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魔導師はご褒美が欲しい

「……おかしいと思う」


「頭がか? やっと気づいた?」


『お主、ほんと魔導師に対して辛辣すぎんか?』


「うっさい。これでもかなり我慢してるんだぞこっちは」


 夜中、ふと目を覚ました時に隣でこいつが寝てても悲鳴をあげるだけで特に怒らなかった。


「気絶してただけだよね?」


 それに、こいつが悪趣味な魔法使って「できちゃった❤」って言われたときは心当たりとかまるでなかったけど、もしかしたら俺が寝ている間に薬か何かでって可能性があったから父親になる覚悟まで決めた。


「でも、私が魔法で体型変えてただけって気づいたら全部なかったことになったよね? 既成事実さえ作っちゃえば嘘じゃなくなってたのに」


「ねぇ、さっきからナチュラルに俺の思考読むのやめてくんない!?」


 というかなんでこいつ不満げなんだ。普通にどれもこれも事案だぞ。見逃しただけでも優しいだろ。


『……怖っ』


「おい、マジな反応やめろ」


『いや、だって……お主って結構優しい奴だったんだな』


「このタイミングで褒められても何も嬉しくねぇ!」


 テディの気を遣うような態度が逆に辛い。

 なんというか、これまで何だかんだで見逃してきたことが実は絶対に見逃しちゃダメなことだったんじゃないかみたいな。

 色々ありすぎて感覚麻痺して気づいてなかっただけで、こいつ実は俺が思っている以上にヤバイ奴なんじゃないかみたいな。

 正体の分からない悪寒を感じる。


『ところで、魔導師は何がおかしいと思うんだ?』


「そーいや、そんな話だったな」


 俺の感じる悪寒なんて知ったことかとでも言うように話を変えるテディ。俺としても忘れちゃった方が幸せそうな話題なのでテディに便乗することに。


「……あの子と最近仲良いよね?」


「ん? ……あぁ、ユーリのことか?」


「うん。気に入ったの?」


「まぁ、便利な魔法持ってるし、気さくな奴だし」


 いまいち質問の意図が掴めない。

 ただまぁ、俺が異世界転生者ことユーリと最近仲が悪くないのはその通りだ。

 空間操作ってかなり便利な魔法使えるからついつい頼み事しがちになってるんだよな。あと、単純に人懐っこい性格してるから話しやすいってのもある。

 あいつすごいんだぜ!話してる最中にセクハラ発言して同僚に殺されたりしないし、ドMでもドSでもサイコでもない!完璧じゃないか!


「気に入ってくれたなら嬉しい」


「ん」


「でも、あの子を連れてきたのは私。つまりあの子が貴方に気に入られることをしたならそれは私の手柄。だから、貴方はもっと私に優しくするべき」


「……ん?」


『……怖っ』


「だから、マジトーンはやめろと」


『何が怖いって、あれ完全に自分を正しいと信じて疑ってないんだよなぁ……』


「いや、まぁそれはもう今さらだからさ」


「そういうわけで貴方は私にご褒美をあげるべき。例えば貴方自身とか」


「ごめん。前言撤回、あいつやっぱ頭おかしいわ」


「大丈夫、ちょっとだけでいいから」


「何が大丈夫?」


 なんだよちょっとだけって。

 指か?指で良いのか?良くねえよ。俺が良くねえよ。

 大体、何に使う気だよ。


『……一応聞くが、一体何に使う気なんだ?』


「クローンを作ろうかと思って」


「こいつマジで捕まんねぇかなぁ……」


 俺のクローンで何する気だよ。

 というかすでにクローン魔法完成させてやがったのかこいつ。

 それ王族が抱えてるそこそこ優秀な魔道士共が喉から手が出るほど欲しがってる魔法だぞ。


「もちろん、クローンは所詮クローンだから本物の貴方には及ばない。だから、そんなに嫉妬しないで?」


「眼球くりぬいてきれいに洗ってやろうか?」


 何をどう見たら嫉妬しているように見えるのだろうか。


『ちなみにそのクローンで何をするつもりなんだ?』


「……何って…………テディのエッチ///」


『ねぇ、今の我が悪いの?』


「悪いのはあいつの頭だから安心しろ」


 人類が躍起になって研究してる魔法で何する気だあのサイコ。

 ……一応、忠告しとくか。


「おい、魔道士」


「……?」


「自分がどんなヤバイ魔法作ったか分かってるんだろうな? その魔法が広がれば、クローンが戦争をする際の戦力になる。そうなれば、また人間同士での争いになるかもしれないし、これまではあり得なかったような非人道的な戦術が当たり前みたいにとられるようになるかもしれない。下手すれば人類が滅ぶぞ」


 魔王の存在が人間同士の争いの抑止力になるのは、人間が有限な資源だからだ。

 しかし、もし戦力が無限に作り出せるようになったのなら、魔王の存在は抑止力にはなり得ないだろう。

 強大な敵がいるから人間は手を取り合う。自分の持つ資源では強大な敵に対抗できないから手を取り合う。


 無限の戦力を得たなら、きっと魔王にも同じ人間にも無限の戦力を送り込むだろう。

 無限の戦力って意味では俺の蘇生魔法も似たようなことはできるし、こちらは一人一人が人間よりも優秀な魔族なのだから、負けることはないと思う。

 けど、そもそも俺がここにいるのは人間同士の争いを止めて平和な世界を作るためだ。


 勇者の願いをその仲間の魔導師に台無しにされたら困る。


「……自分達でまともに管理も出来ない力に頼るほどバカならいっそ滅んだ方が良いと思う」


「そのバカの犠牲になるのは勇者が助けたいって言ってる奴らだろうな」


「……」


「……」


「……うん。分かった。気を付ける」


「……助かる」


 魔導師は優秀だ。

 優秀で俺達の仲間で目指す場所も同じはず。

 なら、きっと大丈夫。


「でも、それはそれとして私は貴方のクローンが欲しい。そもそもこの魔法はそのために作った。もう、できる限り人間の質感に似せた抱き枕じゃ物足りない」


「抱き枕すら初耳なんだが!? というかくだらないことの為に人類滅ぼしかねない魔法つくってんじゃねーよ!」


「だって……貴方が昼間から激しいから……///」


「お前、訴えてやるから覚悟しとけよ!!」


 抱き枕相手に何やってんだこいつは。

 

『まぁ、ほら、欲って時々凄い原動力になるから』


「その結果人類が滅ぶとかシャレにもならんわ!」


『お主が魔導師と結婚すれば全て解決だぞ?』


「テディ……良いこと言う」


「良くねえよ。一番ダメな選択肢だわ」


『なぜだ? 愛すより愛される方が幸せなんて言うだろう?』


「そういうことじゃ…………いや、待て、おかしいぞテディ」


 怖がっていたはずだ。

 テディは魔導師に引いてすらいたはずだ。

 なのにこの変わりよう。


「ちょっとお前顔見せろ」


『な、何を……』


 抵抗しようとするテディを押さえつけて顔を覗き込む。

 その目は以前、誰かさんの写真集を見て気が狂った連中と同じように濁っていた。


「……どうしたの?」


 声に後ろを振り向く。

 キョトンとした顔をしていた女は、俺と目が合うと何一つ悪びれる様子なくニコリと微笑んだ。


 うん、やっぱこいつと結婚とか絶対ダメだわ。

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