短編集
残暑厳しいある日、俺の友人が死んだ。紛れも無い他殺。そして、元の姿が分からない程に付けられた多くの傷痕。頭部と胸部を複数回刺され即死。現場に広がる臭いは警察の関係者の汗と血の鉄分の僅か。
そう警察から言い渡されたのはもう一週間も前の事。未だに犯人は見つかっておらず住民は恐怖に怯えている。
が、住民の内の一人である俺は違った。沸沸と沸き上がる感情は怒りである。日が経つにつれその怒りはやり場を失う。
激しい怒りと喪失感は精神を着実に蝕んでいく。
そして、さらに月日は流れて一月後。やっと残暑も終わり過ごしやすい陽気になってきた。
が、やはり俺は違う。怒りの熱と不安が絡まり合い額を幾つもの汗が流れ落ちる。
そろそろ肉体的にもキツい。
さらに時は流れた。真冬の寒さは酷く自分の心と類似していて気持ちが悪い。
俺は起き上がってからそのまま、洗面所へと向かう。
そこに映る自分の姿はかなり衝撃であった。痩せこけ、髭と髪は伸びきり歯は黄ばみ、場所によっては黒ずんでいる。
泣きたくなってきた。というより、もう泣いていた。とうに冷や汗もでず、流れるのは無感情の涙のみ。
しばらく泣いた所で悪魔が小耳を打つ。
ーーーこうなったのも全てあいつのせいだ殺せばいいんじゃないか?ーーー
はっとした。流れる涙は止まり突然として笑いだす。
それは端から見れば恐怖でしか無かった。
そして、暖かい気候へと変わり近くの公園からは子供が元気に遊ぶ声が聞こえてくる。そして、制服で下校する一年生はどこか誇らしげだ。
またも月日は流れて九月。あの時と似た気候だ。夕方だというのに辺りは弛緩しており妙に空気が重い。その重さを切り裂くようにして鳴り響いたのは久しぶりに聞くインターホンの音であった。
「警察だ。開けてもらえるか? 犯人が分かった」
まだ20前だというのに髪が何本も抜け落ち床にまだらに撒いてある。それぐらい精神状態が悪かったのだろうか。
「犯人って誰なんだよ」
目付きは悪く部屋からは鼻を攻撃するような悪臭が漂う。思わず警察官は顔をしかめる。
「逮捕状がでている。素直に従え」
「はい?」
未成年者でありながら酒を持っている時点で逮捕なのだが手を捕まれて反抗的な態度とる。
俺はそれから署に連れてかれた。色々言われた。まず飲酒、それにタバコ、強姦、万引き。
次に警察官が言い放った事に衝撃を隠せなかった。
「あの日鵜染を殺したのはお前で間違えないな?」
鵜染ーーーーそれはあの日殺された俺の友人ーーーーが、何で俺が殺した事になるんだよ!?
「最初の方のやつは認める。だけど鵜染は殺してねぇーよ! 信じてくれ! 俺は犯人を殺すつもりでもいたんだぞ!?」
口が滑ってしまった。悪魔の囁きによって固まった俺の意思を。それを聞いた警察官は激怒する。
「いい加減にしろっ! お前は気付いてないかも知れないが、お前は重度の麻薬依存者なんだよ! 殺したのにも気付かない位にな!」
それが最後に聞いた人の声であった。
そして俺は今、牢の中にいる。
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丁度、一年後、新聞の一面にはこう書かれていた。
去年の麻薬依存者の殺人事件の犯人死亡! 牢の中で何が!? 壁の一部が剥がれていた!?
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聞いた話だが、犯人の死体は酷く損傷しており、頭部と胸部を複数回刺され、元の姿を留めていなかったとーーー
はい。初めて書きました。どうでしたでしょうか。感想など聞けたら嬉しいです。
もしよければ長編小説も読んでみてください。