畑
「クローラだ、この村の民からクローラ様などと呼ばれているが好きなように呼べ」
クローラが自己紹介をしてくれて好きなように呼べとも言ってくれた。とても違和感があると言うかちょっと拍子抜けと言うか。もっとこう私に近づくなみたいなことを言われるくらい予想していたが。接しやすそうだな。有り難いのだけれどイメージと違うと違和感を抱いてしまうのはしょうがないともいえるよね?そのうち慣れるだろうけど。
「それではクローラさんと呼ばせていただきます」
「ああ」
本当は様と呼んだ方がいいのかもしれないとも思ったが俺としてはクローラとは全くもって関係ないし初対面だから「さん」にしておいた。それにクローラはドランの下部らしいからそのうち正体を明かすつもりだ。けど正体を明かすにしても証拠が必要となる。単にドランだと言ってもブチ切れエンドしか見えない。主の名をかたるな人間めで首刎ねか直前で止める。うん、容易に想像できるね。
クローラは腰に刀?と扇子のようなものを携えている。日本刀のようにも見えるが日本刀も太刀も刀も違いがようわからん。あの刀で俺の首をはねるんだよな。いやもしくは天狗らしく一緒に携えている扇子を使ってはねるのか?どのみち俺の命ない。
しかしそれを携えていると言う事はやはりここでは戦闘が起きると言う事か?それともいつ戦闘が起きてもいいようにしているだけか?平和なら後者でいいのだけれど今の俺はどっちかと言えば前者の方が望ましい。こんなことを言ったら村の人たちから怒られるから言わないけど。
「ところで、まだ聞きたいことがあるのですが」
「ああ、なんだね」
クローラが帰宅したため俺の質問コーナーが一旦中止になったがこのままにしておくと忘れそうなのでさらっと話を戻すことにした。
質問とはもちろん畑、野菜の事についてだ。村長やクローラもいるんだ野菜がどうしてあんなになってしまったのかとか今の畑の事についてどう思っているのか。まぁクローラにはあまり期待してない。クローラも新参者と言えば新参者だから。
さっき俺はこの集会場に来る前に畑を焼いているところを見た。つまり焼き畑農業。これ自体が絶対悪と言うわけではないがこの方法の意図を分かっているのだろうか?この方法はこの森が近い村でやるにはとてもリスクが高いと言う事を分かっているのだろうか?
の前に。
「玉葱はオークたちが森で作っていると聞いたがいつから?」
「うーんと、確か去年頼んで出来上がったのは今年かな」
オークよく玉葱栽培できたな。森の土を一から開墾したのだろうか?畑なんてものは自然にありはしない。あったらそこは誰かの土地だ。森の土は確かに栄養たっぷりだろうねこの村に比べたら。だけど土を掘り起こしたりだとかやらねばないけない筈だけど。実はちょっと穴掘ってそこに植えただけかもしれない。後は天の恵みに任せる。なんてど根性玉葱なんだいろんな意味で。
玉葱の栽培が実は最近だったのを知れたので本題に入ろうか。
「さっきここに来る前に畑を焼いているのを見ました。あれはなぜですか?」
「土の上には自然と草が生えてくるだろう?そして作物を育てれば根が張る。次の作物を育てるのにその根や草が邪魔なんだ。だからそれを燃やしている。」
「それだけ……ですか」
「ああ、そうだが?」
村長だけでなくソフィアちゃんやルイさんクローラまでも何でそんなことを聞くのかとでも言いたそうな顔をしている。なんでそんな不思議そうな顔をそっちがするんですか。むしろこっちがしたい顔ですよ!?
「焼いた後はもちろん畑を休ませているんですよね?」
「畑を休ませる?何だそれは?」
絶句。俺は村長のその言葉を聞いて絶句した。可能性を捨てたくなかった。畑を焼く、そこまでは絶対悪ではない。森に囲まれているここではリスクが高いがこれまでも燃えてないならこれからも注意すればいい。俺が一番期待していたのはちゃんと畑を休ませているのかどうか。だが俺は村長の言葉で裏切られる形となった。
だがまだだ。まだ慌てるな。確かに休ませると言うと何も植えないみたいに聞こえるが、草生栽培と言って、有名なのがクローバーやレンゲなどを生やして地力を維持したりする方法もある。これは主に果樹園などがやる方法だが。
牛がいるか知らないけれど牛糞を撒いたりだとか落ち葉など兎に角有機物を畑に入れ放置とかある。放置が嫌ならさっきも言った通りクローバーでも食べ物がいいなら大豆でも植えればいい。これは俺の聞き方が悪かったと認めよう。よし、今度はちゃんとそこら辺を踏まえて聞こう。
「あーそうですね。動物のフンを撒いて何も植えない期間を設けるとか、大豆を植えるとかですかね」
「畑にふんを撒くだと?ふざけてるのか貴様」
「いえ!ふざけてなんておりませんよ!」
「大豆か、ここら辺ではなかなか手に入らんな」
「そうっすか。あとフンじゃなくても落ち葉とかでもいいんです」
フンを撒くと提案?したらクローラに怒られた。まぁこの世界ではその認識でしかないんだよね。汚いものを畑にまくなんて何考えてるんだって。落ち葉と言ったらなんとなく理解してやらんでもないみたいな顔をしていた。
それにしても大豆がここらへんで手に入らないか。別に大豆だけがってわけでもないけれど大豆って豆乳の材料になったりいろりろ料理の幅が広がると思うからいいと思ったんだけどな。ま、豆乳作るのにまた一苦労あるけど!
「ああーえっと。じゃあ同じ作物を同じ畑で連続で育ててたりとかしてませんよね?」
「それの何が悪いのですか?」
ブチッ。
何かが切れる音がしたきがする。俺はこんなに沸点が低かっただろうか?
俺が連作していないかどうか聞いたら、ルイさんが本当に悪気もなくただただ純粋に疑問に思ったのだろう。何が悪いのですかと聞いてきた。ほほーんつまり連作してやがるとそう言う訳ですかそうですか。
「農業舐めてんのか!」
「「「「!?」」」」
思わず大きな声を出してしまった。四人ともいきなり大きな声を出した俺にびっくりしてしまっている。だが今の俺に関係ない。
「そもそも畑を焼く農業を焼畑農業って言って!大まかに言えば、今ある土地の現存する植物を焼いて灰にして畑にまいて何も植えずに長い期間放置するの!畑焼いて放置して休ませずに作物育てるなんて阿呆のすること!それに森の近くでやるってことは森に火が移る可能性がある!森林火災は一気に広がって気付いたときに森が無くなっててもおかしくないんだぞ!確かに雑草等の予防にはなるがすべての草が悪いわけじゃないんだ。作物を育てるってことは土を傷つけること、なのに焼いてさらに傷つけてそこに追い打ちでまた傷つけるとか土死んでも文句言えない。
同じ作物を同じ畑で連続で作るとかありえないから。連作障害がおきて野菜が育たなくなるし病気にもなりやすくなるんだよ。同じ野菜を育てるってことはその野菜の天敵の害虫が寄り付きやすくなる。そこにあるってわかってるか。さらに言えば土壌病害って言ってウイルス等が土で増加して作物が侵され病気になった野菜ができてしまう。土壌病害が連作障害の中でも一番対処が困難でその土地が使えなくなることだってあるんだ。
お前らの事だどうせ天地返しとかもやったことないだろ。さっきの反応でなんとなくわかるがどうせ土に栄養を加えてあげたりもしてないだろ。言ってみろ」
「や、やってません」
「だろうね知ってたよ。てか、そもそもで天地返しとか分かるか?分かってんのか?」
「初めて聞きました」
「だろうね!天地返しとかは後でやりながら教えるが今はそんなのどうでもいい。今まで野菜がなってた事に驚きだよ。よく実がなってたな。連作しまくってたら実がならなくなってもおかしくないのによく実がなってたな。野菜がすげーよ。むしろスカスカだとか文句言ってんじゃねーよ感謝しろよ、こんな状態で育てているのに実を付けてくれてありがとうって感謝が必要だよ。」
まだまだ言いたい事はたくさんある。だが俺は切れると同じことを永遠と怒りが収まるまでリピートしてしまう為自重した。まだ自重できる範囲ではある。自分の命が今すぐになくなるようなものじゃないから。でも怒れるのは本当。今も若干同じことを2回言った気がする。しかもちょっとだけ変えて話を盛って言ってたきがする。
しょうがないだろう?こんな状態で野菜が育たないなんでかな何て言っているんだ。何でかなじゃないんだよ。全部が影響してるんだよ。
冷静に考えればこの村に・・・・・・この世界にそんな知識があるのだろうか?魔法で全てなんとかなるような世界なんじゃないだろうか。だとすれば何故そうしなかったのか。その魔法を使えるものがいなかったのかそもそもそんな魔法は無いのか。
だったらこの世界の農業は一体どうやってきているのだろうか?街のほうに行けばちゃんとした学校があって1から教えてくれるのだろうか。
そもそも農業を学校で教えるものとされているのだろうか?既にやっている人から教えてもらって技術を盗むものと考えられているんじゃなかろうか。
この村には農業を盗んだやつがいないのか?違う。そうだ、この村はドランのやつがぽっと出で人を適当に集めて出来た村だ。
もしその村に農業をやっていた者や知識を持っているものが偶然一人もいなかったとしたら?
「いきなり怒鳴ったりしてごめんなさい」
「い、いや」
「最後に一つだけ・・・・・・この村に農業のちゃんとした知識を持っている人は?」
「・・・・・・いません。この村はドランノヴァ様によって作られた村。最初の住人の中に農業をやっているものが誰一人とおらず皆悪戦苦闘していたそうです」
「なぜ聞きに言ったりしようと思わなかったんですかね」
「それはこの村が街からかけ離れているのと集まった住人は街の人間から疎まれていた者たちでしたので」
結構重要なキーワード頂ました。もっとはじめに言って欲しかった。具体的には昔話を始めた時の人だけが集められたって部分で言って欲しかった。そうしたら俺もまぁしかないかと諦めもついてここまで怒らなかったかもしれない。ただの可能性なので絶対とはいえないが。
にしてもとんでもない奴らばかりを集めやがってドランめ。クソ野郎だな。もうちょっと後先の事を考えろよまったく。何も考えてないから今の俺がこんなにも頭痛い案件を抱えることになるんだろうが。
いったところで既に遅いんだけど言わずにいられないですよまったく。本当に俺の作ったキャラなのか?どっかの誰かがそっくりに作ったんじゃないの?
街から疎まれていた者たちか。何故そんなところはしっかりと伝えられてるんですかね。普通そこは見栄を張って自ら捨ててやったとでも言えばいいものを。
「話変わるけど、リザードマンやオークって寿命長い?」
「人間より多少長いが我ら天狗からしたら短命だ」
人間よりは長いか。分かるかよそんなので。この世界の人間の平均寿命っていったい何歳なんですか?短そうなんだけど。
参考にならんな。普通に生活してるだけなら別にいいけどここでは戦争がいつ起きるかわからない。なんせモンスターもいれば魔法だって使える世界なんだ。そのモンスターの一人である俺がここにいるんだ間違いない。
「そっかー」
「なんだ?何か用でもあるのか」
人間の言い伝えだと話もってる可能性があるので確認したいですとはこのメンツの前では言えない。ソフィアちゃんたちが居なくてクローラだけならまだいいが。
「まぁそんなところです」
「オークの方は既に皆死んでしまっているがリザードマンならもしかしたら生きているかもしれん」
「本当に?」
「もしかしたらの話だがな」
「それでも可能性があるなら十分です」
可能性が0じゃなきゃいいんですよ。最終的にその時代に生きていた奴が居なくともオークやリザードマンの方に伝わっているであろう話を人間の方と比較するだけだ。
2つとも全然違ったらどうしよう。それこそ本当の事を言っているのは人間で他の2つは嘘をついている。リザードマンとオークを足して割ったのがあっているとか意味の分からないことになりそうで怖いです。
昔話はいったん置いとくとしよう。今は畑だ。
「畑に関する何か魔法とかないんですか」
「あったら既に使っている」
「知ってた、さっきこの会話した気がする」
正論だな。さっきからハロゲンさんもルイさんも黙りこくっちゃってる。不甲斐なさを悔やんでいるかのようにも見えるが俺のせいだろうか。だがここは心を鬼にしよう。いや竜にしよう。
「兎に角畑の状態を見てみますか」
俺は言いながら畑へと向かって歩いて行った。集会場から出ると幾人かの人が集まっていた。俺が大きな声で怒鳴ってたのが聞こえたのだろう。恥ずかしいけどしかない事だ。村人たちの視線を無視して一番近くの畑へと足を運んだ。
後にクローラにエミール一家がついてきていた。他の村人たちは最初からそこにいたのでついてきたとは言えないだろう。
畑から土を少し手ですくって人差し指と親指で土の塊を崩してみたりした。土は何の抵抗もなく潰された。これは今の俺が力が制御できていないからなのだろうかそれとも既にこの土は再起不能なのだろうか。はたまたその二つだろうか。一番の原因は間違いなく最後のだろうな。人間の姿かたちをしているとしても元はドラゴンなのだ力の感覚が違うのだろう。そんな状態で死んでいる土を触ればそりゃこうなるよな。
「よく野菜育ってたよこんな状態で」
思わずこぼしてしまった。人間心の底から呆れたりすると口に出してしまう気がする。少なくとも俺は今までそうだった。そのせいでよくケンカになったりしたのだがここでもそれは発揮されたらしい。幾人の村人が眉間にしわを寄せて俺を怒鳴ろうとしていた。だがそれをソフィアちゃんが止めた。
「……土は、野菜は回復できるの?」
ソフィアちゃんが悲しそうにそれでいて俺に期待している目で見てきていた。悲しい顔をしているってことは既に気付いているのだろう。この土がもうどうにもならないことを。俺のあの呟きで察してしまったのだろう。
俺が答えないでいる間にもソフィアちゃんの目には少しずつ涙がたまっていった。俺がちょっとでも期待させたからだろうか。だが可能性は0か100でしかないんだ。できるかできないたったそれだけのシンプルで分かりやすいもの。故に期待が大きければ大きいほど期待が外れた時のショックは大きい。
が、俺からしたらただの自業自得だと思ってしまう。今まで畑にとって土にとって野菜にとって過酷な環境で育ててきたのだ。ブラックすぎたのだ。
「無理d……」
言いかけて止めた。止められたのではない自分の意志で止めたのだ。殆ど言ってしまったようなものだが。
頭の中に色んな情報が一気に流れ込んできたような感覚に陥った。頭が痛くなりフラフラもする。全く知らない情報を1からマスターするまでの情報を一瞬で流し込まれた。
学校のテスト全教科の内容を30分で一気に頭に押し困れた感覚。いや実際にそんな事できないししなった事ないけど。
訳が分からない理解できない。でも理解できている。理解できている事が理解できていない。考えれば考えるほど答えが遠のき混乱するだけの状態が今。
だが今は混乱している場合じゃない。これはもしかすると。
「く、クリーン」
クリーン、一応浄化魔法のうちに入っているが実際に取得するやつはまずいない。書いて字のごとくただ綺麗にするだけの魔法。確か効果の欄には綺麗にするとしか書かれてなかったと思う。何回か開催された必要ないネタに使用しても1回しか盛り上がらない魔法・スキルランクで堂々の1位を獲っていたあの。
その魔法を実際に畑に向かって使ってみたところ何ということでしょう。先ほどまで植えている作物のほかに若干、石や草が混じっていた畑は、石や草が綺麗さっぱり無くなっているではありませんか!
「ハーベスト」
次に豊穣を意味するであろうハーベストを使用した。であろうなのは俺が英語が大の苦手だからである。
本当にだめ。他の教科が3とか4とか得意なのは5も取れたが英語だけは1か2だ基本2だ。1は獲らない程度にしか頑張っていた。それ以上してやる気もおきないほど。
さてさて俺の英語への苦手意識はどうでもよく。ハーベストを使うと何ということでしょう!(2回目)植えたてだろうか幾分か過ぎたのだろうか分からないがまだ全然背も高くなく実なんてつくはずも無い苗は大きく育ち元気にとてもおいしそうな実をなしているではありませんか!
このたった2つの魔法で俺はすっかり呆けていた。だってもう死んでいた土に雑草とか石が混じっていた畑に魔法を2つかけただけで土はよみがえるし雑草と石はどっか消えるし植物はいきなり成長して元気に実をなしてるし。
そもそも死んだ土によく雑草生えれてるな。植物も育ってたしやはりそこら辺がちょこっとづつ元の世界と違うのだろうか。
ちなみに呆けていたのは俺だけでなくソフィアちゃんを始めこの村に住む村人とクーローラも口をあけて呆けていた。
静寂が村を包んでいた。決して喧嘩して大きな声を出して皆が何?ってなってシーンとした訳ではない。何言ってんだ。
今見ているものが本当に現実なのか夢ではないのかを確認している者や考えるのを諦めた者、そもそも何も考えていない者がいた。そんな静寂を破くように俺は一言こうつぶやいた。
「何とかなったわ」
気づいたんです。別に一話の文字数とか気にしなくていいんじゃないかと。
4000でも5000でもとにかく読みやすくかつ楽しく読めて投稿できればいいんじゃないかと。