異世界転生〜神様にお願いするのはもちろん世界最強〜
どうやら俺は死んだらしい。
俺はよく覚えていないのだが、目の前の神を名乗る者がそういったのだ。横断歩道を歩いていたところにトラックが突っ込んできたのだという。
神は世界に不必要な人間を定期的に間引いているという。今回俺が死んだのも、神が交通事故を意図的に起こしたことによるのものだと。しかし、俺は間引きされる人間ではなく、間違えて死なせてしまったそうだ。
生き返らせること自体は可能だが、トラックに轢かれた俺は、誰が見ても生きてはいないと判断されるほどにぐちゃぐちゃになっていた。既に俺の家族もそれを知っているようだ。元の世界に俺が戻ると余計な混乱をが起こるため、返してはもらえないそうだ。
その代わりに、神が管理している別の世界に転生をさせてくれるようだ。その上、元の世界に返せないお詫びに、何でも一つ願いも叶えてくれると。
おいおい、なんだよこのテンプレ展開は。まさか、異世界転生ができる日が俺にくるとはな。元の世界に戻れないだぁ?あんなところに誰が帰りたいなんて思うかよ。誰も俺を認めようとしないあんな世界になんてな!
何でもいいなら、一生遊んで暮らせる金や、不老不死なんてのも叶えてくれるのだろうが、俺の願いは決まっている。
「俺をその世界で最強にしろ」
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俺が転生した世界は、元の世界でいう中世ファンタジーといわれる世界のようだ。地方を治める王様がいて、大きな城があって、それを守る騎士がいて。そして魔法という力があって、人々を襲う魔物がいて、それらを指揮して世界征服を企む魔王がいる。そんな、ゲームに出てきそうな世界。
この世界で魔法が使える人は貴重であるようだ。俺は魔法の力を発現させることが出来たが、使い方がわからなかったため、そのままぶつけることしかできなかった。普通は魔力を炎や雷に変換するようだが。しかし、俺はそれで十分だった。ぶつけるだけで魔物が倒せる。それだけ魔力量が他人とは桁違いだったのだ。これが、神から与えられた世界最強の力。
俺はこの力のおかげで、訓練を受けた兵士ですら倒すことが困難な魔物を、何の危険もおかさずに倒すことができた。その度に、村の人々や時には王様からも感謝された。
これだよ。こういう正義の味方ってやつに昔からなりたかったんだよ。こんな世界に転生できた俺は本当に運がいい。
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「なんかさあ、お前ら最近、感謝の気持ちがたりないんじゃないの?」
俺はイライラしていた。こっちの世界に来て数ヶ月がたった。その間に魔物を何百と倒してきた。そのせいかこいつら、俺に助けてもらえるのが当たり前になってきてやがる。
「ですが、これ以上村の蓄えが取られると、皆が生きていけませぬ」
「はあ?こっちは命張って戦ってんだけど。それに対して礼をだすのは当然だろ。それに、俺が守らなかったらお前ら死んでたんだぞ。そこんところ理解できてる?」
「ですが……せめてもう少し減らしてはもらえませんか?」
本当にこいつらは……調子に乗りやがって。少し痛い目にみなきゃ分からねえのか。
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「いやー、なんということだ。俺が直ぐに駆けつけられない場所にいる時に"運悪く"魔物が襲ってくるだなんてねえ」
俺は隠す気もない程の棒読みでかつ、村の生き残りに聞こえるように大声でいってやった。俺がわざと助けを遅らせたのは明白だが、誰も突っかかっては来ない。俺は最強だからな。
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なんやかんやあって、魔王も倒してしまった。楽勝だった。魔王は死ぬ間際に「馬鹿な……最強の俺が……」とかいってたけど。残念。最強なのは俺なのでした〜。
魔王を倒した俺は世界中から感謝された。だが、それも長くは続かなかった。魔王がいなくなったことによって魔物もいなくなった。俺の最強の力は何の意味もなくなった。守ってもらうために仕方なく従っていた村や町の連中は、直ぐに俺を見限った。
こいつら……俺が守ってやった恩を忘れやがって。今、お前たちの命があるのは俺のおかげ。今、魔王が死んで平和な世界になっているのも俺のおかげだろうが。
それを、こいつらは……!!
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俺は人類に復讐することを決めた。魔王の本拠地には魔物をつくり、操作できる装置があった。これを知っているのは魔王を倒しに来た俺だけだ。俺が直接手を下すと、人類は簡単に滅亡してしまうだろう。そんなことでは生温い。こいつらにはより苦しんでもらわなければならない。よって、この装置を使い、じっくりと人類を滅ぼしていこう。再び魔物に襲われる恐怖に怯えるがいい。
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「馬鹿な……何故、俺が負け……」
人類への攻撃は順調だった。しかし、ある時を境に魔物たちが続々とやられていった。しかも、たった一人の青年に。そして、そいつは俺のいる場所を突き止め、一人で乗り込んできて、俺は倒されてしまった。
あり得ないことだ。俺は神との約束でこの世界では最強のはずなのだ。負けるなどということがおこるはずがないのだ。
「神よ……お前も……裏切り……」
俺は意識が遠のいていくのを感じ、そのまま目を閉じた。
「呼んだ?」
気がつくと俺は最初に神と出会った場所にいた。そして、目の前には神がいた。
「どういうことだ?お前は俺を最強にするという約束で転生させたはずだ。その俺が何故負ける?騙したんだな!」
「何をいってんの?約束通り最強にしてあげたさ……」
「"あの時点"でだけどね」
「はあ?そんなふざけた理屈通用するかっての。今すぐ生き返らせろ。あいつより強くしてな」
「だってしょうがないだろ。最強にしてくれって奴がまた現れたんだから。そうするしかないだろ?それにさ……」
「初めてあった時から態度がでかくて気に入らなかったんだよ。僕神なんですけど。もっと神に対する"礼"ってものがあるんじゃないかなあ?」
「そ、それは、お前が間違えて俺を死なせたから。だから助けるのが当然で……」
「そうだね。でも、今回は僕に落ち度はないよ。君はもう死んでいるし、ここによんだのは、勝手に裏切り者扱いされるのが嫌だっただけだから。誤解も解けたみたいだし、もう消えていいよ」
「嫌だ……まだ死にたくな……」
やっとうるさい調子こきが消えてくれた。
「後、何回こんなこと繰り返さないといけないのかな?」
神は大きなため息をついてからそう呟いた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
ファンタジー色薄すぎますがジャンル選択大丈夫ですかね?おかしいところあったら感想で伝えてくれると助かります。
今回から後書きに解説というか補足みたいな感じのもかいていきたいと思います。
今回の主人公のテーマは"棚上げ"キャラを意識しました。すっげえ自分勝手。お前がいうのかみたいな。
最初の構想では、魔物に襲われた村の生き残りの少年が大きくなって主人公に復讐して、「あの時点で」の流れにつなげる予定でした。少年が出る部分丸々カットなので凄くあっさり終えてしまいました。魔王ループは途中で思いついたやつです。前者も努力で強くなった少年が、才能だけの主人公を倒す展開で面白そうだったんですがね……