番外編:バレンタイン
「……絶対、何か入ってるよな」
『チョコ貰っておいて真っ先に出てくる言葉がそれはさすがにどうかと思うぞ?』
本日バレンタイン。
目の前に置かれた魔導師からの『贈り物』を前に一言呟くと返ってきたのはテディからの侮蔑の眼差し。
俺だってこんなこと言いたくねーよ!でも!絶対何か入ってるじゃんこれ!!
「食べてくれる、よね?」
「……」
十中八九、食品以外の何かが入ってる。
魔導師産の何かが入ってる。
かといって捨てるわけにもいかない。捨てるわけにも……いかないっ!!
……捨てたい!
「テ、テディ。お前、甘い物好きだったよな?」
『我何も食べられないから。あと、人の気持ちを蔑ろにするのはよくないぞ』
「うくぐっ……」
くっそ、テディに人の気持ちについて説かれるとは。
分かってるよ。俺だって分かってる。形はともかく、魔導師が俺の為に作った、俺を想っての行いだということは分かってる。
けど、嫌なんだよぉ!!食べたくないよぉ!!魔導師の遺伝子情報とか摂取したくないよぉおお!!
「……ぐっ……ぎっ……ま、魔導師! ……本当に、何も入ってないんだな?」
「うん。信じて」
「……………………分かった」
『言葉が重いなぁ』
やかましいわ!こちとらワンチャン自我奪われる可能性すら考慮してんだぞ!
「…………見た目は、チョコ、だな」
『うむ。美味しそうじゃないか』
「えへへ」
固形物が見えてたら食べなかったのに。
「………………匂いも、チョコ、だな」
『甘くて良い香りだ』
「えへへ」
変な匂いがしたら食べなかったのに。
「…………………………形も……その……凄く……チョコ、だ、な」
『早く食べろ』
「……」
うるせえ、こっちにだって気持ちの準備ってもんがあるんだよ!
「………………………………っ」
じっと見つめる。
ただのチョコだ。ただの一粒のどこにでもあるようなチョコだ。
大丈夫。大丈夫な、はず……っ!!
自分に言い聞かせるようにして、俺は口の中へとチョコレートを放り込んだ。
「…………おいしい?」
「…………」
反応に困った。
「おいしく、なかった?」
「いや……普通にめちゃくちゃうまい」
よくて眩暈に襲われるか吐き気に襲われるかだと思っていた。
しかし、実際はそんなことはまるでなくて普通に美味しかった。
普通に美味しいただのチョコだった。
「……なんか、ごめん。散々言って」
冷静に考えてみれば、バレンタインに自分の何かを混ぜたチョコを渡すなんてのは迷信みたいなもんだし実際にやる奴なんているはずもなかった。
普段の行動があれだからって根拠もなしに疑うなんてほんとに悪いことをしてしまった。
「全然いいよ。それより美味しかったってほんと?」
「……うん。これまで食べたなかで一番美味しかったと思う」
「そっか……」
普通、善意で渡したものをあんな散々な扱われ方したら怒る。にも関わらず、魔導師は俺の言葉を聞いて本当に幸せそうに、安心したように優しい笑みを浮かべるだけだった。
……なんか、ほんとに悪いことしちゃったな。
これからはもっと魔導師のことも信用して――
「良かった。私の血が口にあって」
「入ってんじゃねぇかっ!!」