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黄金の国  作者: 福島和彦
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悪夢

 金助は自分の聞き違いかと思った。いくら怖い母親とはいえ、ただ動物を殺すことを楽しんでいるような連中を雇うはずがない。しかも、それが自分の為だなんて、言うはずが無いと思っていた。

 「今・・・僕の為に雇った・・・って・・・?」

 「ええ。あなたが最近、この森の動物たちに(うつつ)を抜かしているようだったから、私がこの人たちに大金積んで頼んだの。『この森の動物たちを一匹残らず始末して』・・・とね。」

 顔色一つ変える事無く、淡々と言う朱美に金助は聞いた。

 「何で、そんな事するの!?」

 金助の問いに朱美は、冷たく言った。

 「この森の動物たちが害獣だからよ。」

 「害・・・!?ここの動物たちは何も悪い事はしていないよ!!」

 「してるのよッ!!」

 いきなり怒鳴った朱美に金助はびくついた。朱美はその後、ある一冊のノートを取り出した。金助が書いたこの森に棲む動物たちについてのレポートノートだ。

 「それは・・・ッ!!」

 「お母さん、びっくりしたわ。金助、あなた・・・動物学者か何かになりたいんですってね。どうりで稽古をさぼったり、中々上達しないはずだわ。」

 金助は、『勝手に僕の部屋を漁ったのかッ!!』と言いたかったが、朱美の放つ目に見えない威圧に押されて、何も言えなかった。心臓は激しく鼓動をし、足は震えてガクガクいっている。唾も飲み込む余裕が無い。それ程、金助は朱美の威圧に圧迫されていた。

 「上達しない事や稽古をさぼった事は、僕が悪いのであって動物たちは悪くない。」

 「確かにそうね。簡単に(たぶら)かされたんですもの。」

 「そうじゃない!!」

 あくまでもこの森の動物たちを悪者にしたいのか、朱美の意志は揺るがなかった。

 「あなたは、破岩流を受け継ぐ為に生まれたの。動物学者なんかには絶対にさせない。」

 そして朱美は、ノートを思いっきり破った。

 「ああッ!!何するんだよ、返せよ!!」

 金助は、朱美から破かれたノートを取り返そうと飛びかかった。

 「ちょっ・・・母親に向かって・・・『返せ』とは何!?『返せ』とは!!口の利き方に気を付けなさいッ!!」

 朱美は飛びついて来た金助を振り払い、二人の男を呼んだ。

 「貴方達!!あんなに大金積んだんだから、とっとと起きて一匹でも多く殺しなさい!!」

 「ヒィッ!?で・・・でも、そんな事したらまた・・・」

 痩せすぎた男は、さっきの事ですっかり怖気(おじけ)づいてしまっている。一方、太った男はむくりと起き上がると、銃を拾った。

 「させるかぁ!!」

 金助が今度は二人の男に向かって飛びかかる。しかし、朱美に抑え込まれ身動きが出来なくなってしまった。

 「放せぇ!!放してぇ!!」

 力一杯叫ぶ金助。金助の力では、朱美から抜け出す事が出来ないので、それしか抵抗する術が無かった。叫ぶ金助をよそに太った男は、淡々と銃で鳥やうさぎを殺していく。勿論、食用にするわけでも皮を剥いで売るわけでもないので、地面に落ちた死骸を回収せずに踏みつけていった。

 「やめろぉ!!」

 どうにかして、朱美から逃れようとじたばたする金助。そんな彼に朱美は怒鳴りつけた。

 「これがあなたの為だって事、まだ分からないの!?母親の愛情も知らないなんて、とんだ親不孝ものだわ。」

 「こんなのが愛情だって!?何の罪も無い動物たちを無駄に殺す事が!?ふざけるな!!そんな愛情、いらない!!」

 朱美と金助が言い合っている中、騒ぎを聞きつけたのか大きな熊が金助たちの目の前に現れた。

 「ん・・・でかい熊だな。銃弾何発まで耐えれるかな?」

 太った男は、楽しそうに銃を構えた。熊は森を荒らしている人間が目の前の奴だと理解すると、でかい図体とは思えない程の素早い動きで太った男に攻撃した。

 「やめろ!!今すぐ引き返して、避難するんだ!!」

 金助は、熊に今すぐ逃げるように伝えたが既に手遅れだった。太った男は熊の頭に一発ぶち込み、攻撃を避けて更にもう一発頭に撃った。熊はそのまま倒れ、死んでしまった。

 「ああ・・・あああ・・・」

 金助の目からは大量の涙が流れていた。そして、再び金助を包み込むように金色の煙のようなものが舞っていた。しかし、今度はさっきのような状態にはならず、いつの間にか金助は気を失ってしまった。金助が金色の煙のようなものに包まれていた事に朱美は気付いてはおらず、疲れて寝てしまったのだと思い込んだ。その後、森は動物たちの悲鳴と銃声が響き渡り、残ったのは大量の死骸と静けさだけだった。

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