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黄金の国  作者: 福島和彦
8/18

異変

 青太郎が道場に帰ると、そこには門下生の姿が無かった。

 「あれ・・・何でいないんだ?確か、『私が戻るまで自主鍛錬をしておくように』と、言っておいたはずなんだが・・・きちんと伝わってなかったのかな?」

 道場に誰もいない事に疑問を感じていると、丁度門下生の一人が帰り支度をしていたので、青太郎は呼び止めて聞いてみる事にした。

 「自主鍛錬をしておくよう言ったはずなんだが・・・もしかして、みんなに伝わってなかったか?」

 「いいえ。みんな、当主の言う通りにさっきまで素振りをやったりして鍛錬していましたよ。・・・ですが十分・・・いや、十五分くらい前に朱美さんが道場の方に来て、『今日はもう帰りなさい』とおっしゃったので、みんなとっくに帰りました。まあ、僕は道場の掃除をしていたのもあって、みんなより遅れて今から帰るところなんですが・・・」

 「朱美が?・・・朱美が道場に来て君達に言ったのか?」

 「はい。」

 青太郎は、怪訝な表情を浮かべた。

 「(何で、そんな事を言ったんだ?今日、何かあるのかな?)」

 青太郎が考えている間、門下生の青年は帰って良いのかどうか分からないので、そのまま立っていた。そして、恐る恐る右手を挙げて言った。

 「・・・あの・・・」

 「あっ、すまない。・・・もう、みんな帰ってしまったのなら、君も帰って親御さんの手伝いでもしなさい。」

 「はい。有難うございました。」

 門下生は青太郎に一礼すると、走って帰って行った。誰もいなくなった道場に一人残された青太郎は、再び何で朱美がそんなことを言ったのか考えた。



 一方、森では二人の狩人が異変に巻き込まれていた。

 「なあ、兄貴・・・」

 痩せすぎた男は、冷や汗を流しながら太った男を見て言った。

 「どうした?」

 「今日はもうここまでにして・・・撤退しないッスか?何かこう・・・呪い的なモンがかかりそうで、さっきから寒気が止まらないんスよ・・・」

 痩せすぎた男の顔はすっかり青ざめている。それに比べ、一応目の前で起こっている異変に驚きつつも平然としている太った男は、呆れながら言った。

 「何ビビってんだよ。あのガキは、人間だぜ?幽霊でも妖怪でもないんだ。呪いなんかかけれないだろ。どうせ、どっかに()()があるに決まっている。それにあんなに前金を貰ったんだ。もう少し殺しておかないと、依頼人が納得しないだろ。」

 「でも、あのガキ・・・様子がおかしいんスよ。何か・・・森にいる幽霊が乗り移ったっつーか、なんつーか・・・さっきのガキと同一人物として認識出来ないんスよ。」

 「それは、お前だけだろ。俺はさっきも今も同じ、『クソガキ』ってしっかり認識しているぜ?」

 太った男がへっと笑うと、さっき投げ捨てた銃を拾って金助に向けた。

 「全く・・・どういう仕掛けか知らねえが妙な小細工をしやがって・・・」

 太った男が銃の引き金を引こうとした瞬間、金助が再び無機質な声で笑い始めた。

 「フフフ・・・ヒヒヒヒヒ・・・」

 「ヒィィーッ!!あ・・・兄貴ィ!!このガキ絶対、霊とかの(たぐい)のやつッスよぉー!!」

 声に出して怯える痩せすぎた男に太った男は、胸ぐらを掴んで怒鳴った。

 「うるせぇな!!怖いと思うから怖いんだよッ!!動物が惨殺されるとこを初めて見て、気が狂っただけじゃねぇか。」

 「それはそうかもしれないんスけど・・・本当にただ単に狂っただけなんスかねぇ~?」

 「いい加減、しつけぇぞ!!こんなガキ、銃で一発だろ。」

 太った男は、何も考えずに金助を撃った。しかし、銃弾は金助に当たらずに後ろの木に当たった。

 「・・・てめぇがうるせぇからずれちまったじゃあねぇか!!もう一発・・・」

 再び銃を構えて、金助に向かって撃つ。やはり、銃弾は金助に当たらずに後ろの木に当たった。

 「あ?このガキ・・・ッ!!」

 連続で銃で金助を撃ちまくる太った男。狙いはきちんと金助に付いているのに一発も当たらない。猟銃で狩りをしているので、決して扱い慣れていないとかではない。確かに狙ったのに、どれも金助に当たらないように逸れていくのだ。

 「どういう事だ?いつもは、外したとしても次の一発で仕留められるのに・・・ッ!!このガキよりすばしっこい動物をこの銃で今まで何十体も狩ってきたのに・・・ッ!!どうして外れるんだぁ~!?」

 混乱する太った男の隣で痩せすぎた男がさっきよりも顔が青くなって怯えていた。

 「やっぱり・・・霊的な何かなんスよ・・・だって、兄貴がこんなに外すわけねえッスもん。」

 「クソッ!!俺は絶対霊だとは思わねえぞ!!頭か心臓に銃弾をぶち当てて、殺してやるッ!!・・・・・・・・・ハッ!!」」

 太った男の目の前に金助がまるで瞬間移動をしたかのようにいきなり現れた。そして、金助は無表情のまま、太った男の顔を一発殴った。

 「ブヘェッ!!」

 太った男はそのまま倒れ、金助は馬乗りになった状態で太った男を感情の無い目で見下すように見た。

 「こ・・・このガキぃ・・・ブヒィッ!!」

 『お前に発言権は無い』と言うように金助は、無表情で一発、二発と殴り続けた。

 「ヒィィーッ!!あ・・・兄貴・・・兄貴が亡霊にぃぃ~・・・」

 太った男が殴られている様子を見ていた痩せすぎた男は、腰が抜けたのか立ち上がろうとする動作をしてはいるが立ち上がれなかった。そうこうしている内に金助は、ぐりんと首を向けて感情の無い目で痩せすぎた男をじぃっと見た。その首の動きは、人形のそれと似ていた。

 「あ・・・あああ・・・ああああああ・・・」

 痩せすぎた男は、今まで味わった事の無い恐怖を確かに感じていた。金助はその様子を見ると太った男を殴るのを止めて、痩せすぎた男に近づいて行った。

 「やめろ・・・やめてくれ・・・」

 泣きながら懇願する男に金助は、フフッと笑うと胸ぐらを掴んだ。

 「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!」



 道場で考えても仕方が無いと思った青太郎は、家に戻って朱美に直接聞くことにした。

 「ただいまー・・・・・・あれ、誰もいない。」

 青太郎は家の中や庭に誰もいない事が分かると、とりあえず自分の部屋の掃除でもしようと思い、そのまま自室に向かって行った。その途中、金助の部屋が開きっぱなしになっていたので、何の気なしに部屋を覗いた。

 「な・・・何だこれは・・・ッ!!」

 青太郎は驚愕した。なんと、金助の部屋がまるで泥棒に入られたかのように荒らされていたのだ。すぐに部屋に入り、散らばった本や衣類をまとめる青太郎。そして、ある事に気付く。

 「図鑑や金助の書いたレポートノートが無い・・・ッ!?」

 金目の物は何も取られてなかったが図鑑や金助が動物たちの生態等を記したノートが一冊も無かった。図鑑を盗んだところで売っても二束三文にしかならないし、金助が書いたレポートノートは一銭にもならない。青太郎は、金助の部屋を漁ったのが泥棒の仕業ではない事が分かった。そして、真犯人が誰なのかも何となく分かった。

 「あいつ・・・!!」

 青太郎は血相を変えて、外に飛び出していった。



 「ヒィィーッ!!も・・・もう、許してくれぇ!!」

 あれから金助にボコボコに殴られたのか、痩せすぎた男の顔は大きく腫れ上がっていた。

 「頼む・・・もうやめてくれ・・・分かったから・・・」

 必死に懇願する痩せすぎた男に金助は、感情の無い眼差しで直視すると、口を開いた。

 「食用や皮を取る為に狩るのは理解出来る。『弱肉強食』という言葉があるようにそれもまた自然の摂理だからだ。それに食用にしても、皮を取るにしてもそういう奴等は生命の有難みを常に感じ、理解している。」

 それは、金助の口から発せられた言葉なのだが、金助の声に何かしらエコーがかかったように出力され、痩せすぎた男には金助ではない何かが喋っているように聞こえた。

 「・・・しかしッ!!お前等は生命の有難みを感じず、ただ自分の鬱憤を晴らしたいが為に多くの命を殺した。無駄な殺戮(さつりく)だ。自然界に大打撃を与えかねない行為だ。・・・よって、お前等はここで木々の肥料となって、その命を捧げてもらうぞ・・・ッ!!」

 さっきよりも大きく拳を構える金助。痩せすぎた男は、今度こそ殴り殺されると思い込み、目を閉じた。その時だった。急に背後から声がした。

 「金助ッ!!」

 ハッと我に返り、声のした方を振り向く金助。すると、そこには・・・朱美が立っていた。朱美は大きく溜息を吐いて呆れたように言った。

 「全く・・・何て野蛮な!!」

 「違うんだ母さん!!こいつらは・・・」

 弁解しようとする金助。次の瞬間、朱美の口からとんでもない事実が発覚する。

 「私が()()()()()()()()人達に暴力を振るうなんて・・・!!」

 「・・・え・・・」

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