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黄金の国  作者: 福島和彦
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ドス黒い妖気

 金助が着いた時には既に道場だけでなく、自宅にまで火がまわっており、大火事になっていた。

 「家にまで火が・・・町火消(まちびけし)はまだ来ないの!?」

 本来なら、町火消が来ていてもおかしくはないのだが、辺りを見渡しても火を消す人間が誰も来る気配が無い。集まっているのは、ただ火事の惨状を見に来ただけの人間ばかりだった。

 「町火消が来ないのなら・・・直接俺が入るしかない!!」

 金助は覚悟を決めて、燃えている自宅の敷地内に入って行った。幸い、燃えているのは建物だけで、庭は燃えていなかったので、庭から家や道場を見て回った。

 「母さん・・・いるなら返事して・・・母さん!!」

 「破岩朱美は死んだ。探しても無駄ってもんだぜ。」

 金助は声のした方を向いた。そこにいたのは、銀次郎だった。何でこんな所に銀次郎がいるのか、金助は疑問に思った。しかし、その前に銀次郎が言った事が気になり、金助は聞いた。

 「銀次郎何で・・・いや、今『死んだ』って・・・」

 「あ~・・・すまん。もしかしたらまだ生きているかもなぁ~。()()()()()()()()。」

 「何!?火だるまだって!?・・・まさかッ!!」

 銀次郎はちらっと朱美が倒れた場所を見ると、鼻で笑った。金助は、銀次郎が見た方向に朱美がいると思い、その場所に駆け出した。しかし、火が強すぎてとても近づけるものではなかった。必死に朱美を探そうとする金助に銀次郎は刀を抜いて襲い掛かった。刀の抜く音に気付いた金助は、横に飛んで銀次郎の刀を何とかかわした。銀次郎の刀は、剣術大会の競技用の物でもなければ、道場の物でも無かった。金助は刀を見ただけでそれに気が付いた。

 「何をする・・・これは・・・!!」

 「ほぉ・・・落ちこぼれの雑魚でも気が付いたか・・・」

 銀次郎の刀・・・それは、侍が持っている真剣、本物の刀そのものだった。本物は一人前の侍にしか持つ事を許されていないので、いくら銀次郎が天才といえどすぐに手に入る代物でもないし、銀次郎の家は代々農家の家柄。武家ではないので、先祖の本物の刀は無い。では、どうやって手に入れたのか。

 「まさか・・・それはうちの道場の・・・」

 「違うね。お前んとこの道場に飾られていた刀・・・ありゃあ、贋作(がんさく)だった。何かおかしいなと思ったら、刃がねえんだ。そんなもん使い物にならねえだろ?だからそいつは、火の中に投げ込んだよ。焼却処分ってやつさ・・・。」

 「じゃ・・・じゃあ、その刀は・・・」

 「こいつは、昨日・・・いや、時間的には今日の朝か?隣町の道場で盗んできた刀だ!!」

 刀を天に掲げる銀次郎。今のセリフで、近所のおばさんが言っていた『隣町の道場の火災』が銀次郎によるものだと分かった。

 「じゃあ、隣町の道場が火事になったってのは・・・」

 「そうだ。俺がやった。ついでにこの火事も・・・あの団子屋一家を殺害したのも俺だ。本当なら、お前もこの火事で殺すつもりだったが・・・外に出ていたのか・・・まあ、良い。俺がこの手で直接殺す。」

 「何だって・・・!?」

 再び銀次郎の刀が金助を襲う。日頃から鍛えていたおかげで何とか体を逸らして避ける事が出来た。金助は銀次郎からある程度距離を取って、何故そんな事をしたのか問いただした。

 「どうしてそんな事を・・・」

 ここで、さっきまで口角が上がってにやついているように見えた銀次郎の顔が、ギラッと怒ったような顔に変わった。

 「そんなもん、てめえが知る必要はねえ!!」

 素早い動きで金助に詰め寄る銀次郎。金助はいつも腰に付けている竹刀をとっさに出して、刀を受け止めた。

 「目を覚ませ!!君は侍になるのが夢なんだろ?だったら、もうこんな事やめて、罪を償うんだ!!」

 「やかましい!!てめえ如きが俺様に向かって偉そうに指図するんじゃあねえ!!・・・そもそも金助。お前はあの母親がこのまま死んでくれたら、本当は嬉しいんじゃあないのか?散々罵声を浴びせられたり、暴力を振るわれたりしたもんなあ~・・・」

 「なっ・・・!!」

 金助は動揺をした。そして、その隙を突かれないように銀次郎の刀を払って、後ろに下がって距離を取った。

 「・・・お前、今動揺したな?」

 銀次郎は金助が動揺した事に気付いたのか、にやついた。

 「・・・確かに母さんは今まで俺に酷い事をしてきた。五年前の森の動物たちの一件も俺は一生許さないし、父さんを追い出した事も一生許す事はないだろう。正直、心の底ではホッとした。・・・でも君は、それと同時に『父さんの帰る場所』を・・・『家族三人で一緒に暮らす家』を燃やした。思い出もこれから先の未来もッ!!全てッ!!それは到底、許される行為では無い!!」

 金助は銀次郎に向かって竹刀を構えたまま、突進した。銀次郎は突進を右にかわし、その瞬間に金助の横腹に蹴りを入れた。蹴りは思いっきり入り、金助はその場に倒れた。

 「ぐっ・・・あああ・・・」

 「ハッ、偉そうな事言った割にはこの程度か。全く、何で俺はこんな奴相手に剣術大会で苦戦したんだろう・・・なッ!!」

 銀次郎は金助の竹刀を力一杯踏んづけ、真っ二つにした。それだけでは気が収まらないのか、金助を何回も蹴った。始めは抵抗しようともがいていた金助だが、銀次郎の蹴りに耐え切れなくなり、動かなくなってしまった。

 「・・・フン、ようやく観念したか・・・。」

 銀次郎は動かなくなった金助を両手で持ち上げると、

 「これでお前も終わりだ。」

 と、言って、燃え続けている家の中に投げ込んだ。金助を投げ込んだ時に起こった衝撃によって、破岩家の一部の屋根が崩れ落ちた。生き埋め状態になった金助に銀次郎は問題が解決したような顔で言った。

 「燃えている家の中にそのままぶち込んでやった・・・その上屋根も落ちて来たから生き埋めの状態。這いあがって来る可能性もあるが・・・投げ込む前に散々痛めつけてやったから、それをする程の体力は無いだろう。」

 銀次郎は近くに落ちてあった大きめの石を拾い上げ、燃えている破岩家に向かって投げ入れた。大きめの石は、家のどこかに当たり、再び屋根の一部が崩れ落ちた。これで自分の勝利を確信したのか、銀次郎は『フッ』と鼻で笑うと、刀を収めて破岩家に背を向けて立ち去ろうとした。その時、

 「・・・ッ!!」

 後方から何か飛んでくるのが気配で分かり、がっちりと飛んで来たそれを掴んだ。

 「あっつ!!」

 飛んで来たのは、たった今銀次郎が投げ入れた大きめの石だった。いくら大火事でも短時間でこんなに熱を持つのかは疑問だが、とにかくその石はお好み焼きを焼いた時の鉄板のように熱かった。

 「この石は・・・まさか・・・!!」

 銀次郎は自分が投げ入れた石だと気付くと、信じられない物を見る目で燃え盛る破岩家を見た。そこからゆっくりと出て来たのは、生き埋めになったはずの金助だった。先程のダメージが残っているせいか、横腹を抱えている。

 「お前・・・どうやってあの瓦礫(がれき)から抜け出した・・・!?」

 銀次郎が驚くのも無理は無い。金助の服は焼け焦げてボロボロになっているものの、それ以外は横腹に入った蹴りのダメージ位しか見て取れなかったのだ。皮膚が所々黒いのも焦げているのではなく、ほこりや(すす)で黒くなっているだけのように見える。横腹を抱えながらも拳で向かって来る金助に銀次郎は再び刀を抜いて構えた。その時の銀次郎の表情は、追い詰められているかのように焦っていた。

 「雑魚がァ・・・とっとと、くたばりやがれ!!」

 銀次郎は上から下に向かっての縦振りで金助を斬ろうとした。しかし、

 「な・・・何ィーッ!?」

 金助は両手でがっちりと刀を止めた。白刃取りである。予想もしなかった防御に銀次郎は戸惑いを隠せなかった。

 「こいつ・・・いつの間にこんな事が出来るようになったんだ!?か・・・刀が全然動かない・・・」

 刀を動かそうとしても、金助の両手はびくともしなかった。

 「くっそがァ・・・俺が・・・俺様が力負けするはずが無い・・・こんな雑魚相手にィ・・・ぐぬぅぉおおおおおお・・・」

 金助を斬ろうと刀に力を入れるのに必死だった銀次郎は、自分の刀だけに集中し続けた。その為、胴体への注意が無くなってしまい、隙が生まれた。その隙を金助は見逃さなかった。

 「でぇいッ!!」

 金助は銀次郎の胴体に思いっきり蹴りを入れた。

 「ぐぅおッ!!」

 金助の蹴りが綺麗に決まった事で、銀次郎は刀から手を放して自身のお腹を押さえた。想像以上の威力だったようで、その場にうずくまったまま動かなくなった。

 「くそが・・・舐めた真似をしやがって・・・この雑魚が・・・雑魚があァァァ・・・ぐっ・・・はあ・・・」

 痛みに必死に耐えている銀次郎に金助は近づいて言った。

 「残念だけど、これから君を奉行所に引き渡す。そこで洗いざらい話すんだ。かなり重い罪になると思うけど、それだけの事を君はしたんだ。・・・立てる?」

 ポンと銀次郎の肩に手を置く金助。その瞬間、銀次郎がギロッと振り向きざまに金助を睨んだ。かなり鋭い眼光だった。

 「ふざけるな・・・俺はお前より・・・いや、この国にいる奴等の中で一番強い!!いずれはこの国の頂点に君臨する男だ・・・ここでてめえみてえなカスに捕まってたまるかッ!!」

 そう叫んだ瞬間、銀次郎の体からドス黒い何かが噴き出した。それは『妖気』というべきか、とても重くて禍々(まがまが)しいものだった。そして、金助はこの『妖気』のようなものに覚えがあった。

 「こ・・・この感じはまさか・・・!!」

 脳裏によぎるのは、五年前のあの出来事。森の動物たちや父・青太郎がいなくなり、精神的にもかなり追い込まれていた時期の事。森の奥深くにある洞窟の祠に封印されていた、あの自称・『森の神』と同じ感覚が今、何故か銀次郎の方からしている。金助は、嫌な予感がした。

 「銀次郎・・・君はまさか、あの祠に行って・・・」

 「そう、この男が私の封印を解いてくれたのだよ。金助。」

 「!!」

 聞き覚えのある声に金助は咄嗟に構えた。やがて、ドス黒い何かが無くなると銀次郎の後ろに背後霊のような何かが立っていた。そいつは影のように真っ黒で目玉が一つの誰がどう見ても妖怪や魔物だと分かる見た目をしていた。体の形は煙みたいに不安定で、ふうっと息を吹きかければ飛んでいきそうだった。その影は手のような部位をグーパーしながら言った。

 「さすがに封印した人間の力と道具が強かったせいか、私の姿はこのように不安定で脆弱(ぜいじゃく)なものになってしまったが・・・それも時間が経てば、解決するだろう。真の姿に戻った時がお前たち人間の最期だ。・・・なあ、銀次郎?」

 影はまだその場にうずくまっている銀次郎に声をかけた。その声に応えるように銀次郎はゆっくりと立ち上がり、金助を睨んだ。

 「銀次郎・・・!!」

 目の前の銀次郎は、ドス黒い妖気のようなものを纏った刀を金助に向けた。そして、口角を上げて邪悪に笑った。

※町火消し=消防隊

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