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勇者の弟子

「久しぶりね!」


「……ん、そーだな」


「……? なんか疲れてない?」


「……へへっ、メンヘラサイコに汚されちゃった。俺もうお婿に行けねぇや」


「そうなの? じゃあうちのペットになる?」


『提案が斜め上すぎるうえに何も解決していないんだが……』


 元勇者パーティ揃っての結婚祝い。その当日。

 玉座で膝を抱え込んでいた俺に幼馴染みの僧侶が声をかけた。

 内容は普通に最低だった。

 慰めろよ。


「あら、お久しぶりです魔王様。お元気そうで何よりです」


『それ絶対殺した相手に言うことじゃないよね?』


「つかぬことをお尋ねしますが、今のそのぬいぐるみの姿でも聖魔法は効果抜群なのでしょうか?」


『獲物を狩る目やめて? 元の姿の我ならともかく今の姿の我が聖魔法くらってのたうち回るとか絵面最悪だからね?』


「……ものは試しですね」


『なんで我、いきなり客人に浄化されそうになってるの? 我、なんかした?』


「……まぁ、生きてたらそういうこともある」


『あってたまるか』


 噛み合うような噛み合わないような会話。

 それから「我、絶対悪くないよね」とでも言いたげな目でこちらを見上げる膝の上のテディに適当な返事を返せば音速で突っ込みが返ってきた。

 よっぽど浄化されるのは嫌らしい。

 というかお前が俺の上に居たら俺にも当たるんだけど。退いてくんない?


 いや、それ以前にお前ら傷心中の俺を少しは慰めろよ。


「……つーか、他の奴らは来てないの?」


 明らかにオーバーキル間違いなしな大詠唱を行う僧侶。

 たぶん放っておけば俺を巻き込むとか関係なしに最大威力の奇跡が襲いかかってくる。

 大人しく痛い目を見るつもりなんて微塵もないので詠唱を遮るつもりで一つ質問を投げ掛けた。


 何も詠唱をやめさせることだけを目的にしたものではない。

 たしかに結婚祝いは今日だけど、まだ約束の時間には早いし僧侶以外の気配をまるで感じないのだ。

 となれば僧侶一人でここに来たということになるけれど、そんなことをする理由が分からない。


 ……いや、この楽しそうな顔を見るにテディをいびりに来ただけかも。

 

「あー、ちょっと、ね……」


 なんかそういうわけでもないっぽい。

 俺の質問を聞いた途端にバツの悪そうな顔をして僧侶は顔を背けた。

 凄い嫌な予感がする。


「…………何かあった?」


「いや……その、弟子がね……」


「は? 弟子? 何の話?」


 肩まで伸びた青い髪を弄りながら忙しなく視線をあちこちに動かしながら僧侶はそんなことを口にする。


「ほら……あの……勇者の弟子になりたいって子が弟子入りしててね。それで、その……」


「……?」


◇◆◇◆◇


「覚悟しなさい魔王! 今日がお前の最期よ!!」


「……」


 僧侶に面倒事を頼まれてから一時間。

 面倒事は扉を吹き飛ばし腰の剣をこちらに向けてやって来た。


『なんだ。勇者の弟子だなんて言うからてっきり少年剣士かと思えば可愛らしい女の子じゃないか』


「扉もまともに開けられん辺り、頭は可愛らしいな」


「ちょっと! どういう意味よ!」


 艶やかな金髪に青い瞳、それから少しばかり子供が持つには物騒な圧を放つ剣。

 情報通り。あの頭の弱そうなガキが勇者のバカのバカ弟子なのだろう。


「お前、親に知らない人の家に行くときは扉を蹴破って入りなさいって教えられたのか?」


「うぐっ!? そ、それは……」


「それは?」


「それは……」


 うんうん唸りながら居心地悪そうに俺から目を剃らすバカ弟子。

 僧侶の奴、本当に面等なことを頼んでくれる。


 何でもうっかりこのバカ弟子に今日、ここに来ることやここで何をするつもりだったかを聞かれたのだとか。

 それでうまいこと言いくるめて情報が漏れないようにと勇者と僧侶で色々やったら俺が勇者達をたぶらかしているとバカ弟子は捉えたらしい。


 なんでそうなる。


「その……ごめんなさい。扉に罪はなかったわ……」


「……」


 あとはまぁ、僧侶に丸投げされた。

 マジでふざけんなよあいつら。


「……あぁ、めんどくせぇ」


『まぁ、そう言うな。可愛らしい女の子じゃないか。お主好みではないのか?』


「めちゃくちゃ言うな。勇者の弟子ってことはあいつの子供とほとんど同じじゃねぇか。ダチの子供に好みもくそもあるかよ」


 逆ギレでもなんでもすればいいのにくそ真面目に頭を下げるバカ弟子。

 こういう勇者(あいつ)っぽいところを見せられるとなおのことやりにくくなる。

 大体、なんとかしてくれってなんだ。

 なんとかってなんだよ。

 殺せばいいのか?

 良いわけねぇわ。


 あぁもうほんとにめんどくさい。


「でも、あれよ! それとこれとは話が別だから!」


 用事思い出して帰ってくれねぇかなぁ。

 膝の上でテディの耳を弄りながらそんなことを考えていると突然下げていた頭を勢いよくあげてこちらを指さしてバカ弟子はそんなことを言ってのける。

 あれとかそれとかこれとかどれだよ。


「お前が私の師匠をたぶらかしていることは知ってるのよ! 卑怯者! 師匠の昔の仲間だからってそれを利用するなんてあんまりよ!」


『……なるほど、どんな勘違いをしているのかと思えばそんなことか』


「どんな勘違いでも面倒なことには違いないけどな」


 小さく呟くテディに俺は小さく応じる。

 バカ弟子のしている勘違い。それは少なくとも本当のことを知られてしまうよりかはよっぽどまし。

 下手なこと言って俺と勇者の関係性に辿り着かれでもしたらそれこそ笑えない。


「それで? お前はどうしたいんだ?」


 だから、肯定も否定もしない。

 何をしたいのか。大方予想はついちゃいるが適当にあしらっておけばいつかは諦めるだろう。


「決まっている!! 師匠が情でお前を殺せないのなら、私が師匠に代わってお前を討つ!!」


「……あっそ」


 適当で無関心な返事。

 それからできるだけ怠そうに立ち上がって見下し腰の剣に手をかける。


『……いいのか?』


「仕方ないだろ。殺すわけにもいかないし。かといって変なこと言って余計こじれても困るし」


 剣を使うのなんて久しぶりだ。

 そんな俺を気遣うように声をかけるテディだが、これ以外に選択肢なんてないのだからいいもよくないもない。


◇◆◇◆◇


『……想像以上だったな』


「……そうだな」


 壁は斬り裂かれ、床には亀裂が入り、天井には穴が開いている。

 これら全てバカ弟子との戦闘によるものだ。

 いや、あれは戦闘と言っていいのか。


『まさか、ここまで攻撃当てるの下手とは。我、もしかして部屋破壊するのが目的なんじゃないかって思ったぞ』


「……」


 とりあえず二度と来ないでほしい。

 傷一つない自身の体にそんなことを思った。

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