰も見ていないどころか空間が歪む
それほどの衝撃かと見ている人がいたら思うだろう
そして不自然な光が世界を支配した
異世界グラトルリアス
魔法と器装「ボトム」と呼ばれる機械の世界
「これであの娘は我ら【アストラルエンド】が頂いた・・・・・・ 」
その言葉を放ち、木陰にいた男達の視線には
馬車を駆る金髪の少女がいた
銀の武装を施した馬だが顔が竜で恐らくそれらしい生物
馬車には不思議な紋様があり、輝いている
「まずは紋様の効果だ、あれを・・・・・・」
杖に銃が付いた長い棒を向けて
巨大な黒炎を放つ
辺りを焼き尽くす黒は森を巻き込み
たちまちに馬車を囲む
「見つけたぞ? 光の器装【セイクリッドボトム】の聖女様っ! 」
すっと立ち上がると武装した馬のような生物に手を向け、叫んだ
「セイクリッドっ! 」
たちまち、馬たちは鎧や剣に変化し
聖女にぶつかるように張り付くと
「閃光なりて輝きの聖剣、闇を裂きて空前を開く」
祈るような仕草で唱えた
しかし反応がない
「んっ? 」
手応えの無さに驚きを隠せない聖女
普通の鎧と剣となった威光なき武装で
戦うことを余儀なく迫られる
ぐぅ~っ!
お腹の音が鳴り響く森には一匹と一人
一匹はぐるぐる周りを歩き
真ん中に人が眠っている
時間がどれだけ経ったかはわからない
上にある太陽は空高く大地を照らすぐらいだ
次第にお腹の音の間隔が広がった以外は変わりがない状態
一匹である犬は耳をピクッと動かした
彼方を見つめては唸りだし
思わず飛び出す
そして引きずられる人間は即座に小石にぶつかり目を覚ます
「いっつ~っ! 」
声がしたのと綱を握ったのがわかったシュバルツは
即座に止まる
そして険しく勇ましい顔で吠えた
「この先に要救助者がいるのか? 」
大きく吠えたシュバルツに
ほくそ笑むと全力で走るぞと号令を掛ける
そして綱を解く
先に走ったシュバルツを追いかけながら走るという
器用で体力の使う走法
しかも、曲がったり直線だったりと様々だ
訓練の合間に考えた必殺技という遊びだが
今は最大限に生きた
遠くに見えた煙を捉え、別行動の口笛を鳴らす
少し吠えたあとシュバルツの速度が上がった
そして道筆は最短ルートを数秒、考え
煙に向かいながら走る
剣に向かって容赦なく放たれる炎や氷
それをギリギリで避けながら接近を試みるが
移動系の魔法なのか剣先が付く前に目の前から遠くへと
場所が留まらない
「ぐっ! このままではっ! 」
女性らしからぬ言動で苦虫を噛みつぶす
「さすがに【黒炎の陣】は避けられまいっ! 裏切り者がっ! 」
この状況は二年前の宗教調査に遡る
【アストラルエンド】の前衛である宗教団体
名は無く、秘密裏の行動により
信者を大量に行方不明にした
そして調査の結果
「不法魔法での異世界のなにかを呼び出す儀式という名目による誘拐」
と位置づけ執行が行われた
その時の女性初で部隊長
アリア イルストンこそが
この聖女である
当時、このことは大々的に広まり
光の器装【セイクリッドボトム】の聖女
聖なる光のような金髪と威光により
黒き組織を壊滅と
騎士団の新聞にも教科書にも聖女の活躍が記載された
初の女性騎士団長にして
国が誇る戦力
「折角の資源を台無しにっ! 」
「ふんっ! 資源ってあなたたちは何様なのかしらっ! 」
強がりという余裕を
失笑と言う形で見せつける
「クソッ! あれだっ! 一気に潰すぞっ! 」
炎を放つローブの人間が詠唱を始め
氷の魔法のローブが障壁を生やす
しかし、黒炎と氷壁は後ろにはなかった
煙が少なくなった?
疑問を浮かべたが突破口はそこだと向かう
そして犬笛を取り出し走りながら吹く
たどり着いた光景はあまりに意味不明だった
赤い火花を纏う人に氷壁が塞ぐ突破口
ニヤニヤした少し老いた男
「救助者を阻んでいるのか・・・・・・? 」
拳を強く握り
歯ぎしりと殺意を纏い横から後ろに回り
突っ込んだかと思えば
火花など関係なく手近なローブの男を殴る
「ぐはっ! 」
思わず血を吐くローブの男
氷のローブさえ驚きに後ろを振り向くが
顔面に拳がめり込む
「なっ! 」
少し老いた男がいきなりの襲撃に
腰を抜かす
「なっ何者だっ! どこの所属かっ! 」
「しらねえよ・・・・・・」
シュバルツもいつの間にか後ろで唸りながら牙を覗かせる
「ひぃっ! そっそうだっ! いまからお前を雇おうではないかっ! 」
「あぁっ? てめえはか弱い少女の道を防ぎやがった挙げ句にニヤニヤしやがって! 」
シュバルツに号令を送る
後ろしかない退路に向かうためかお尻をシュバルツのいる方へに出してしまった
普通は絶対ダメで警察犬でも非常時しか不可能だが
服越しのお尻に二点の穴が開く
崩れた後の氷壁を見てガラスかと思いシュバルツに対して気をつける様に目配せする
「大丈夫か?えっとなんて名前・・・・・・ 」
何故か睨んでいる
シュバルツも少し気まずそうだ
「貴様・・・・・・ か弱い少女だと・・・・・・? 」
ハッと教習を思い出す
自責の念によりか弱いと言うと傷つく人がいると
微妙に条件は違うがもしや?と訂正する
「えっと、可愛くて凜としてるから・・・・・・ ん?」
もしかしてこの格好は?
冷や汗が滲み出しながら
周りにカメラを探す
しかし、監督もカメラマンもいなければ設備もない
安心したが違う不安がある
じゃあ、これはどういう理屈なんだ?
「かっ可愛くて凜と? ・・・・・・だとっ? 」
初めて言われた褒め言葉に頬を紅潮する
「仕方ないな・・・・・・ 騎士団預かりで身元を保証しようではないかっ! 」
「騎士団? 」
そうか、ヒロインごっこかな?と推測し
「そうか、騎士様だったのか~ これは失礼を姫騎士様っ!ご無礼を容赦いただきたく存じますっ!」
「そっそうか、わかればよい」
手応えを掴んだことで心の中でガッツポーズを決めた
「それより、その犬を少し撫でても・・・・・・? 」
「シュバルツ~撫でてくれるらしいぞ~」
疑問符を浮かべたような顔で見つめるが
目配せによりビジネスモードになる
ニヤニヤしながらシュバルツを撫でる少女の姿に
「やっぱりこれが理想だな」
馬車に揺られ
舗装もとい土をならしたような道を行く
道中では見たこと無い格好の旅団や
違う馬車から商人の女性に手を振られ会釈したりと
異国の様な風情があった
「シュバルツ・・・・・・ 」
側にいたシュバルツも発想に相違がなかったのか
「ドッグフードは海外製だな・・・・・・ 」
クゥーンと下を向く
日本製のドッグフード
「国産素材満点の庶民の味方【和の粒】これでワンちゃんも健康で元気」
のキャッチフレーズで有名
そして何より安いために道筆に気兼ねなく食べれる
シュバルツの主食である
【和の粒】が絶対に手に入らない
と思うしか無かったのだ
ポケットを探すがお試しの小パックもなかった
「もっもうすぐだっだぞ? 」
なんでこの子さっきからたどたどしいんだ
てか、日本語がうまいな
日本人街があるのか?
「そういえば街の名前は? 」
「セイド ボットマだ」
何語だよ・・・・・・
「じゃあ、ここは地球のどの辺りだ?」
「チキュウ? なんだ? それは」
ああ、勉強がそこまで行ってないのか
「地球ってのはこの星のことだよ」
「何を言っているんだ? 星の名はグラトルリアスでここはグラト皇国だぞ? 」
設定か? その割には真剣なんだが・・・・・・
「あとおっお前はなんていうんだ? 」
「ああ、破走 道筆だ」
「ハシリ ミチフデ? 珍妙な名前だな・・・・・・ 」
「仇名はレア武器だ」
「レアブキか・・・・・・ さすがだな」
頬を紅潮させながら
「ようやく見つけたぞ・・・・・・ 私よりの・・・・・・ 」
少女がほくそ笑んだのは秘密だ
道は続く どこかへと