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黄金の国  作者: 福島和彦
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朱美の暴走

 追い出された金助は、自分の家に戻って母親に事情を説明した。しかし、

 「男の癖に素直に追い出されたの!?はあ~情けない!!ちょっとは言い返す事位しなさいよ、男の子でしょ!!」

 「言い返せる空気じゃなかったんだよ。あそこで言い返したら、余計酷い目に遭っていたと思うよ!?」

 「全く母親に対してだけは一丁前に口答えをしてッ!!」

 朱美は、怒鳴り声を上げた。その瞬間、庭の木にとまっていた小鳥が血相を変えて飛んで行った。

 「本当、誰に似たのよこんな出来損ない!!先祖代々受け継がれた破岩流の面汚しじゃない!!」

 怒りが頂点に達した朱美は、床をダンッと踏みつけ、箪笥の上にあったこけし等の小物を手で全て落とし、『キェアァァァァァァァァーッ!!』と奇声を上げた。

 「おい!!一体何があったんだ!?」

 事態の異常さに父・青太郎が焦った表情でドアを開けた。さっきまで外へ出ていたので、金助が家に帰っていたことを知らない青太郎は、『何で金助がここに?』と思ったが朱美の暴走が止まりそうもなかったので、まず始めに朱美を押さえて止める事にした。

 「落ち着けって!!そうやって物に当たるのはお前の悪い癖だぞ!!」

 何とかなだめようとする青太郎だが朱美は止まらない。そして、矛先は金助から青太郎に変わった。

 「大体貴方のDNAが不良品だったからこんな出来損ないが出来たのよ!!お父さんもお母さんも貴方を凄く評価していたけど、所詮どこの流派にも属していない半端者じゃない!!剣豪?実力者?ホンット他人の評価なんて当てにならないッ!!私は、お父さんの・・・破岩流の一人娘としてきちんと後世に受け継がせなきゃいけないのにッ!!何でどいつもこいつも邪魔するのよッ!!」

 そう言い終えた後、叫び疲れたのかゼーゼー息を切らしながら青太郎の腕を振り払い、台所へ行った。そして、コップに水を注いで一気に飲み干すとコップを床に叩きつけた。勿論コップはガラス製の物だったので、パァンと音を立てて割れ、そこら中に破片が散らばった。金助はその時の母親の異常な行動に体が凍てついた。

 「・・・もういいわ・・・頭が痛くて寿命が縮まりそうだからもう寝る・・・。」

 ヨロヨロしながら自分の寝室に向かう朱美に青太郎が付き添おうとした時、その腕をはたいて

 「要らない、ストレスが溜まる。」

 と言って、寝室の襖をピシャリと閉めた。そして、布団に入る音が聞こえたら青太郎は金助と一緒に外へ出た。とはいえ、町で遊べるような気分でもなかったので、森へ行っていつも動物たちと触れ合う場所で金助は事の経緯を話した。

 「まあ、クラスメイトもクラスメイトだがお前も少し気遣いがなってないと思うぞ?」

 「だってお風呂入る余裕が無かったんだもん。それにそこまで(にお)いがしていたなんて気が付かなかったし、夏なんだから皆も寺子屋まで行く途中で汗かくでしょ?」

 「そりゃあそうだけどな、歩いて出る汗と走って出る汗は量が違うだろ?量が多かったら汗の臭いもきつくなるし、朝っぱらからそんな臭いされちゃ勉強に支障が出ると思ったんじゃないか?まあ、強引に追い出すという行為はいじめのようなものだし、それはそれで問題があるから後で担任の先生に言っておくとしよう。」

 青太郎はそれから『よし!!』と言って手を叩き、こう続けた。

 「まあ、次からは気を付ける事だな。朝練するならもっと色々工夫をしてみなさい。で・・・母さんについてなんだが・・・まあ・・・伝統を重んじるというか、お義父さん・・・いや、おじいちゃんやご先祖様が築き上げてきた破岩流剣術を後世に(のこ)したい一心でお前に厳しくしているから・・・あまり恨まないでくれないか?そりゃあ今日みたいな事とかはやり過ぎというかヒステリックになりすぎだけど、金助には立派になってほしいという母親心は分かってやってほしい。」

 青太郎は、朱美のやり方に疑問は感じるもののフォローをした。教育云々ではなく、その根底にあるのは子供を思っての事だと思ったからだ。

 「うん・・・分かってるんだけど、やっぱりあの怒声と物に当たる癖は怖いよ。僕、毎回殺されるんじゃないかと思うし・・・。」

 「分かってる。さすがに今日のは俺もぎょっとした。」

 さっきの光景を思い出した二人は、すっかり青ざめている。当主とはいえど、青太郎は婿養子なので実際破岩家の中では朱美より下なのだ。本来なら当主の座も朱美が継ぐ筈だったのだが、先代の当主である朱美の父と母が青太郎の人間性と実力を買い、異例ではあるが門下生ではない青太郎に当主を譲ったのだ。理由としては、朱美は実力はあるが周りの人間と打ち解けようとせず、他の門下生からの信頼も薄く、自分の事しか見ていないからだ。それに比べて青太郎は、どこの流派にも属しておらず、門下生でもないが全国各地の強者と戦って経験を積んでおり、またそれを鼻にかける訳でもなく他者との信頼関係がしっかりと出来ていたのだ。始めは破岩流の当主との試合に来ただけの青太郎だが当主の熱烈な勧誘により、期間限定入門という形で破岩流の道場で鍛錬を積むようになり、今に至る訳である。

 「・・・昔はただ不器用なだけだったんだけどなあ・・・」

 昔を思い出して溜息を吐く父を見て、金助は

 「(何で父さんは母さんと結婚したんだろう?)」

 とか思っていた。

 場所は変わり、破岩家の寝室。寝ていた筈の朱美が何を思ったのか、布団から出て金助の部屋へ歩き出した。朱美はブツブツと

 「あの子があんな出来損ないなのには何かしら原因があるはず・・・突き止めなきゃ。」

 何かを決心したかのように凛とした顔立ちで金助の襖を(ひら)いた。部屋に入った途端、勉強机までスタスタと歩き、引き出しを思いっきり()けた。

 「・・・何これ?」

 そこには動物図鑑や植物図鑑などの分厚い本が入っていた。

 「・・・動物なんか知った所で一体何になるってのよ・・・あの人ね?こんな無駄な物を与えたのは。」

 引き出しの中の本をひょいひょいと机の上に置いた時、引き出しの底に薄っぺらいノートを見つけた。

 「ん?」

 何のノートかと思い、中を開くとそこには・・・

 「な・・・何よコレ!?」

 近所の森に棲む動物たちのレポートのようなものがびっしりと書かれていた。そして、朱美はそこに書かれてある筆跡で金助によるものだと分かった。その瞬間、朱美は言葉に出来ない程の怒りを覚え、唇を血が出るまで噛み締めた。

 「あの子は破岩流を継ぐ気なんて無いんだわ・・・そう・・・そうだったの・・・」

 一瞬、落ち込んだかのように見えたがそれは間違いだった。

 「フッフッフッフッフッ・・・フフフフフフフフフ・・・」

 急に邪悪な笑みをして持っていたノートを思いっきり床に叩き付けた。

 「『飼い犬に噛まれる』・・・なんて言葉があるけれど・・・まさか、息子に噛まれるなんてね。・・・母の愛を裏切った報いを与えなければならないわッ!!」

 そう言った朱美は、そのままどこかへ出かけて行った。

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