小さな友達
(『あの日は夕方だったから、走って家に帰ろうとしたんだ。その時、工事現場の鉄骨が私の所に落ちてきて...。』そこから先は覚えていない。これは私、牧野ノエルの5年前である小3の頃の悲しい記憶である。この事故の影響で私は、事故に遭った日の記憶と、昔出会った人の顔が覚えられなくなってしまった。説明しようにもしにくい。だって、今の学年の子の顔はわかるし。でも、大切な人の顔はぼやけてしまう。でも、親の顔はぼやけない。なんか、もっと大切で大好きな人が覚えられない。あと、全く関係ない人も覚えられない。なぜだろう。なぜだろう。)
あの事故から5年、ノエルは中学2年生になっていました。小さい頃から絵を描くことが大好きだったので部活は美術部に入りました。でも、風景や動物は描けるけど、人の絵は顔がぼやけてしまうので上手く描けませんでした。例えば、「夏の思い出」という題で絵を描くといつも人のいない海や遊園地の絵ばかり描いてしまいます。ノエルはそんな少女になってしまいました。
ある日、ノエルのクラスの担任である林田先生がこう言いました。「皆さん、この2年2組にイギリスからレミリア・ゴードンさんという生徒が来ます。下田小出身の人なら知ってますね。でも、半年でイギリスに帰ってしまうので短い間だが仲良くするようお願いします。」ノエルは誰にも聞こえないような声で「レミ」と呟きました。レミはノエルが小3の時、下田小学校の3年1組に一ヶ月間いた子でノエルとはとても仲良しでした。そのレミが帰った3週間後にノエルは事故に遭いました。なぜか、レミと一緒に撮った写真を事故の後に無くしてしまったので、レミの顔もぼやけて思い出せないのでした。
一週間後、レミがやって来ました。「レミリア・ゴードンです。短い間ですが、よろしくお願い致します。」とみんなに挨拶をした後、レミがノエルに駆け寄りました。「ノエル久しぶり。元気だった?あ、そういえばサクラは元気にしているの?」サクラというのは紫暮夜サクラといって私立女子中学校へ行った小学校の頃のノエルと仲の良かった子です。「サクラとは学校違うし、連絡取ってないからわからない。」と、ノエルは言いました。もっとレミとしゃべりたかったノエルでしたが、同じクラスの子達がレミに駆け寄ったためこれ以上おしゃべりができませんでした。
その日の夕方、ノエルは一人で帰っていました。その時小3の頃を思い出しました。それは、レミとサクラと3人でおしゃべりしながら帰った記憶でした。今はレミは帰り道が違って、サクラは学校が違います。考えていたらノエルはなんだか悲しくなってしまいました。
その時です。いつもの帰り道の途中に通る道の右側に見える森に道があることに気づきました。普段はそんな道は無いのです。「こんな道あったっけ?」ノエルはそう思いながら、まるで何かに吸い込まれているかのように森の中へと入っていきました。歩いていくと、大きな木の下にガラクタがたくさん積んである所にたどり着きました。古びたタイヤや綿の出たぬいぐるみがある中、ノエルの目に留まったのは大きなジュークボックスでした。ノエルがボタンを押すとレコードが回りだし、音楽が流れ始めました。本来ならば、自動販売機みたいにお金を入れなければ動かないはずですが、このジュークボックスは壊れているためお金を入れる必要はありませんでした。ノエルは今流れている曲を止めて、自分の知っていそうな曲を探しました。すると、その中に「ドレミの歌」がありました。「ドレミの歌」はノエルが事故に遭ってからその日を思い出すと頭の中で何度も流れている曲でした。ノエルは「ドレミの歌」の番号を押し、曲をかけました。曲を聞きながら、ふと、奥の木に目をやると、ジュークボックスと接している面が変に空いているのです。試しに、ジュークボックスを動かしてみると回転椅子の脚についているような車が4つあったため簡単に動きました。そんなことより、ノエルが驚いたのは、その木のジュークボックスが接してあった所に扉がありました。どうやら回転式扉になっているようです。ノエルは扉を開けて中に入りました。すると、中が真っ暗だったため下が階段だったことに気づかず転んでしまいました。
「イテテ…。」まず、ノエルの目に見えたのは陽の光と小さなアーチ状の板でした。階段から落ちたのだからここは地下なはずです。なぜ、陽の光が見えるのでしょう。それに、この板は何でしょう。と、ノエルが後ろを向くと、後ろにあった木の幹の下の方に同じような形の穴がありました。どうやら、この板は扉でノエルが転んだ際に外れてしまったようです。その扉はちょうどノエルが四つん這いになった時の大きさでした。ノエルは起き上がって周りを見わたすとアロエの森が広がっていました。ノエルは呟きました。「この森、知ってる気がする。」すると、一匹の真っ白なハムスターがノエルに駆け寄りました。「久しぶり。私はりりだよ。君はノエルだね。って、ちょっと、ケガしてる!!」見ると、右ひざをすりむいていました。「でも平気。これ塗れば大丈夫。」と言って近くのアロエを折ってノエルのひざに塗りました。するとどうでしょう。みるみるうちにケガが治って、最終的にはまるで何も無かったかのように治っていました。「ここにあるのは魔法のアロエなんだよ。美味しいし、どんなケガでも治る。って5年前にも話したか。」と、りりは言いました。これを聞いてノエルは言いました。「ごめん。5年前のこと、何も覚えてないの。でも、事故に遭う前ここにいた気がする。」それからノエルはりりに事故のことを話しました。それと、人の顔がぼやけてしまうことも…。「それは…、アロエでも治らないかもしれないね。」と言って最初は悲しい顔をしたりりですが、『明るい話題を』と思ったのか、こんな話をしました。「そういえば、5年前〈大切な友達がいる〉ってノエル言ってたんだ。今度、その子達もつれてきてよ。その時、改めていろんな場所と私の友達の紹介するからさ。じゃあ、また今度ね。」と言いました。ノエルはりりに笑顔で手をふりましたが、内心複雑でした。友達の話をされたからです。ノエルは小さな穴をくぐり階段を上り大きな扉を開けジュークボックスで閉じました。もう一回曲を聞こうとしましたが、ジュークボックスは動きません。どうやら、ジュークボックスが動く時だけ、りりがいた世界と繋がるようです。後ろを見ても扉はありませんでした。いつもの普通の森に戻った時、こう思いました。(なぜ、ハムスターがしゃべってもビックリしなかったんだろう。それにりり…。聞いたことがある。やっぱりあのぼやけた記憶はここに来たことなのかもしれない。)
その日の夜、ノエルは勇気を出してサクラに電話をしました。「もしもし、紫暮夜さんのお宅ですか。私、牧野です。サクラさんいますか。」「牧野って、ノエルなのね。私、サクラ。久しぶりね。」「あのさ…。一緒に森に行かない?」「え、森…。まぁ…いいけど…。じゃあ…今度の日曜日の一時頃ね。」「うん。わかった。あと、ウチの学校に今レミが来てるから。レミもさそうつもり。」「まぁ、そうなの。なんかもっと楽しみになってきた。それじゃノエル。日曜日ね。おやすみ。」「おやすみ。」とノエルが言った所で電話が切れました。サクラと普通に話せて安心したノエルでした。
次の日、学校の昼休みにノエルはレミに聞きました。「日曜日空いてる?小学校の頃に一緒だったサクラと森に行くんだけど。」「おぉpicnicね。行くわ。let's go!!」レミも賛成してくれました。
日曜日、3人は森の前に集まりました。みんなの服装は、ノエルは灰色のセーターとジーンズに紺色のコート。サクラはふわふわした冬型のピンク色のワンピースに茶色のコート。レミは綺麗な金髪の上にサングラスをかけユニオンジャックのTシャツと青色のロングスカートにカーキグリーンのジャケットを着ていました。森の中に入り、ガラクタが積んである大きな木の前まで行くと、ノエルはジュークボックスに手を当て「りり、来たよ。」と言いました。そして、「ドレミの歌」の番号を押しました。すると、曲が流れました。これで、りりがいる世界と繋がれます。ノエルは回転式扉を開け、3人は中に入っていきました。
階段を下りていくと、陽の光が漏れている小さな扉が足元にありました。ノエル達はかがんで扉を開きました。すると、りりが出迎えてくれました。「ノエル!来てくれたんだね。そこの扉直しておいたよ。」どうやらりりはノエルが壊した扉を直しておいたようです。「友達連れてきてくれたんだね。」とりりが言ったので、サクラとレミは自己紹介をしました。「サクラです。よろしくね。」「私はレミリア言います。レミって呼んでください。」するとりりも、「私はりりだよ。よろしく。よろしく!」と言いました。「みんな、『あおぞらの土地』へようこそ!これからみんなを案内しようと思うんだけど、この土地に詳しい友達を呼んでいるんだ。もうすぐ来ると思うよ。」すると、一匹のこげ茶色をした中型犬がやってきました。「僕はチロ。みんなを案内するね。」とその犬は言いました。「チロは、頭が良くて、とっても優しいんだよ。ちょっと、臆病なところもあるけど。」と、りりが言うと、「最後のは言わないで欲しかった。」とチロはへこみました。「もう、そういう所だよ。」とりりが言うとノエル達はみんな笑いました。
アロエの森をぬけると、下り坂になっていました。「ここは『笑顔の谷』だよ。」とりりが言いました。「この谷は、『アロエの森』と『そよ風野原』をつなぐ所なんだ。」とチロが言いました。するとそこで、2匹の薄い茶色の猫が遊んでいました。「りんごちゃん、こはるちゃん、こっちおいで!」とりりが言いました。その2匹はノエル達の所に来ました。「白と薄茶の方はお姉さんのりんごちゃんで、薄茶だけの方は妹のこはるちゃんだよ。」とりりが紹介してくれました。「よろしくね!!」2匹は口をそろえて言いました。するとここでチロが言いました。「『笑顔の谷』に来たならば、絶対に行った方が良い場所があるんだ。ぜひ、みんなで一緒に行こう!」そして、りんはる姉妹を加えた一同はチロのオススメの場所に行くことにしました。
歩いていると水の音が聞こえてきました。その音はだんだん近くなり、そこには小さな可愛らしい滝が流れていました。でも、その滝には滝つぼが無く、代わりに、虹がかかっていました。そこに、複数の天使がやってきました。天使の一人が「めずらしいお客さんが来てるわね。」と突然言われたので、驚いた3人は「ノエルです。」「サクラです。」「レミリアです。」とテンポよく自分の名前を言いました。天使たちは、この滝の説明をしてくれました。「ここは『天使の滝』と言って私たち水の天使が守っている滝なのよ。」「この滝は流れている途中で虹になってしまうから滝つぼが無いの。」「ここの水は『そよ風野原』にある『命の泉』から流れているんだ。」などと色々と教えてくれました。「これから私たちは『そよ風野原』をノエル達に紹介したいと思うの。」とりりが言うと、「それなら、私たちの魔法で滝を上って『命の泉』に行きましょう。そしたら、谷から坂を上るより早いし、疲れない。」と水の天使の一人が言いました。「うん。良い考えだね。そうしよう!」とチロが言ったので、そうすることにしました。水の天使が魔法をかけると、ノエル達は白い光に包まれました。そして、周りに細かい七色の光がキラキラと輝くと、滝に乗って上りはじめました。ノエル達は『命の泉』の水面に降り立ちました。「光が消えないうちに野原に上がってね。消えると水の上に立てなくなるから。」と天使の一人が言ったので、ノエル達はすぐさま野原に上がりました。すると、泉から綺麗な女の人が出て来ました。「私はこの『命の泉』を守っている水の女神です。ノエルさん、サクラさん、レミリアさん『あおぞらの土地』を楽しんでってください。」と水の女神が言いました。「ありがとうございます。思う存分楽しみたいと思います。」ノエルは元気いっぱいに答えました。
そよ風野原では、7人で色々な遊びをしました。「鬼ごっこ」「かくれんぼ」「だるまさんがころんだ」「花いちもんめ」特に「おおなわとび」は、りんはる姉妹の息のあったなわ回しでスムーズに跳ぶことが出来ました。りりに関しては小さすぎてタイミングが合わないことから、チロの頭に乗っておおなわとびに参加しました。そうしているうちに7人はお腹が空きました。「じゃあ、この先にある『スイーツの丘』へ行こう。」とりりが言いました。「あそこのたい焼き凄く美味しいんだよ。」りんごちゃんが言いました。「ノエルちゃん達もきっと気に入るはず。」こはるちゃんが言いました。「僕が案内します。」チロが頼もしそうに言いました。ということでみんなで『スイーツの丘』へ行くことにしました。
スイーツの丘に着きました。スイーツの丘はいわゆる植物の部分がお菓子になっていました。「『スイーツの丘』にも友達がいるんだ。」とりりが言いました。すると、どこからか「りりちゃん!!」という声が聞こえてきました。そして、1匹の雪だるまと一人のりすの耳としっぽの生えた茶色のワンピースの小さな女の子がやってきました。「僕はルマだよ。」と雪だるまが言いました。「私はラルよ。」と女の子が言いました。「ルマの体はわたがしでできていてラルのしっぽはカステラでできていているんだよ。」とりりが説明しました。ノエル達はそれぞれルマとラルの体の一部を食べてみました。両方ともほんのり甘い味がしました。サクラが言いました。「これって食べちゃって大丈夫なの?」ラルが言いました。「平気、平気。私のしっぽはまた生えてくるし、ルマはわたがしの実を食べれば復活するから。」それを聞いてルマもうなずいています。ラルとルマは他にもグミの木やラムネ玉の木、チョコレートの田んぼ、ラムネ水の川などを案内してくれました。ラムネ水の川ではたい焼き釣りもしました。ラルは自分のお菓子の家に招待してくれました。ドアはチョコレート、壁はビスケット、ゆかはガム、テーブルはクッキー、ソファーはプリンでできていていました。ノエル達はプリンのソファーに座り、クッキーのテーブルの上に並べられた、ラムネ水の川で汲んできたラムネ水とともに先ほど収穫したもの達を食べました。食べながら色々なおしゃべりをしました。良いお茶の時間となりました。そこで、りりが言いました。「ラルは料理も得意なんだ。せっかくだからラル、今日は『文房具の広場』でディナーを振る舞ってくれない?」ラルは答えました。「いいよ。なんでもキッチンの食材をふんだんに使うわ。」ということで、9人は『文房具の広場』へ行くことにしました。
『スイーツの丘』をぬけると、黒砂糖の土から茶色い土の地面になりました。どんどん走っていくとスティックのりの門の前に来ました。これをくぐると『文房具の広場』です。地面はビー玉やリボンで飾られていました。そこに、クリップの妖精が現れました。色はそれぞれ赤、ピンク、黄色、緑、青、白、銀の七色でした。妖精達は、テープのりの台、消しゴムの台、メモ帳の台の上で歓迎の踊りをしました。そして、「ノエルちゃん、サクラちゃん、レミちゃん、『文房具の広場』そして『あおぞらの土地』を楽しんでね。」と言って、近くにあった赤い屋根のクリップの妖精の家に戻りました。「さぁて。クッキング始めますか!」とラルが言ったので、8人は近くの木製のテーブルと椅子に座りました。ノエル、サクラ、レミはコートをぬいで椅子に掛けました。ラルはオレンジ色のなんでもキッチンで料理を始めました。美味しそうな良いにおいがします。ラルは出来上がった料理をテーブルに並べました。今日のディナーは、野菜サラダ、大豆ミートのから揚げ、玉子焼き、フライドポテト、ソーセージピラフ、野菜スープ、フルーツポンチ、そして、飲み物は紅茶でした。「いただきます。」と9人は言ってこれらの料理を食べました。ラルの料理は絶品でした。「油物は控えているのよね。」とこはるちゃんは言って、りんはる姉妹は、から揚げとフライドポテトには手を付けませんでした。クリップの妖精達も家から出てきて、自分達のご飯である金平糖を食べ出しました。色々おしゃべりしているうちにふとノエルの5年前の事故の話になりました。「それにしてもノエル、鉄骨が落ちてきてよく生きていられたよね。」とサクラが言いました。「まぁ、記憶障害と人の顔が覚えられなくなっちゃったけどね。でも、ここに来て事故直前にもここへ来ていたことを思い出した。」とノエルが言うと、それを聞いたチロが聞きました。「もしやお前、その時『アロエの森』のアロエ食っただろ。」ノエルはきょとんとしました。そして、りりに5年前食べていたかどうか聞きました。「うぅん。昔のことだから記憶は曖昧だけど、あぁっ、甘くて美味しいって食べてた気がする。」それを聞いたチロが言いました。「それだよノエル。ノエルは『アロエの森』のアロエとそれを食べさせたりりに救われたんだ。アロエは人の死を免れることは絶対にできない。でも、鉄骨とぶつかった時、頭の傷口がアロエの効果で簡単にふさがったんだ。だから、死なずにすんだ。だけど、アロエは傷口しか治すことができない。それで、頭に障害が残ってしまったんだ。」ノエルは目の前のりりを見つめました。生きられたのは彼女のお陰。でも、障害が残り悲しい思いをしたのもりりのせい。ノエルはこの中途半端な生き残りのためにたくさんのつらいことにあったので、あの時いっそのこと死んでしまえばよかったと思うこともありました。なので、ノエルはりりをどう思って見ていいかわからなくなりました。それを見かねたレミがこう言いました。「でも、生きているだけでハッピーじゃない?こうして楽しいこともあるし、ご飯は美味しいし、それにノエルにはこんなに仲間がいるじゃない。」ノエルは周りを見渡しました。ルマは言いました。「そうだよ。僕達今日会ったばかりだけど、みんなノエルちゃんのお友達だよ。」そこにいるみんながうなずきました。りりが言いました。「そうだ!食べ終わったらみんなと『そよ風野原』で「ドレミの歌」を歌おう!!」そこにいるみんなが賛成しました。そして、9人とクリップの妖精達は「ごちそうさまでした。」と言うと、クリップの妖精の一人が「皿洗いは私達がしますから、みなさんは『そよ風野原』に行ってください。」と言いました。なので、9人は『そよ風野原』に向かいました。クリップの妖精達は皿洗いの前に9人を門の前まで見送ってくれました。
『そよ風野原』に着きました。そして、りりが指揮をとると8人は手をつないで「ドレミの歌」を歌い始めました。りりも指揮をしながら歌っています。心地の良いそよ風がみんなの歌声を遠くへ運んでいくようでした。歌い終えると、サクラが言いました。「つい、長居しちゃったわね。そろそろ帰らなきゃ。」ノエルもレミも「そうだね。」と言いました。なので、仲間達は『笑顔の谷』まで見送りに来てくれました。りりは『アロエの森』まで送ってくれるそうです。でも、それ以外はここでお別れです。「また『あおぞらの土地』に来てね。」ラルとルマが言いました。「またみんなで遊ぼうね。」りんはる姉妹が言いました。チロは後ろを向いていました。「もしかしてチロ泣いてるの?」とりりが聞くと「ばか。目に砂が入っただけだよ。」とチロが言いました。「もう、わかりやすいんだから。」とりりが言うと、ここにいたみんな笑いました。「そう、『笑顔の谷』は笑顔が一番!別れる時だって笑っていた方が良いよ。」とりりが言いました。「また会いに来るからね。」とノエルはチロの頭を撫でました。「ありがとう。」チロは小さな声で言いました。そして5人はノエル達に大きく手をふりました。その後、りりとともに『アロエの森』の小さな扉がある木の下に行き、「じゃあ、またね!」とりりが言うと、3人は小さな扉を開けてノエル達の住む世界に帰りました。
階段を上り、大きな扉を開けるといつもの森に戻りました。ジュークボックスもかかりません。長居していたはずなのに、どうやら時間は来た時と同じようでした。そして、3人はそれぞれ自分の家に帰りました。
数週間後、ノエルとレミはクラスの中野小学校出身の男子4人組がなんだか悪い噂をしていたのを聞いてしまいました。なんでも、あの森、そう、りり達の世界と結んでいる森が来月伐採され老人ホーム建設の工事が始まると言うのです。「それ、本当に?」ノエルはつい、その男子4人組に話しかけてしまいました。「よぉ、なんだよ、陰キャと外国人。そうだよ。てか、俺達が嘘言ってどうする。」ノエル達は彼らの半分いやみ混じりの言い方に腹が立ったけど、それよりもあの森が無くなることの方がショックでした。もう、りり達に会えない、そう思ったからです。放課後、ノエルとレミはあの森に行きました。そこには、サクラもいました。どうやら、サクラも向こうの学校でこの噂を耳にしたようです。3人は急いでガラクタが積んである大きな木の下へ行くとジュークボックスを動かそうとしました。しかし、それは壊れたジュークボックスのままでボタンを押しても動きませんでした。ジュークボックスをどかしても、後ろには扉はありませんでした。ノエルは泣き崩れました。レミとサクラは背中をさすりノエルを慰めました。「とりあえず、今日は帰ろう。」とサクラが言ったので、ノエルはレミにもたれかかりながら、森を離れました。
その週の土曜日、ノエルは一人でりり達の世界と繋がる森へ行きました。ノエルはジュークボックスの前に行き手を当てて「お願い、繋がって。」と祈りました。すると、ジュークボックスが光りました。ノエルは、ボタンを押して「ドレミの歌」を流しました。そして、ジュークボックスをずらし回転式扉を開けました。
階段を下り小さな扉を開きました。ノエルは立ち上がると「りり、りり、りり!」と叫びました。すると、遠くから「ノエル!」という声が聞こえて小さな白い姿がこっちへ向かって来ます。りりです。ノエルは「りり!!」と大きな声で叫ぶと目の前に来たりりを手の平にのせて涙混じりに言いました。「りり、聞いた?ここを結ぶ森が壊されて老人ホームになっちゃうんだって。りりにもう会えなくなる、てか、りりの世界も壊されちゃうんじゃないの?大丈夫?もう私どうしていいかわからない。」ノエルは大声で泣いてしまいました。それをなぐさめるようにりりが言いました。「大丈夫だよ。ここはいわゆるパラレルワールドだから、そっちが壊れてもここは平気だよ。だから泣かないでノエル。」ノエルが言いました。「でも、あの森が無くなったらいくらパラレルワールドでもりり達にもう会いに行く手段が無くなっちゃうじゃない。」そこでりりが言いました。「じゃあ、ちょっとだけ私の後についてきてくれる?」りりが走り出しました。ノエルはそれを追いかけました。『アロエの森』をぬけ、そこは『笑顔の谷』の『天使の滝』でした。そしてりりは、「水の天使達お願い!」と言うと、水の天使達は滝から出来た虹に魔法をかけて一束のブーケを作りました。そのブーケは海のように青く雪のように輝く花で、水色の紙に包まれ、リボンは虹色でした。水の天使達はノエルにそのブーケを渡しました。りりが言いました。「その花はね、この『あおぞらの土地』と交流のある『逆さ虹の森』から種をいただいて水の女神や水の天使達が『命の泉』の底の一角に魔法をかけて地上と同じ環境にして大切に育てているんだ。」「この花はね、『水毬の花』って言って、花言葉は『あなたに出逢えて本当に良かった。この奇跡に感謝します。』って意味なんだ。」「いつかきっと、ノエルは違う所にできた入り口を見つけて私達に会える日がくるよ。この水毬の花が叶えてくれるから。たとえ、ノエルがまた私達のことを忘れてしまったとしても。」りりが説明すると、ノエルは「次は絶対に忘れないよ。今度はサクラもレミもいるから。」と言いました。ノエルの笑顔は、水毬の花と同じ様に輝いていました。
ノエルは自分のベットの上で目が覚めました。今のは全部夢だったのではないかと思いましたが、枕元の机には水毬の花が飾ってありました。そこにノエルのお母さんが来ました。「ノエル。やっと起きた。あなたどうしたの?」聞くと、大きな木の下のジュークボックスに横たわってブーケを握りしめて眠っていたのを老人ホーム建設の下見に来た業者の方が見つけたそうです。それが前日の夕方のことで今は日曜日の朝だそうです。「いや、なんでもないよ。」ノエルはそう言って朝ご飯を食べにいきました。
その後、ノエルはりりに手紙を書きました。気づいたら夕方になっていました。書き終わり、急いで森に行くと、建設業者の方々が集まっていました。見ると、来月の工事に向けてガラクタの撤去作業をしていました。軽トラックを見ると、あのジュークボックスが積まれているではありませんか。「ちょっと待ってください!!」ノエルはそう言ってジュークボックスに駆け寄りました。そして、ジュークボックスのフタを開けて「りりのお陰だよ。また、こうしてレミとサクラと仲良くなれたのは。ありがとう。」こう言ってノエルは手紙をその中に入れてフタを閉めました。すると、どうでしょう。ジュークボックスが光り、「ドレミの歌」が流れ始めたではありませんか。その歌声は、レコードのものではなく、りり達の声でした。ノエルは『そよ風野原』の風が運んでくれたんだと思いました。一方、建設業者達は「なんだ、なんだ!」と大騒ぎ。そして、曲が終わりました。ジュークボックスはもとの壊れたものに戻りました。ノエルは「お騒がせしました。」と建設業者の方々に一礼をして家に帰りました。
しばらくして、老人ホームの建設工事が始まりました。数ヶ月後、レミがイギリスに帰りました。ノエルは当分、レミや『あおぞらの土地』のみんなに会えません。でも、サクラとは一ヶ月に一回、電話でやりとりすることにしました。また、みんなと会える時までノエルは自分の境遇に負けずに頑張っていこうと思いました。
そういえば、ノエルが書いた手紙には何と書いてあったのでしょう。
〔りりちゃんへ
あの時私は、あなたに生かされました。その日から、この身の上のためたくさんつらい思いをしました。たまに、どうして私は生きているのか考える時もありました。しかし、この世界には私の好きなものがたくさんあります。好きなことと出会って、大好きな人と出会って、生きているだけで奇跡なんだと思えるようになりました。他の人と同じような生活を送れなくても、自分らしく生きていきたいと思います。
牧野ノエル〕