元勇者パーティー
「久しぶりだな!! 元気にしてたか!?」
「……ま、見ての通りって感じかな。そっちは相変わらずうるさいな。あと扉直せ」
『魔法剣士……』
元勇者パーティーの一人、魔法剣士が記憶にあるやかましさそのままに直したばかりの扉を蹴破る。
お前ら揃いも揃って扉の開け方も分かんないの?乳児からやり直せば?
『……この男が夜な夜な女装してるのか』
「おい、やめろ。せっかく忘れてたのに思い出しちゃったじゃねーか」
小声で呟くテディを反射的に黙らせる。
考えないようにしてたのに、余計なことを。
『いや……だが……めちゃくちゃ筋肉質だし髭とかも凄いぞ?』
「大事なのは気持ちなんだよ。もういいから黙ってろ」
いや、知らんけどね。
実際、魔法剣士の服の上からでも分かる引き締まった肉体美と無精髭は俺の視点から見たってとても女装に向いた容姿だとは思えない。
そもそも「ダンディーな大人の男」という印象が見た目からは強い魔法剣士に女装が似合うとも思えない。
一種のファッション、趣味にしたって結構ぶっ飛んだ選択だとは思う。
だからこそ、分からないなら部外者は余計な口出しはすべきでもない。
魔法剣士が何を目的に夜な夜な女装してるのかだって俺達は正確には知らないのだから。
「それにしても随分と散らかってるな!! 掃除とかしないのか!?」
「今してるだろ。というかこれを散らかってるで片付けるな。いつもだったらもっと綺麗な部屋だわ」
言いつけ通り扉の修復に取りかかる魔法剣士。
ガゴンッ!とかギャリンッ!とかおよそ扉から鳴ってはいけない音をたてながら扉を修復する彼だったが不意に振り返ってそんな言葉を投げ掛ける。
失礼な話だ。
あのバカ弟子が散々荒らしていっただけでいつもだったら俺の部屋はもっと整っている。
そもそもこの部屋の散らかり具合はどう軽く見積もっても「何かの襲撃」があったと分かるだろうになんで俺の管理不足みたいな言い方をされなきゃいけないのか。
それともなにか。お前は部屋散らかしたぐらいで天井や床にヒビ入ったり壁が傷だらけになったりするのか?
「よしっ!! 直った!!」
ギャゴオオンッッ!?と一際鳴ってはいけない音が鳴り響き魔法剣士はそう告げる。
嘘だろと言いたくなるけど、実際それで扉はバッチリ直っていた。なんなら壊れる前より艶が増している気すらする。
「つーか、他の連中は?」
真っ先にやらせなければならないことは終わった。
なのでずっと気になってたことを問いかける。
こいつら揃って来るってことができないのか。
「ああ! あいつらは手ぶらは悪いから何か良いもの探してから行くって言ってたぞ!! そんなの気にしないのにな!」
「実際気にしないけど、部外者に言われると腹立つな」
何笑ってんだ。
手土産代わりに首でももいでやろうか。
「まぁ、そういう訳であいつらが来るのはもう少し後になる! せっかく久しぶりに会ったんだ!! その間手合わせでもしようじゃないか!!」
「やだよ。めんどくさい」
ただでさえこのズタボロの部屋片付けないとダメなのにこれ以上やることを増やすな。
「暇なら部屋の片付け手伝ってくれ」
冗談抜きでテディの手でも借りたい。
『我も何か手伝う?』
「…………いや、いいよ」
まぁ実際モフモフの手なんて貸されても何の役にも立たないのだけど。
◇◆◇◆◇
「……訳が分からん」
どういうことか。
ゴキャッ!とかメキョッ!とかとても片付けとは思えない音が鳴れば鳴るほどにひどい有り様だった部屋は修繕されていき気づけば元あった以上の綺麗な部屋に変わり果てていた。いや、嬉しいんだけどね。
「あれ? あの子が来たにしては凄く綺麗だね。上手く言いくるめたの?」
「そういや、俺まだご祝儀とか渡してなかったよな。新居に辺り一帯吹き飛ぶレベルの爆弾送るからそれで許してくれ」
『お主、ご祝儀の意味知ってるか?』
扉が開き俺の部屋が散々な状態になる原因を作った男の声がした。
反射的に返した恨み言を呆れたような表情でテディが拾う。
新居を解体してもう一度建て直す機会をくれてやろうという俺の粋な計らいが分からないのだろうか。
ついでに勇者もくたばれ。
「か、買ったばかりの新居がバラバラに……へへっ、絶対やめてよ? 絶対だからね?」
「なにこいつ無敵かよ」
『うーん……』
口では嫌がりながらも恍惚の表情を浮かべ息の荒いその姿を見れば何を考えているのかは察しがつく。
どう転んでもおいしいとかズルい。
「爆弾を送るならあの人の体内にしてね? どうせ死なないから」
「スプラッタ間違いなしじゃん」
ひょこっと勇者の後ろから顔をだしてそんなことをぬかす僧侶。
そもそも旦那がその扱いでいいのかお前。
「はい。これお土産♪」
「――ひぃっ!? ……いきなり後ろから出てくるのマジやめろ!」
旦那の殺害依頼とも受け取りかねない僧侶の提案。
それに気をとられ過ぎていた。
いつの間にか背後に回っていた魔導師が左手を俺の腰に回し逃げ道を塞いだ上で右手を伸ばし紙袋を見せる。
ねぇ、お前ほんとに魔導師?もしかして殺し屋かなんかだったりしない?
『ちなみにお土産は何なのだ?』
「私の写真集」
「テディ、今すぐ塩持ってこい」
お土産って肩書きさえあればゴミ持ってきてもいい理由にはならないからな。
というかなんでお前の写真集なんかあんだよ。
『うおっ……! これはなかなか……!』
「お前に見せるために持ってきたんじゃない」
『ギャーーッッ!?』
水着姿の魔導師の写真を見て年甲斐もなく声をあげる元魔王、現テディの目に指と罵倒が突き刺さる。
何やってんのこいつら。というかテディ痛覚あるのな。
「……今、下に着てるんだけど見たい?」
「スプラッタもストリップも見たくない。というかお前らちょっと大人しくしてろ」
『我は見たい』
「お前は黙ってろ」
『ギャーーッッ!?』
「……」
何をやってんのか。
……いや、けど、いくらなんでもテディがここまで過剰に反応するのはおかしくないか。
まさかこいつ写真集になんか仕込んでるんじゃ……。
「魔王様、準備が整いました」
……いや、余計な詮索はやめておこう。絶対ろくなことにならない。
「了解。ありがとな【氷姫】」
「いえ、これも私の仕事ですから」
扉を開け俺たちを呼びに来た【氷姫】に従い部屋を後にする。
魔王城の大広間で開かれた友人だけの結婚パーティーは集まるまでのどたばたが嘘のように滞りなく満足のいく結果に終わった。
ところで後日、魔導師の写真集を買った男達が悉く常軌を逸した様子で魔導師に求婚をしに行って何人か死傷者も出ているらしい。
あいつ見た目は良いもんなぁ(棒)。