カルマ
ちょっとずつ調子が戻ってきた気がします。
木々が蔽う森の中、登山をするにしても道具類を一切持たずさらに靴はサンダル。登山家からすれば否どんな人から見ても完全に山を舐めているものの恰好。
しかしその者は悠然と山を登る。目的地を目指し一点の曇りなく歩く。
聞こえてくる音は風が過ぎていく音。風により揺れる木々。そしてその者の歩く音。ただそれだけ。静かで本来ならいいのかもしれないがこの山にとってはそれは異常な事であった。
この山には魔物がたくさんいる。一歩歩けば出会ってしまうほどに。魔物の種類は多様だ。虫型人型動物型様々な魔物が居る。いつしか人はその山を[モンスターハウス]。山なのにハウス?と思ったものもいるだろうが山が魔物にとって家であると人々はそう言っているのだ。
さて、そんな山にの者その女は悠然とただ歩いている。誰も襲わない。基本襲う事しか脳のない魔物も避けえていく。
「ここかしら?」
その女はある洞窟の前までたどり着くとその足を止めて中を窺うように覗いた。
「暗くてよく見えないけど、まぁ入ってみましょう」
暗く1m前ですら見えない洞窟の中を先ほどと変わらぬ速さ変わらぬ軽さで入っていった。この洞窟は本来そんな気軽に入るような場所ではない。なぜならばその洞窟には鬼が封じられているのだから。
☆
「カルマ大丈夫かな」
「・・・・・・」
ソフィアはさっきオークの集落に向かったカルマを心配していた。元気に振舞っていたがカルマはついさっきまで倒れていたのだ。やけに長い時間が過ぎた気がするが実はまだ半日も経っていない。
カルマは目を覚ましてからずっと何かをしている。記憶を失っている事を知りご飯を食べ名前を付けてもらい村長の元に行き挨拶をしてクローラにも出会い畑を復活させてオークの集落へ。
普通の人ならまず記憶が無い時点で・・・・・・いや見知らぬ所で目が覚めた時に動揺する筈だ。けれどカルマは違った。多少戸惑っていたものの動揺とは違うものだった。言うなれば好奇心。カルマにはそれが見て取れた。子供が新しいおもちゃで遊んでいるような顔でもあった。
危なっかしい。そんな言葉も似合うような彼はどこまでも楽しそうにどこまでも笑顔であった。本人は気付いていないだろうがずっと口の端がつりあがっていたのだ。
「変なことに首を突っ込んでいなければいいけれど」
「・・・・・・親か何かか?お前は」
先ほどからソフィアの隣で呟きを聞いていたクローラがソフィアに突っ込んだ。カルマが村を出て行ってからそんなに時間は経っていないがカルマを心配する言葉が既に数え切れないほどこぼれ出ていた。それをずっと聞いていたクローラはソフィアが完全に親にしか見えなくなっていた。
確かにあの人間カルマを倒れているのを救いカルマと名前を付けていたがここまで親にならなくてもいいと思うのだ。あの人間がどれほど力を有しているかは知らないがあの魔法を見た限り只者ではないようだとクローラは思っていた。
それこそカルマとであった時からどこか引っかかりを感じていた。一見そこらにいる人間と何も違いは無いのだが何故か自分の主と姿を重ねてしまっていた。重なる筈もないその姿。重なる筈もないその力。けれどクローラは重ねてしまっていた。
主であるドランノヴァが死んでからエミール村に来るまでたくさんの人間を見てきたクローラだがこんなことは始めてであった。強きものはたくさんいた。それこそ下手をすれば負けてしまう相手もいた。だがそんな人間ですら重ねる事はなかった。
自分でも分からない。けれどそれ故に思うのだ。
「心配しすぎだお前は」
「そんな事・・・・・・」
ソフィアは言い淀む。自分がつぶやいてきた事を思い出したのだろう。ぶつぶつと隣で言い訳を考えているソフィアを見てクローラは笑った。
「もう!何で笑うんですか!」
「ふふ、いやなに。お前は本当に心配性のお母さんだなと」
「~~~!」
ソフィアは顔を赤らめて頬を膨らませクローラをぽかぽかと殴る。その光景はとても和やかなものでヒトと魔物が共存できている証でもあった。
ドランノヴァが求めていた物はドランノヴァが死んでから手に入っていた。そのことがクローラにとって2番目に後悔していたこと。
自分の敬愛する主が求めたものを主餓死して手に入るなど。だがそれは2番目だ。確かに主は既にいないが一応成し遂げたのだ。ならば1番は……
「クローラ様!ソフィア!」
「お父さん?」
クローラが思いふけっていると村長が駆け足気味にやってきた。何かあったのだろうか?と思ったがすぐ後ろにいる人物を見て直ぐに理由を察した。
人物と言ったがそれは人ではない。人のように2本足で歩いているがその顔はその体格は豚のそれだ。オークの長が来ていたのだ。
「あれ?」
ソフィアも気づいたのだろう。本来オークが来るのは月に一度食材を届けに来る時だけ。その時も長が来る事は無い。基本は配達係が行っている。それが今回は配達の日でもなければ別段会議等があるわけでもない。
だが長が来ると言う事はそれほどの事があったと言う事だろう。
「オークの長殿どうなされました」
「クローラ様それにソフィアさんお久しぶりです」
「はい、お久しぶりです。それで何かありましたか?」
クローラが長に訊ねるとまずは挨拶をきっちりしてきた。見た目とは裏腹にそのあたりはきっちりしている。クローラはどちらかと言えばそんなものはどうでもよく早く本題に入りたい方だ。
「ええ、カルマと言う人間をご存「カルマが何か!?」知のようですね」
オークがすべてを言う前にソフィアが食って掛かっていた。言うまでもなく心配していた者の名前が出てきてその理由が何かあったからだったのだからソフィアとしては黙っていられない。
まるで我が子が悪いことをしたかのように顔を青ざめ目には涙を浮かべていた。
「あれ?なぜに泣いて」
「おうコラいくらオークの長と言えど私の可愛い娘を泣かすのは許さんぞ」
「え!?私は何もしていませんよ!?」
ソフィアが泣いたせいで後ろで突っ立ていたエミール村の村長がオークの長に凄みを聞かせている。身に覚えのないオークの長はいきなりソフィアに泣かれ村長に睨まれるという状態になっていて涙目である。
「はぁ、2人とも少し落ち着きなさい」
クローラはこの親子二人を見てため息しか出なかった。ソフィアの親ばかはこの父の遺伝だろう。実際カルマはソフィアの子ではないのだがソフィアにとってカルマ既に自分の子のようになっている。
気が早いとかそんな問題ではない。何が彼女をここまで駆り立てるのか。親ばかというよりただのお節介だろうか?うん、そっちの方がおっている気がする。
クローラは少しだけ昔の事を思い出していた。クローラがこの村に初めて来たときボロボロの状態だった。そんなクローラを見たソフィアは涙目で父の元へ行き父はクローラが泣かされたと思い凄い形相で駆けつけてきた。
本当にこの親子は変わっていない。
「それで?一体何があったの」
「は、はい。実はカルマという人間が私どもの集落へと足を運んだそうですが門番が追い返してしまったそうで」
「ほう」
「それでそれだけなら私は知ることもなかったのですがその門番が攻撃されたと騒いでいまして」
クローラの隣ではソフィアがガタガタと震えている。これは夢これは夢と既に現実逃避し始めている。
「それで?」
「はい、その門番は気性が荒く、よく妬まれたりするものなのであまり気にしないようにしていたのですが……」
「が……なんだ?」
「はい、一応捜索部隊を派遣しその人間を探していた時に何体もの魔物が倒されていたと報告が上がりまして。それだけなら特に報告をしてこない者たちなので何かあったと思い追及すると高度な魔法が使われた痕跡があると報告を受けまして」
「高度な魔法だと?」
「ええ、ですので私も見に行くことにしたのですよ。もし本当に高度な魔法が使用されていた場合ただ事じゃ済まされませんから」
オークの長はここまで言うと一旦話を区切り心臓を落ち着かせるように胸に手を当て大きく深呼吸をしたところで。
「私どもでは到底使えもしない魔法が使用されていました」
「!」
長の発言に流石のクローラも緊張の色を隠せないでいる。あの人間が?確かに畑を復活させるような魔法を使ってはいたがそんな。
しかしオークはそこまで魔法が得意な種族ではない。むしろ苦手とする部類だ。自身の攻撃と防御を上げる魔法を使うくらいで他は大体が肉弾戦を好む。
「私どもと言うのはオークではと言う事か?」
クローラは聞く、オークならというならば全然臆するに値しない。長はどこか言いにくそうにしていた。その表情はクローラにとって不安でしかなかった。そしてそれは本物となる。
「この村の者……つまりリザードマンはおろかクローラ様方天狗族の方々でも難しいかと」
「……そうか」
そんな話は信じられないし信じたくない。仮にも高位の魔族である天狗族ですら使用するのが難しいとされる魔法を使用しているのだ。
だがとクローラは考える。その魔法は本当にカルマが使用したものなのか?もしかしたら他の魔物等が使用したのかもしれない、そんな可能性もある。だがそれはこの村の危機を意味するものだが。
「その魔法をカルマが使用したという根拠は?」
「そ、そうですよ!あのカルマがそんな魔法……」
先まで震えていたソフィアがクローラの問いに賛同してきた。しかしソフィアは……村の人間はカルマがどの程度の力が使えるのかを認知していない。むしろカルマ本人ですら認知していない。
だからだろう最初こそ勢いよく否定していたがだんだんとその声がか細くなっていったのは。
「確かにカルマとやらが使用した根拠はありません。ですが彼が通ったであろう道を捜索してきたところでそれを発見したしましたので」
しかしとオークの長は続ける。
「もしあの魔法を使用したのがカルマなのだとしたら、これほど村にとって有益な事は無いでしょう。それに畑、作物の方も」
「そうだな」
クローラは今それしか答えることができなかった。確かに村の畑が良くなり作物の質がぐんと上がったのはカルマのおかげそしてカルマが高度な魔法の使い手だとしたら村の安全はさらに上がる。とてもいいことばかりなのだ。
だがそれには絶対的な条件がある。カルマがこの村の味方である事だ。そしてカルマの機嫌を損ねない事だ。敵となったら言わずもがなでもし機嫌を損ねでもしたら一体どうなる?
もし攻撃してきたら?短気な人間で怒ると何か物にぶつかってしまうような人間だったらこの村はあっという間に消えてなくなるだろう。
天狗でさえ使えないような高等な魔法が本当に使えるようなのであらば注意しなくてはいけない。そして必要があれば消される前に消さなければいけない。
この村はドランノヴァの最後の命令で守らなければならない。ソフィアには嫌われてしまうかもしれないが。
一番いいのがカルマがこの村の事を敵対し無いことだ。流石に今のところはこの村に敵対視していないと思う。記憶喪失というのが演技でどこかのスパイの可能性もあるかもしれないが。
と考えたところでそれを切った。何故ならば少ししか相手をしていないがあれが素だろうと、感じ取ることができた。
「様子を見ないといけないな」
「カルマ……」
クローラが意思を固めている横でソフィアは渦中のカルマの今を心配して空を見上げるのだった。
☆
「( ゜д゜)ハッ!」
キョロキョロ
「ここはどこ何ここ何なのここ!」
五月蠅いのが起きた。目を覚ましたと思ったらいきなり叫びだすとか。しかも聞いてる内容全部現在地だし。確かにこの世界にあのネタがあるとは思えないけどせめて居場所と時間を気にしてほしかった。全部場所ってなんか。
「まぁ落ち着けよちっさいの」
「!?」
俺が目の前で騒いでいる小さいのに話しかけると驚いた表情でこちらを見てくる。目が見開いて口から心臓でも飛び出てくるんじゃないかな?と思わせるほど口をあんぐりとさせている。この子きっと戦闘でも死なない位置づけだな。おバカキャラは死なない。
「誰あんた!ハッ分かった!私話食べる気ね!?」
「誰が食べるかアホンだらぁ」
ここで「食べないでください!」なんて言ったら「食べないよ!」とでも返したがそんなことを期待してはいけない。ここではあの世界のネタは通用しない。心に刻んでおこうそうしよう。
「じゃあ一体何するきよ!」
「何って、ナニを…って意味わからんか。木から蜘蛛の糸で簀巻きにされたお前を助けたんだ。礼の一つくらい貰ってもいいんだぜ?」
「え?蜘蛛の糸で簀巻き?……あっ」
何かを思い出したのか急に顔が青ざめ始めた。体もぶるぶると震えだし何かに恐怖している感じだ。ま十中八九あの蜘蛛のモンスターにでも追いかけられていたんだろう。だって食べやすそうな大きさしてんだもん。
「早くここから逃げなきゃ!あんたもここに居たらあの蜘蛛が!」
「だから落ち着けってその蜘蛛ってあれの事だろ」
「これが落ち着いていられるわけないでしょ……って、え?」
文句を言いながら俺の指さした方へとその視線をやるとそこには黒焦げて死んでいる蜘蛛のモンスターが居た。
この蜘蛛何を隠そうこのちっこいのを食べようとしていてうっかり落として俺に倒されたのだ。しかしあの時はびっくりした。ガサガサと音がしたからなんだ!と思ったら簀巻きのこいつが落ちてきて。チチチって声みたいなものが上からしたから見上げるとそこにはこの蜘蛛が。
思い出しただけでも悪寒が。叫んだね。ものすごい叫んだね。確か声を大きく出したら勝ちみたいなものが在った気がする。それに出てたらぶっちぎりで優勝狙えるくらいに叫んだと思う。
しかもこいつ今まで倒してきた蜘蛛の2回りほどでかいとかもう意味わかんないよ。なんなん?1mくらいある奴の2回り大きいのって俺の身長軽く超えてんだけど。降りてきても何で見上げてるの?
叫びながら渾身の一撃は放って速攻で殺したもんね。蜘蛛は絶滅させましょうそうしましょう。生態系なんて知ったこっちゃねぇぜ!
「あんた何者?」
ちっこいのが俺に何者か聞いてきた。何物も何もドラゴンですが、なんて言ってもどうせ信じないだろうしこいつ弱そうだし。人間でいいよね。これ以上こいつと関わる事ないから別にドラゴンって言ってもいいけどま、いいか。
「人間だよ。ただの人間」
「そんなの信じられるわけないでしょおが!」
人間と言ったのに結局信じてもらえなかった。ドラゴンと言った方が信じてもらえたのかな?