異世界の遊び1
「すごろく……?」
「はい! 自分が一番最初に居た世界であった遊びなんですけどね、ちょっと自作で作ってみたんで遊びませんか!?」
「……まぁ、いいけど」
午後のどうにも空気の緩む時間帯。
やらなければならないけれど、やりたくない書類仕事から目を逸らし、城への侵入者や【煉獄】の断末魔を聞きながら、一度昼寝をとるのもありかもなーなんて考えているとユーリが空間魔法で直接部屋へととんできてそんな提案を。
昼寝か何やら面白そうな遊びか。
どちらをとるかなんて決まりきった話だ。
『ふむ。よく分からんが我も参加するぞ』
「どーぞどーぞ! 人数が多い方が楽しめますからね!」
「じゃあ、私も参加する」
「ひぇっ……。来てたんですね、魔導師さん」
「当たり前みたいに入ってくるのやめろ」
気づけば隣を陣取る魔導師。
声を出すまで全く存在に気づかなかった。
いつものことながら怖すぎるわ。
『それで? 我は一体何をすればいいのだ?』
「あ、えっと、まず、この駒がテディさんになります。で、これが魔王さんで、これが魔導師さん、それからこれが自分になります」
なんかやたらとノリノリな魔王の催促を受けてユーリがそんな風に説明を始める。
えっと……この黒色の駒が俺か。
んで、テディが青色、魔導師は白色。そして、ユーリは赤色。
「ルールはとてもシンプルです! これから皆さんには順番を決めてこのサイコロを振って貰います。そして、サイコロで出た目の数だけこのボードのマスを進み、マスに書いてある指示に従って貰います。最終的に一番最初にこのゴールのマスに辿り着いた人の勝ちです!」
「……了解。特に難しいことは何もなさそうだな」
なるほどな。
ざっと見た感じ、マスに書かれてる指示ってのは一回休みだったり一進んだり戻ったりもう一回サイコロを振ったりといったもの。
サイコロの目は一から六だから、その範疇で最も自分の駒が前に進む目を出し続けるゲームってわけだな。
「……ルールは分かった。一つ、提案がある」
「提案、ですか?」
「うん。このゲームは一位から四位まで順番が決まる。だから、一位は四位に何でも好きなことを命令できるってことにしよう」
おっと、サイコが楽しいゲームを闇のゲームに変えようとしてやがる。
「反対」
「……どうして?」
「言わなくても分かるだろ……。俺にどんな命令するつもりだ?」
「……貴方が四位にならなければ何の問題もない。まさか、自信がないの?」
「……俺がそんな安い挑発に乗るとでも?」
『青筋浮かんでるけど?』
「殺すぞ」
『ちゃんとぶちギレてるじゃん』
自信のあるなしじゃない。
こういうのはよくない。
というかそんなルールを採用してしまったら、絶対にイカサマが横行する。
純粋にゲームを楽しみたい身としてそれは困るのだ。
「いいから。とにかくイカサマは当然禁止だし、イカサマの理由になりかねない勝負ごとも禁止。ゲームはゲームとして節度をもって楽しむこと。いいな?」
「了解です!」
「……仕方がない。今回はそれでもいい」
『元々、我は楽しめればそれで良かったからな。構わんぞ』
それぞれ腹に抱える思考には違いがありそうだが、とりあえずの言質はとった。
これでイカサマをやろうものなら速攻で追い出してやる。
特に魔導師。
『さて、それじゃあ我からいくぞ』
俺の膝から降りて、両手でサイコロを握ってテディが尋ねる。
順番による若干の不利有利はあるが、まぁそれくらいならいいだろう。というか、こんな目キラキラさせてる奴にお預けくらわすのはちょっと良心が痛むわ。
他も大体同じような考えらしく黙ってこくりと一度頷く。
『クックックッ! 見せてやろう! これがかつて最凶と恐れられた魔王の力だ!』
「ちょっとしたゲームにんなもん使うんじゃねーよ」
もちろん口だけ。
テディベアの肉体じゃ全盛期の一割の力も発揮できないし、発揮する気もありはしない。
ただ、口だけの気持ちだけの問題としても、案外意味はあったらしく。
『……六! 六だぞ! さすが我!』
特に不信な点もなくコロコロと盤の上を転がったサイコロはもっとも大きな目である六を上にして止まった。
『いやぁ、さすが我! このままぶっちぎりの一……位?』
「『特に理由のない即死魔法に襲われた。スタートに戻る』だってさ」
『…………鬼! 鬼畜!』
「俺に言うなよ」
いくつか見たマスの内容で察しはついていたけど、やっぱりこのゲームのマスは俺達になぞらえて作られているらしい。
つまり、ユーリにとって俺は特に理由もなく殺しにかかってくるヤベー奴となっているわけだ。泣くぞ。
「次、誰行く? 誰もいないなら俺行くけど」
「自分はあとでもいいですよ!」
「私も。貴方のあとにする」
「オッケー。じゃ、行きますよっと」
サイコロを振る。
一見すると完全に運任せにも思えるけれど、実際はそうでもない。
振り方次第で出目の操作くらいは簡単にできるのだ。
イカサマ?おいおい、これは技術だぞ?
「……五、だな。『煉獄を一撃で倒して自信がついた。もう一度サイコロを振る』か」
『あ、ずるい!』
「ずるくねーよ」
というわけでもう一回。
次は……ここだな。
「……四。『勇者の弱点を暴いた。二進む』」
『むむむ……お主、まさかと思うがイカサマを』
「してないしてない」
というか、煉獄の奴ゲームの中ですら殺されてるのな。
しかも勇者の弱点とか今更暴くまでもないし。
「次は私」
「ん、ああ。ズルすんなよ?」
「分かってる。でも、一つ確認」
「……?」
「イカサマはダメ。でも、自分の持っている力を使うぶんにはイカサマにはならないよね? だって、それはイカサマじゃなくて技術だもん」
「…………うん」
『なんだ、今の間は。……まさか、お主』
「さ、早くやろうぜ。このあとユーリの番もあるからさ」
「うん。分かってる」
何かに勘づいたようにこちらを訝しげに見つめるテディ。
その視線から逃れるように俺は魔導師にサイコロを振るように促す。
いや、別に技術だから。イカサマじゃないから。バレても問題ないから。というかサイコロ振るってなると必然的に俺の場合は出目が分かっちゃうから仕方ないんだよな。
「【祝福】【祝福】【祝福】【祝福】【祝福】【祝福】【祝福】【祝福】【祝福】」
「おい待て。さすがにそれはダメだろ」
このやろう。運気上昇させる魔法重ねがけしやがった。
「どうして? 魔法は私の技術。だから、これはイカサマじゃない」
『堂々とめちゃくちゃ言い始めた……。というかそれがありなら我もやれば良かったじゃないか』
「気づかないテディが間抜けなだけ」
『ただ純粋にゲームを楽しもうとしただけなのに酷い言われよう』
「つーか、あれだな。それがありなら俺も即死魔法でお前ら皆殺しにしてずっと俺のターンやればよくね?」
『もうやだこいつら』