異世界の遊び3
「と、いうわけで! 改良に改良を重ねた完成品がこちらです!」
「もはや原形留めてないなこれ」
ボードのサイズが最初にユーリが作った奴の三枚分くらいはあるんじゃないだろうか。
マスの内容もざっと見ただけでもかなり変更されているようで、そもそもゴールが七つも用意してあってマスによって円が描かれている。そのうえ、道も一直線というわけではなく、あちこちに分岐が設置されていた。
そして、何よりも大きな違いは意味ありげな『カード』と『コイン』がボードのど真ん中に束となって積まれていること。
ユーリ曰く、すごろくでありながらもプレイヤーの個性が存分に発揮されるゲームに仕上がっているらしい。
まだ遊んでないから分からないけど、どう見ても楽しい奴じゃんこれ。
『わくわく……っ』
テディも俺と気持ちは同じらしく、ぬいぐるみの腕を器用に構え、落ち着かない様子で忙しなく立ったり座ったりを繰り返している。
何この可愛い生き物。中身が父親世代のおっさんだって知らなかったら絶対抱き締めてたわ。
「……はっ! ……わくわく」
そんな俺の思考を汲み取ったのか、まるでテディを真似るように魔導師は腕を構え、体を揺すり上下させ、そわそわした様子を表現する。
何この腹立つ生き物。なまじ見た目だけは良いだけにあざとさしかないのに格好がさまになってるのが余計に腹立つわ。
「さくっと説明頼むよユーリ。たぶん、これまでとはかなりルールも変わってるだろ?」
「そうですね。前回のものからの大きなルールの変更点は二つです!」
『ふむ、思ったより少ないんだな』
「はい! できるだけシンプルで覚えてすぐに遊べるような分かりやすいルールにしたかったので!」
「で? その変更ってのは?」
「一つ目は勝利条件です! 前回のものは一番最初にゴールした人が勝ちというルールでしたが、今回のものは違います!」
『……ゴールがいくつもあるのを見るに、たくさんゴールすればいいのか?』
「勝つためにはそうする必要がありますが、それだけじゃありません! 勝利条件は、全てのゴールに誰かがゴールした時点で最も多くの『コイン』を手にしていることです!」
『……うぬ?』
「……なるほど。面白そう」
「そういう感じか。……結構考えないと足元掬われそうなルールだな」
コインの獲得枚数によって順位が決まる。
では、そのコインはどのようにして手に入れるのか。
それはボードを見れば分かる。例えば、あるマスには『コインを一枚獲得!』と書かれている。意味はそのままだろう。逆にコインを失うようなマスもある。
そしてゴールだが、一つのゴールにつき一人のプレイヤーしか入れないように出来ていて、ゴールしたプレイヤーはコインを十五枚獲得できる。マスで得ることのできるコインは最大で三枚ということを考えると勝利にゴールは必要不可欠と言えるだろう。
ただ、ゴールに向かうことだけ考えていればいいのかと言うとそうでもない。
だって、このゲームが終わる条件は、全てのゴールに誰かが到達することだから。ゴールすることが敗北に繋がることもある。特に最後のゴールなんかはそもそもゴールしてはいけない、させてはいけない奴なんかも出てくるだろう。
……ってことは、だ。
「カードは他のプレイヤーへの妨害の為のアイテム、か?」
「その通りです! そして、これがルールの大きな変更点の二つ目、プレイヤーには毎ターンの始まりに『カード』を一枚引いてもらいます! カードにはそれぞれ『強化』『妨害』『罠』の三種類が存在しており、プレイヤーにはカードを使うかサイコロを振って出た目の数だけ好きなように移動するかを選択してそのターンの行動をとっていただきます! ちなみにカードは三枚までしか持てませんのでそれ以上の所持となる場合は要らないカードを選択して破棄してもらうことになります!」
「カードの詳しい内容は?」
「内容別に分類すると全部で九種類です! でも、これは実際にやりながら理解していった方が分かりやすいかと!」
「……了解」
強化ってのはつまり自分にとって都合の良い効果を発動するものだろう。例えば、進めるマスが増えたりとか。
妨害は妨害。言葉の通り、他のプレイヤーへの嫌がらせを目的としたような効果と推測できる。例えば、他のプレイヤーをゴールから遠ざけるとか。
そして、最後に罠。たぶん、マスに仕掛けるようなタイプのものじゃないだろうか。そして、そのマスに止まった、もしくは通過したプレイヤーに損害を与えるとか。
ま、予想はたててみたが、結局は全部推測に過ぎない。
どのみちすぐに答えはハッキリするのだから、これに関してはあまり考えすぎても仕方がない。
「全体を纏めると、カードやサイコロ、盤面の状況を駆使しながら一番のお金持ちになりましょうというゲームです!!」
お金、というよりかはコイン持ちだけど。
『……うぬ。つまり、いっぱいゴールしていっぱいコインを集めれば良いんだな?』
「……そうですね! 実際はカードが関わってくるので、もう少し複雑になりますが!」
『大丈夫だ! 分からないなら使わなければ良い!』
よくねぇよ。バカかこいつ。
「……ねぇ、テディ。私と手を組まない?」
『うぬ?』
「二人で手を組めば闘いやすくなるでしょ?」
『……っ! お主、天才か……?』
それ絶対最後の最後でテディ裏切られる奴じゃん。
……いや、ちょっといくらなんでもここまでテディってバカだったか?
力で色んな意思を持った魔族を纏めあげたような奴だから、考え方がちょっとストレート過ぎるところはあるけど、少なくともこんな分かりやすい甘言に容易く騙されるような奴では……あっ。
「……おい、魔導師。言ったそばから洗脳魔法で盤外戦闘仕掛けてんじゃねーよ」
こいつほんと油断も隙もないな。




