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黄金の国  作者: 福島和彦
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悪夢の前兆

 翌日、金助は朝練の後、あらかじめ風呂に貯めておいた水で汗を流し、スッキリした状態で寺子屋へ行った。青太郎も昨日の事を担任の先生に伝える為に後から寺子屋へ向かうようだ。一方、昨日のあのノートを見てどこかへ行った朱美は、何事も無かったかのようにただ黙って家事をこなしていた。勿論、金助たちが帰って来る前に漁った物は全て元あった場所に戻したので、母親がさっきまで部屋に入って漁っていたという事に金助は気付かなかった。一見、この母親は大人しく家事をしているように見えるが、頭の中ではある計画で一杯だった。だがそれは、金助どころか青太郎ですら知る由も無かった。

 その頃金助は、寺子屋の建て物の前にある少し大きめなグラウンドでクラスメイトに囲まれていた。その中の一人、天然パーマの西田が金助にこう言った。

 「おいおいおい・・・めっっっさ臭いんですけどぉ~本当に汗流したのかぁ?お前。」

 「うん、今日は昨日とは違う。」

 軽く小馬鹿にしたような感じで煽ってくる西田に自信満々に答える金助。西田は普通に答えが返ってきたので、少し戸惑ったが持ち直した。

 「じゃあこの臭いはあれだな。ザコ特有のクソザコ臭ってやつだな。」

 滅茶苦茶な言いがかりである。そして、西田以外のクラスメイトは集団心理が働いたのか、ここぞとばかりに口を開いて金助を罵倒した。

 「帰れ帰れ!!ザコがうつる~!!」

 「僕ちんのカッチョイイオーラが台無しになるんだよね~。ザコは罪。よって死刑!!」

 「失敗作は寺子屋に来るな!!というか、この国から出て行け!!」

 「そうだよ。もしくは、赤ん坊からやり直せ!!」

 天然パーマの西田によって火が点いた金助に対する悪口はとどまる事を知らない。ちなみに銀次郎は取り囲んでいる連中の中には入っておらず、遠くから見て金助をほくそ笑んでいた。その時、寺子屋の方から金助たちの担任の先生が走って来た。

 「コラーッ!!朝っぱらから何やっているんだ!!寺子屋に着いたんなら、さっさと教室に入れ!!」

 グーになった右手を挙げて、叱りながらこちらへ走って来る様は、漫画で怒りながら走るキャラのそれに似ていた。その姿を見た西田は、目が飛び出る程大きくして恐怖した。

 「ゲッ!!担任の小泉だ!!あいつ、ちょっといたずらしただけでもすーぐ家まで来て母ちゃんにチクるんだよ。お前ら、散れ!!解散だ、解さーん!!バレたら家庭訪問確定だぞ!!」

 西田は取り囲んでいた他のクラスメイトに手でしっしっとする動作をして、教室まで走って行った。遠くから勝ち誇った目で見ていた銀次郎は、既に教室に入っていったのか、そこにはもう彼の姿は無かった。金助も教室まで走ろうとしたが小泉に止められた。

 「破岩君、君もちったあ力をつけて西田たちを見返してやったらどうかね?馬鹿にされるのは、君自身のせいでもあるんだぞ。」

 その言葉には『いちいちあいつ等を止めるのが面倒臭いんだよ。』と、いうメッセージが含まれていた。先生は金助が周りからいじめを受けているのを知ってはいたが、今みたいに『コラーッ!!』と、言うだけでそれ以上の事は何もしなかった。何故なら、面倒臭いから。先生は金助の弱さに呆れきっていたのだ。

 「頑張ってはいるけど・・・」

 ぼそっと言った金助は、それからとぼとぼと教室に向かって行った。



 それから時は流れ、帰りのホームルームの時間になった。担任である小泉の話が終わると、日直が『有り難うございました。』の号令をかける。これで今日の寺子屋は終了する。

 「有り難うございました。」

 日直の生徒が礼をしながら言った。日直が礼をし終えると、他の生徒も続けて挨拶をした。

 「有り難うございました。」

 担任の小泉は生徒からの挨拶を受けると、

 「はい。道草せずにまっすぐ家に帰れよ。あと、宿題も忘れないように。」

 その言葉が終わると、天パー西田を含めた金助を取り囲んでいた連中は、早く遊びたいのか物凄い勢いで教室から出て行った。その様子を見た小泉は、

 「やれやれ・・・あいつらときたら全く・・・」

 と、溜息を吐いた。金助は、自分に悪口を言ってくる人間がいなくなったので、少しほっとした表情でゆっくりと教室を出た。



 「先生。」

 小泉は、職員室の前で誰かに呼び止められたので、振り向いた。そこには、金助の父親である青太郎が立っていた。

 「ああ、これはこれは破岩流の・・・」

 小泉は、生徒の父親の登場に少し驚いたが軽く挨拶をした。

 「本日はどういったご用件で?」

 「いや、昨日息子が寺子屋を休んだことについてお話がありまして・・・」

 申し訳なさそうな表情をして、昨日金助が休んだ経緯を話そうとする青太郎。しかし、小泉は左手を前に突き出して『待った』のポーズを取った。

 「ああ、破岩君・・・息子さんが寺子屋に来たにも関わらずすぐに帰った・・・と、いう件ですね。クラスのみんなにも聞きましたよ。朝練をしたのに水を浴びずに来たから、汗臭かった。だから帰らせた・・・とね。」

 顔色一つ変えずにぺらぺら喋る様子は傍から見て、イライラしているようにも見えた。朝の時間や昼休憩に行くのは先生の邪魔になると思った青太郎は、放課後にこうして訪れたのだが、もしかしたら職員会議か何かがあるのかもしれないと思い、

 「もしかして、これから何か会議がありますか?」

 と、予定を念の為に尋ねた。

 「はい、ありますよ。今から十五分後・・・位にですね。」

 廊下の時計をチラッと見て、小泉は答えた。

 「ああ、そうでしたか。それは忙しい時にすいませんでした。・・・では、いつ頃終わりますか?それまで待ちますので・・・」

 「いえ、結構です。その話に十分もいりません。」

 会議が終わるまで待つという青太郎に対して、小泉は冷たく返答をしたが答えがおかしい。しかし、青太郎にとっての一番問題はその返答ではなく、その次に出た小泉の言葉だった。

 「弱い金助君がいじめを受けるのは最早、自然の摂理みたいなものなんですよ。いじめられるのが嫌なら、息子さんをもっと強くしてやって下さい。」



 一方その頃、金助はいつも動物たちと触れ合っている森に到着していた。

 「おーい、出ておいでみんなー!!」

 しかし、何の反応も無い。と、いうより『気配が無い』と言った方が良いのかもしれない。金助はこの時、いつも来ていた森なのにどこかいつもの森ではないような空気に違和感を感じていた。

 「何か変だなあ~・・・もっと奥の方に行ってみよう。」

 いつも来ていた森なので、何の迷いも無く足を動かす金助。ある程度奥まで進んだ時、何かを踏んだ。

 「ん?何か柔らかいものを踏んだな・・・動物のうんこかな?」

 ふと、足元を見る金助。そして、自分が踏んだ物を見て青ざめた。

 「・・・え?」

 金助が踏んだのは動物の糞ではなく、森に棲むウサギの死骸だった。しかも死骸を見る限り、寿命が尽きて自然に死んだものではなく、刃物や銃で無残にも殺されたものだった。その証拠に白くてもふもふした毛皮は、血で真っ赤に染まっていた。

 「一体誰がこんな事を・・・」

 おびえながらも周りを見渡す金助。その時、銃声が聞こえた。かなり大きく響いたので、発砲場所は今いる場所から近いものだと分かった。

 「何とかしなきゃ・・・でも、どうしよう・・・」

 パニックになりながらも鞄から縦笛を取り出し、刀を構えるのと同じように持つ。そして、極力物音を立てないように音がした方へと進んでいく。すると、そこには二人の男が野生動物を狩っている姿があった。

 「あの二人が・・・」

 その時、金助の中にあった不安や恐怖が消え、覚悟を決めた顔をしていた。

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