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前編 紫髪のメイフライ

 一部の方が不快に感じられる表現・描写が含まれている可能性があります。ご理解の上でお読みください。一万五千字ほどで完結する予定です。

挿絵(By みてみん)



 冬も深まってきた頃。ルードルフ皇国で中級国家魔術師を務める私の元に、一つの仕事が舞い込んできた。


「眠れる兵器、ですか」

「そう。眠れる兵器、だ」


 眼鏡をかけた白髪の男──私の上司が返す。


「トホルーエ共和国が前の戦争で使用したと言われる魔導兵器で、最近わが国の学者達がその存在を突き止めたものだ。いまだあの国のどこかに眠っているらしくてな、お前に場所を特定してもらいたい」

「トホルーエ共和国って……去年テンブルク帝国の『呪砲』で丸ごと荒野になった国ですよね。その、大丈夫なのでしょうか行っても……汚染とか」

「まぁ、あれから半年経ったからな。もう瘴気による大気汚染も人体に影響のないレベルまで下がっているだろう。あの手の呪いはとかく冷めやすい──まあ、空気中ではな」


 問題の兵器に関する資料の束を渡される。


「ほら。これを読めばわかると思うが、件の兵器『千刃球』の最大の特徴は、血液を動力源とすることだ。一定水準以上の魔石を媒体にしてこの球状兵器は始動、使用者の血液を魔力源として表面に装備された無数の魔導刃を高速回転させる。あらゆる魔法攻撃は弾かれ、逆に物理攻撃は切り刻まれて防がれるという」

「それは……まるで無敵ですね。どうして今眠っているのでしょうか──」


 資料のうちにある兵器の予想図を見る。直径五メートルほどの球体の表面にびっしりとS字状の刃が並んでいる。グロテスクだ。兵器なんていうのは軒並みそうだが、非常に趣味が悪い。

 私は兵器の中心にあるコックピットにうっすらと描いてある人の形を指差した。


「血液が動力源ということは……操縦者の命を削りつつ莫大な攻撃力を発揮する、いわば諸刃の剣というわけですね」

「ああ。最初のうちはな」

「最初のうち?」

「その通り」


 上司は顔の前で手を組むと、ニヤリとした。口元が隠れていてもわかる。知っているのだ。彼はそういう男だ。私は話の流れが読めた。


「この兵器のもう一つの特徴は、殺傷装備として金属の刃ではなく魔導刃を用いていることにある。つまり、高速で走行するこの兵器の進路に存在するあらゆる生物の血液を根こそぎ動力源とすることができるのだ。殺戮と同時に次の殺戮の糧を得る。フフッ……素晴らしい兵器だと思わないか」


 上司の眼鏡が光り、肩が小刻みに揺れる。

 私は嫌な気分になった。


「しかも操作は魔導線を通じて思念で行うらしいからな。強い魔力と敵への憎しみさえあれば、それこそ少年兵でも目を見張るような殺戮が──」

「もう失礼してもよろしいでしょうか」

「……ああ、いいとも。しかし忘れるなよ、わが国は国際情勢において一種の危機にある。長年研究してきた呪砲の『運用実験』も帝国に先を越されてしまった。千刃球の具体的な構造のデータを手に入れることができれば、わが国は他国との交渉の場において大きく優位に立てるのだ。わが国を、君の家族のいるこの皇国を守りたいのなら、必ず成果を上げてこい」


 私は、「存じております」と呟いてから一礼し、踵を返した。


(戦の話を楽しそうにするなよ)


 自分のオフィスに戻る廊下を歩く最中、上司への悪態が心中に渦巻いた。

 わが国で有事に前線に向かうのは、原則若者だけだ。あの男はもう自分が戦で命の危険にさらされることがないから平気で次の戦のことを考えられるのだ。


―――――――


 共和国に向かう魔導鉄道の車窓に映る田園風景を眺めながら、私はつらつらとこれから行く国のことを考えた。

 トホルーエは三年前から隣国であるテンブルク帝国と戦をしていたが、半年前、新兵器「呪砲」で攻撃された。戦いはそれで終わった。


 呪砲の破壊力は筆舌に尽くしがたい。高密度の瘴気によって引き起こされる爆発は、爆風に当たったものを抗う術なく粉々にする。さらに瘴気は風に乗って拡散し、少なくとも一ヶ月は周りの森羅万象を蝕み続ける。

 呪砲が共和国の中心都市に着弾した時、国土の六割が爆風によって一瞬で荒野と化した。首都にいた要人および多数の民は残らず死亡し、残った人々はそのまま帝国の支配下に置かれている。


(……本当に哀れなのは戦に付き合わされた民の方だ)


 鉄道が止まる。私は、冬のトホルーエに降り立った。ルードルフの防寒着でうっすらと汗ばむのは、人が多いせいだけではないだろう。ここの気候は私の地元よりかはだいぶ暖かい。

 だが、難民となったトホルーエの人々はこの気温に耐え得る衣服を持っているのだろうか。


―――――――


 トホルーエに入った時、私は心なしか少し安心した。駅前の広場は呪砲の瘴気によって雑草も生えない土地となった姿を想像していたのに、割合活気があったのだ。ルードルフの田舎と同じくらいだ。

 しかし、兵器の情報を求めて南に歩き出した私は、すぐに呪砲のもたらすものの何たるかを思い知った。


 テンブルク側──呪砲の着弾地点に近い方に数時間も歩くと、崩壊した家が目立つようになってきた。

 聞くところによると、爆風が届かなくとも、空気を伝って瘴気が広がってきてしまうと家が脆くなってしまうらしい。

 もちろん家だけではなく人間の体も脆くなる。空気中の瘴気は消滅したとわかってはいるが、それでも体の節々が痛むような錯覚を覚えた。

 もう一時間も歩くと、視界は炭化した町の黒で覆われるようになった。家々の燃え残った柱が針山のようにあちこちで天を指している。


 しかし、人々はたくましい。瓦礫の中に家を造り、店を張り、町としての姿を守っている。私は彼らの薄汚れた衣服の中を暖かい防寒着で歩くのがなんとなく恥ずかしかったが、彼らは私に嫌な顔を向けることもなく、突っかかってくることもなく、時に気さくに声をかけてきたりもした。

 こんな人々に兵器の話などを訊く気にはどうしてもなれない。


 さて、そろそろこの国の外れ──テンブルクとの国境近くにさしかかる。私は手元の青く光るガラス玉のような魔法器具を見た。

 問題の兵器は大量の魔導刃で覆われているという。魔導の道具の「条件が合えばいつでも稼動できる状態にある」という特性を利用して付近に大量の魔導刃が存在するかを調べられる。

 探知機に反応はない。今日の間ずっとそうだ。とにかく陽も暮れてきたし、今はこの辺りで宿を探さなければ。


 ──しかし、そこで一つの懸念に思い当たる。こんな生きていくのもやっとな人々に、宿屋など開いている人がいるのだろうか。



 しばらく町の人々に聞いてみたが、答えは私の予想通りだった。


「やってしまったか……」


 考えが浅かった。とりあえず夕飯を手に入れてから、どうするか考えよう。


―――――――


 急ごしらえのパン屋で、丸いパンを三つ買う。

 日没直後の赤紫色の空を眺めながら歩いていると、ついにこの国の外れにさしかかった。

 町の外に広大な砂原が広がっている。帝国との国境の砂漠だ。ここを何キロか進めば、かの国の領土に入る。

 半年前までは国境は緊張状態だったが、今となっては緊張しようにも共和国軍自体がなくなってしまった。軍の使っていた石造りの砦は帝国軍の屯所になっていた。


 しかし参った。気がつくと住民達は皆家の中に閉じこもってしまっている。街灯なんかもあるわけがないし、すぐに完全な闇が訪れるだろう。


 私が途方に暮れて歩いていると、ふと道端に座り込んでいる人影に気がついた。


「女の子……?」


 この国に来てからちょくちょく見かける、明るい紫色の髪の毛。ぼさぼさで、長く伸びている。

 身に纏っているものは町で見た人々に輪をかけてみすぼらしく寒そうで、そこから伸びる四肢は折れそうなくらい細かった。


 傍らにはもう捨ててしまっても良さそうなくらい古びた靴磨きの道具が置かれている。

 靴磨きをしているのか。孤児かもしれない。


 十二、三歳くらいのようだ。十年前に病気で死んでしまった私の娘も生きていればこのくらいの年齢になろうか。客などそうそう来ないだろうにじっと座っている彼女がなんだかいたたまれなくなり、彼女の前で立ち止まった。


 少女が顔を上げる。あどけない顔に大きく開く紫の両目が、私を見返した。


「こんにちは」


 薄い唇が囁くように動く。

 私は未だ反応がない探知機のスイッチを切って箱にしまうと、彼女の前に屈んだ。


「こんばんは──」

「おじさんの靴、汚れてるね。私がきれいにしてあげる」

「そうかな?」


 思わず靴を見るが、どう見ても汚れてなどいない。僅かに砂ぼこりが付いてはいるが、その道具できれいにしようとしたら余計に汚くなりそうだ。


「──いや、いいよ」

「汚れてるよ。きれいにしてあげる。五ロル。ね、いいでしょ? 五ロル」

「いや……いい」

「そう」


 少女は始終無表情のまま、再びうつむいた。

 五ロルなど受け取っても大した腹の足しにもならないだろうに、あまりに不憫だ。とりあえず夜を越せるところを聞いて、その礼に十ロルほど渡すことにしよう。


「私は外国からやってきたんだ。でも実は今日泊まるところがなくてね。君の知り合いに寝床を貸してくれる人はいないかな」


 紫の目が、また私を見た。


「おじさん、帝国の人?」

「いや、違う。ルードルフ皇国の役人だよ。赤い龍のエンブレムは皇国の印だ」

「そう。おじさん、寝るところがないの?」

「そうだ」


 少女は、立ち上がった。


「じゃあ、私の家、来る?」

「いや、いいよ……」

「よくないよ。泊めてあげる。ね、いいでしょ?」


 困ったな。周りを見る限り、この娘も瓦礫を組み合わせた家にでも住んでいるに違いない。──家族がいないのだとしたら、それすらもないかもしれない。

 寝床の余裕など無いだろう。私が払う礼に期待しているのは明白だが、どうしてもこの子供に道端で寝るようなことはさせたくなかった。


「悪いよ。どこか泊めてくれる家──」

「悪くないよ。ね、いいでしょ? こっちだよ。付いてきて」


 少女は、勝手に歩き出した。困惑した私は一応付いていくことにしたが、家の様子だけ見て引き返すことにしようか。

 しかし、ここで時間を食ってしまうと寝る場所にありつく確率は今より更に下がる。最悪この寒さの中道端で徹夜だ。せめて風が防げるところで眠りたいものだが。


―――――――


「ここだよ」

「はぁ……ここ?」

「そう」


 砂漠に入っていった少女が指さしたのは、大きな砂の山の傍らにある、家と呼ぶことも(はばか)られる建造物だった。

 傍らの枯れ木に生えた枝とぼろぼろの布、長い棒切れを組み合わせて作られている。


 床は板で覆われていた。入り口も布でふさがれている。雨風は防げるだろう。だが、どう考えてもそれ以外は防げない。床の面積も、私一人がぎりぎり横になれるくらいだ。

 ──そして、その住み家の容貌は彼女に身寄りがないことを如実に示していた。


「ね、いいでしょ? そのかわり、それちょうだい」


 しかし、問題の少女は自分だけ乗り気で私に交渉を持ちかけ始めている。

 パンの入った袋をよこせと言っているが、これは私の夕飯だ。残念ながら私も歩き続けて空腹なのだ。さすがに一つは欲しい。

 その旨を述べようと思ったら、彼女は両手で半月型を作った。

 一体何のサインだろう。


「一個の半分だけ。ね、いいでしょ?」

「は、半分だけ?」

「駄目なの?」


 少女は、左手につけた右手で直角を作った。


「じゃあ、その半分は? ね、いいでしょ? ねえ……」

「ちょっと待ってくれ」

「駄目なの?」

「いや、構わないよ。構わないが……」


 本気で言っているのだろうか、この子供は。

 育ち盛りだし、どう考えても栄養が足りていない。なのに、このパンの四分の一で我慢するというのだろうか。それだけの食べ物が、この寒さの中砂漠で一夜を過ごすことに見合っているとでもいうのだろうか。


 私は、この娘のおかれた状況に──国家同士の身勝手な争いによって作られたこの現実に、強く心が揺さぶられるのを感じた。

 そして、パンを一つ取り出すと彼女に差し出した。


「あり、がとう……」


 律義にちぎろうとするので、制止する。


「それ一個ともう半分あげるよ」

「えっ……」


 丸くて大きな目が、さらに丸く、大きくなった。


―――――――


 彼女の家の中に座り、向かい合ってパンを食べる。

 携帯魔灯を中心に置くと、真っ暗だった家の中は多少なりとも明るくなった。


「君、名前は?」


 獣のようにパンにかぶりつく少女に尋ねると、口をもぐもぐとさせながら目をしばたかせた。喉を鳴らしてパンを飲み込むと、


「セルフィナだよ」と答える。


「セルフィナ、この家は一人で造ったのか?」

「ううん、戦争の時隣に住んでたのおじいさんが手伝ってくれたよ。おじいさんは途中で死んじゃったけど」

「……そうか」


 気まずくなった気分をごまかすように、私もパンを口に入れた。

 ものすごく不味い。


 頑張って一つ食い終えると、最後の一つをセルフィナに渡す。


「あげるよ。お腹空いてるだろう」

「……!」


 紫の目に、初めて光が灯った気がした。

 が、彼女はすぐに元の虚ろな目に戻ると、奪い取るようにパンを掴みがっついた。こんなに不味いものをよくそんな勢いで食えると素直に感心するが、その感情もすぐに哀れみへと変わる。


「じゃあ、私はもう行くよ」

「え……? どこ行くの?」

「どこか風をしのげるところを探す」


 帽子をかぶって立ち上がった。


 この少女との出会いは、この国におけるより生々しく真に迫る現実を私に教えてくれた。

 殺人兵器を探すよりも先に孤児に食事を与えるべきだということに気付かせてくれたというだけでも、不味いパン二つなんかでは足りないくらいだ。

 彼女は家の中で寝るべきだ。今すぐここを立ち去ろう。どのみち彼女は兵器に関する有力な情報など持っていないだろうし。


 ──だが、私の決心はマントの裾と共に引っ張られた。


「待って」


 振り返る。

 紫の髪の下から覗く虚無的な目が、どこか寂しげに私を見上げていた。


「そんなこと言って、君はどこで寝るんだ。私には暖かい服もあるし」

「二人とも中で寝られるよ。ね、いいでしょ?」

「…………」


 もう一度家の中を見回す。詰めれば並んで眠れないこともないが、それでも彼女の負担にならないか心配だ。


「二人の方があったかいよ」


 輝きのない目に射すくめられた私は、小さくため息をついて座った。

 彼女にとっては久しぶりの人との交流なのだろう。彼女は心に飢えているのだ。

 それに、今晩は私のマントを彼女に貸そう。家の奥に畳んであるぼろぼろの布団だけではあまりに寒そうだ。


 セルフィナが出入り口の方に足を向けて、目いっぱい壁に詰めて横になった。

 私は彼女の体にマントをかけ、その上から布団をかけると携帯魔灯を消した。

 彼女に魔が差さないとも限らないので、貴重品を入れた鞄に鍵を掛けてしっかりと体に付ける。


「おやすみ、おじさん」

「ああ……おやすみ」


 セルフィナに背を向けて横になると、空間には思っていたより余裕があった。

 彼女の枯れ枝のような体を見れば、その理由は明らかだった。


―――――――


「パパー!」


 呼ばれている。行かなくては。


「パパー!」


 砂漠を歩き続けた私は、死んだはずの娘を見つけた。彼女は枯れ木の枝の上に座っている。


「パパー!」


 そんなところにいたら危ないぞ、と言おうとした瞬間、木の枝の上にびっしりとS字型の刃が生えた。

 うなり声を上げて、刃が回転する。それはたちまち娘の身を擦り削り、小さな体からは決壊した川のように鮮血が――



「──っ!」


 上げそうになった自分の叫び声に目が覚める。


「何だ……夢か」


 嫌な夢を見たものだ。空腹すぎて気分が悪いせいかもしれない。しかしセルフィナは普段もっと空腹なのだろうから贅沢は言えない。


 外はもう夜明けのようだが、思ったよりも寒くなかった。

 寝返ると、セルフィナが私を布団に入れていてくれたことがわかった。規則的な寝息が胸にかかる。


 寝顔は成長しても変わらないという。セルフィナの顔は、十年前に毎晩見ていた娘の寝顔にそっくりだった。


 間近に見ると、彼女がいかにやせ細っているかがよりよくわかる。首元が骨張っていて骸骨のようだ。正直、この子供を放って去ってしまうのは気が引ける。

 だが、困窮しているのはセルフィナだけではない。彼女に何か構うのなら、もっと本質的な支援を考えないといけない。


 私は木の枝の通った天井をぼんやりと眺めながら、しばらく考えた。


―――――――


「──え、付いてく?」

「うん。いいでしょ?」


 出発の準備を整えた私に、思ってもみない展開が訪れた。セルフィナが私の仕事を手伝うと言い出したのだ。


「おじさん、トホルーエは初めてでしょ? 私はずっとトホルーエにいるから、きっと役に立つよ。ね、いいでしょ?」

「いや、そう言ってもだな……」


 今回の私の仕事は国会機密レベルだ。次の戦で使う兵器の調査をしてこいというのだから、当たり前である。このことが帝国に漏れたら私も皇国もどうなるかわかったものではない。


 仕方がない。可哀想だが、適当に嘘を教えて納得させよう。

 私は昨夜と同じように腰を降ろした。


「私の仕事はね、呪砲の話をこの国の人達から聞くことなんだ」

「呪砲……」


 少女の表情が見るからに曇る。

 当然のことだ。彼女もアレで身寄りを亡くしたに違いない。罪悪感が首をもたげるが、私は心を鬼にして話を続けた。


「辛い仕事だよ。でもセルフィナ……君もあの時のことを思い出すのは辛いだろう? 君にそんなことをさせたくない」


 咄嗟に思いついたにしては上出来な言い訳だ。これでもう私を追ってくることもないだろう。


「呪砲の話を聞くのが仕事なの?」

「そうだ」

「トホルーエの人達から?」

「そうだ」

「どうして?」

「同じことがルードルフ……いや、この世界で再び起こったら大変だからね。それを防ぐためさ」

「そう……」


 セルフィナは、私の真似をして腰を降ろして、向かい合った。


「私の話、聞く?」

「え? いや、悪いから」

「話したくないのは誰だって一緒だよ。おじさんが私の話を聞いて、もう呪砲に殺される人を無くしてくれるなら……私が見たことは、聞いたことは、みんな教えてあげるよ」


 呆気にとられる私に、紫色の視線が投げかけられる。


「私の話、聞いて。いいでしょ?」


 私は、腹を決めた。

 彼女の思いに報いなければ。この話は帰国した後で孤児を救済するプロジェクトのプレゼンででも使わせてもらおう。


「よし、聞こう」

「……ありがとう」


 セルフィナは、とつとつと話を始めた。

 お読みいただきありがとうございました。中編の更新をお楽しみに。

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