吸血魔法にかけられて
何の躊躇もなく、僕はざっくりと手首を切った。
ぽたり、赤色が垂れる。
つっと流れ落ちた液体は、絵の具と違い綺麗でどきどきした。
ああ、早く。
僕はすっと腕を差し出した。
一部始終をじっと見ていた少女は、嬉しそうに笑ってから僕の傷口に吸い付く。
ああ、気持ちいい。
この少女は血液が好きだ。
もちろん彼女は吸血鬼ではないし、ここはライトノベルのような世界でもない、現実。
少女は殺人願望があるわけではなく、血が見たいわけでもなく、飲みたいのだ。
じゅるる、腕から甘い音がして頭がくらくらしてきた。
いつだっただろうか、彼女が僕の腕を傷つけて、口を真っ赤に染めて血をすすったのは。
あの恍惚にまみれたきらびやかな表情は、決して忘れられない。
それからというもの、僕は自ら腕を切って彼女に血を飲ませてあげている。人は僕を異常だと笑う、けれどそんなことはどうでもいい。
「お腹いっぱいになった?」
「うん、ありがと」
少女は傷口から唇を離して、ふわりと笑んだ。
口元が僕の血で綺麗に染まっている彼女の笑顔は、とてもかわいい。
「また飲ませてね」
「勿論待ってる、また来てね。だって僕、きみ以外の蚊に血を吸われたくないんだ」
僕の言葉に、彼女は羽音で返事をして飛び去って行った。