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魔王は死んだ。けれど世界は平和にならない。【連載版】  作者: 日暮キルハ


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12/14

六魔将【冥府】

「…………ん、【冥府】か。帰ってたの?」


 夜。というか深夜。

 ふと、なにやら体に負荷を感じ、目を開けるととある仕事で外に出てもらっていた部下が俺に馬乗りになっていた。


「はい。先ほど」


「そっか。んで、何で俺の上に?」


「そこに魔王様の体があったので」


「意味分からん。……コーヒー淹れるけど飲む?」


 月明かりに照らされた【冥府】の顔は青白く、目の下にはくっきりと隈があった。

 とても健康体には見えない。けれど、これが【冥府】なのだ。

 いつも通り、それどころか今は彼女の好む夜の時間なのだから、むしろいつもより健康と言ってもいい。

 そんな彼女が依頼を終えて自室に遊びに来たのだ。眠いなどと言っている場合でもないだろう。


「砂糖とミルクたっぷりでお願いします」


「あいよ」


 さて、しかし、そうなるとどうしようか。

 俺だけで【冥府】と話すことは別に何の問題もありはしない。けど、久しぶりに帰ってきたのに話し相手が俺だけというのも少し寂しいだろう。

 あと、俺が寝落ちした時用の生け贄が欲しい。テディでいいや。


「おい、テディ。起きろ」


『ん……もう、朝か?』


「いや、深夜だけど」


『寝ろ』


「残念、お前も俺もこれから起きるんだよ」


『我への嫌がらせのためにそこまでする?』


 俺のベッドの隣の棚の上で座りこむようにして眠っているテディを揺すって起こす。この会話だけで普段テディが俺のことをどう思ってるかよく分かるよね。永眠させてやろうか。


「いや、【冥府】が帰ってきたからさ」


『ぬぬっ! それを早く言え!』


「俺の時と反応違いすぎない?」


『お主、自分が寝れないからと我を叩き起こしてトランプに付き合わせたこと忘れてない?』


「そんな昔のこととか覚えてるわけないじゃん」


『三日前だぞ』


「……コーヒー飲む?」


『びしゃびしゃになるわ』


 これはちょっと分が悪いな。話を変えよう。


「……そういやさ、俺のベッドで当たり前みたいに魔導師が気持ち悪い抱き枕抱いて寝てる話ってしたっけ?」


『話題変えるにしてもその選択は最悪だと思うよ、我』


◇◆◇◆◇


「はい、どーぞ」


「ありがとうございます。……甘くて美味しいです」


『コーヒーの感想?』


 コーヒーと言うにはあまりにも白くて甘い香りの漂う液体を美味しそうに飲む【冥府】にテディが呆れたような顔を見せる。

 いつものことだ。いい加減慣れろ。


「……んで、頼んだことは上手くいった?」


「はい。完璧です。皆殺しにしてきました」


「……」


 俺が頼んだのクーデター企んでるかもしれない(・・・・・・)奴らの調査だったんだけど。


『お主、一体何頼んだの?』


「いや、待て誤解だ」


 テディから非難するような視線が向けられる。

 もし、これが他の六魔将の誰かだったのならこんな目で見られることもなかっただろう。むしろ、頼んでもないのに毎日六魔将同士で殺し合い始めるくらいなんだから文句つけられる謂れもない。

 けど、【冥府】は別だ。

 彼女の境遇と見た目の幼さを知っている以上、あまり血生臭いことは頼めない。頼めるけど頼みたくもない。

 

 だから、今回頼んだのもあくまで調査だったのだけど……。


「クロでしたよ。魔王様に楯突こうなんて考えるだけでも愚かしいことですから、自害するか殺されるか選べと言ってあげたら襲いかかってきたので殺しました」


『……お主のせいでうちの娘がグレちゃったんだけど?』


「いや、これは別に俺関係ないだろ。俺が頼んだのはあくまで調査だし」


 責めるような視線が向けられるが、これに関しちゃお門違いも良いところだ。誰が殺せって言ったよ。俺は逆らう奴は皆殺しみたいな統治するつもりはねーぞ。


「……ま、いいか。やったことはもうしょうがないし。どうせ生き返るから問題ないだろ」


『倫理観って知ってる?』


 そんなの今さらだぞ。


「【冥府】、次からは殺しちゃダメだぞ? 必要以上に刺激するのもなしな?」


「…………そんなことより魔王様。【冥府】は頑張りました。ご褒美が欲しいです」


『話題変えるの下手すぎない?』


「テディ、うるさいです。魔王様?」


「……ちゃんとさっき言ったことが守れるならな」


「……っ! はい! 頑張ります!」


 さっと両手を広げてウェルカムの【冥府】。

 それを見て何を望まれているのか分からないほどバカではないし、彼女がそれを望むくらいに俺を慕っている理由だって心当たりはついている。


 ただ、不老不死の彼女に死ぬことができる(・・・・・・・・)希望を与えただけ(・・・・・・・・)なのに。

 それを喜ぶ彼女にも、そんな最低な解決にも関わらず慕われている自分にも腹が立つ。


「……まだ、死にたい?」


「はい。でも、最近は死ねるって分かったから、ちょっとだけ生きることが楽しいんです」


「……ごめん」


 抱き締めた小さな体から熱は感じない。

 まるで死人のように冷たく硬い体に何度繰り返したか分からない感情を抱く。


 死にたいと望む彼女を、俺は死なせたくない。


「謝る相手が違う。そんなの抱き締めるくらいなら貴方は私を抱き締めるべき。ベッドで。夜はまだまだこれから」


 お前は死んでくれ。

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