プロローグ
さてどの位続けられるんでしょうね!
Massively Multiplayer Online Role Playing Game(多人数同時参加型オンラインロールプレインゲーム)略してMMORPG。
そんなMMORPGで人気を誇っていたゲーム【ドラゴンノヴァ】。
タイトルの理由は「なんかカッコよかったから」というのは製作者の言葉だ。プレイヤー達のえ?そんな理由で?となったのは今でも思い出せる。
ドラゴンノヴァは基本プレイ無料で自分で操作するプレイキャラクターの自由さには皆驚いた。なんせゲームの中に登場するキャラすべてを作ることができる。
木や空気など自然の物にこそなれないが(なれてもやることもないが)ゴブリンだろうが村人だろうが生物なら何にでもなれる。タイトルにある通りドラゴンにもなれる。
さてそんなことを言っても結局のところどのくらいのキャラが居るのだろうか。正直なところ細かな数はよくわかっていない。
ただ100種類以上はいると運営の公式発表があった。その時点で全キャラコンプと言ったことはできな。なんで作成可能キャラの最大は10なのだから。
正直10キャラも作ることは無いだろうが。さらにすべての生物に性別もある。スライムなど無性とも思える者にも性別がある。
この時点ですでに単純で2倍になる。そしてその中から自分のなりたいキャラを選び性別を選んでからが本番である。
キャラクター設定。名前はもちろんだがこのゲームの凄いのは骨格、髪の毛の一本一本の色、血の色などそこまで選ぶ必要があるかと思うほど細かく設定できる。
大抵の者は血の色とか髪の毛は一気に色を付けたりするが完全にオリジナルを作ると豪語していた友人は本当に全部いじっていた。
しかも入れ墨なども既にあるものだけでなく自分で作ってそれをつけることもできる。
ここまでやれるものが基本プレイ無料とは頭どうにかなってるんじゃないかと思えるほどだった。
そんなゲームで俺、田端 京谷はドラゴンを選んでいた。
ドラゴンは強キャラとして皆に知られている。ただしペナルティーというかハンデというか。制限がかかっている。
・消費アイテムの使用禁止
・街に立ち入り禁止 ※人化(非戦闘)の場合は除く
・対戦の場合竜の体か人化かを相手に選ばせる。
もっといっぱいあるのだが上げているとキリがないし正直おぼえていられない。この3つは最初はこれを覚えておけばいい物だ。やりこむにつれてもっと覚えないといけないけれど。
だがそんな制限があるがドラゴンは人気である。セカンドキャラとして。そう決してファーストキャラではないのだ。
先も述べた通りドラゴンはアイテムを使うことが禁止されているため人化して街に入っても買い物をする楽しみがない。友達とリアルで約束して集合場所に行くぐらいの事しか街に入るメリットがない。
じゃあなぜそんなドラゴンを選んだのか。かっこいいからに決まってんだろ?
それ以外に何か理由がいるか?いーやいらないね。自分が操作をしていて楽しいと思えるものを使うのがいいんだよ。
ま、本当はギルドに加入したりPVPをしたりするのが嫌いだからなんだけどね。え?それじゃネトゲやってる意味がない?
しょうがないだろ?遊びたいと思ったゲームがネトゲだったのだから。けど人間だったとしてもギルドに入らなくてもやっていけるんだけどね。
ソシャゲのチュートリアルで強制的にギルドに加入させられるのがったがその時点で切った。そもそもカード形式でやること自体面白味を感じない俺がちょっとやってみようと思ったらこれだ。全部が全部そうじゃないけれどどうしても思ってしまう。
チュートリアルでギルドとかに入らなきゃ進まないやつなんじゃないかと。
ギルドに入るのが嫌な理由は簡単なもの。ただ単に他の人に合わせたくない。てか気を使いたくない。
なんでゲームでも他人を気遣いながらやらなきゃいけないんだ。コミュニケーションをとらないといけないんだ。面倒くさいったらありゃあしない。
その点ドラゴンはギルドなんてめんどくさいものはない。
ネトゲの楽しさを半分捨ててるもんだろと数少ない友人は言っていたがそんな事は無い。むしろそんなものでゲームの半分も楽しさが減るはずはない。むしろあるから減ると思っているほどだ。
さて、思い出に浸るのはこれぐらいにしよう。なんせ今日はこのドラゴンノヴァのサービス終了日なのだから。
「それにしてもこのドラゴンを見るのも最後か」
キャラ作成時から世話になっている俺の分身体とも呼べるキャラ。ドランノヴァ。名前は付けるときに相当悩んだ末にタイトルをリスペクトしようと思いこの名前になった。
結構気に入ってはいるが呼びにくいとも思っている。
「最後だドランノヴァ。今日はこのゲームを見て回ろうな」
自分のキャラに語りかけるという周りから見れば完全に不審者である。が、ここは自分の部屋でかつ一人暮らしだ。誰にも見られる事は無い。見られているとすればそれは……とても怖い状況だといえよう。
ドランノヴァの隣にいるのはドランノヴァが作ったという設定のパートナー。街に出ている依頼をけ受ける事はできないがクエスト自体はある。依頼とクエストは別物だ。
クエストはゲームにもともとあるもので依頼はプレイヤーが出すものだ。つまり依頼とは他のプレイヤーの手助けだ。糞くらえ。
さて、クエストにて作ったパートナー。名前はウィルゴール。種族は堕天使で職業はメイドだ。ちなみに性別は女。
堕天使と言われているだけあって白いはずの服も背中から生えている羽も黒色になっている。まぁ俺がそう作ったんだけどね。
このゲームはパートナーですら事細かく作成可能なのだ。
完全に俺の好みで作ったのだがなかなかいい出来だ。顔は可愛くも見れるし美人にも見えるように時間をかけて作ったのだ。すごく楽しかったのを覚えている。頭には天使の輪が彼女が元天使である証拠だ。
目の色は碧く髪の色は銀色にしてある。ちなみに髪の色や目の色は課金アイテムを使えば変更可能だ。
背は165㎝と大きくも小さくもないいい感じの慎重にしておいた。そのため胸の方もC位にとどめておいた。もっと大きくてもよかったけど大きすぎると逆に気持ち悪いよね。
腰辺りはくびれがある位に設定しようとしたがなんか気に入らなくて、太くなくかつあまりくびれが主張しすぎないくらいにした。
見る人によっては太ってると言われそうだが断じて否だ。だってくびれ一応あるもの。無いとは言ってない。
太ももは細ければいいと言うものではない。そう、決して細ければ良い訳では無いのだ。もし太ももは細ければ細い方がいいと言いやがる太もも好きが居ればそいつは偽物だ殺せ。
真の太ももというのはオーバーニーソックス(膝が隠れる丈の長いソックス)を履いたときに太もものお肉がちょびっと乗る位がいいのだ。決して太くはないのだがだがソックスからはみ出てしまうあの感じがいいのだ!!!
ちょっと熱くなってしまったようだ。
服とかも自分で作れるのだが俺に絵心がないので既にあるもので選んだ。基本は黒を基調としたパッと見ドただのメイド服のように見えるが、ロングスカートの先端には鉄のプレートが付いておりベルトには細剣が付けれるようになっている。さらに手袋は肘まで隠れるくらい長いものがつけられていてその手袋は驚くことに鉄を基本として作っている。設定上関節の部分など曲げるところには所々繋ぎの素材が使われているが実際にはよく見えない。全部鉄でできているように見える。
さてさてウィルゴールを堕天使からは想像できないメイドという職業にしたのには特に理由はない。理由というかただの願望で作った。
ドラゴンを使うと言う事で天使を使役するのも何か違うと思い堕天使にした。そしてメイドは……ただ奉仕してもらうって考えるとなんか興奮するよねってこと。
願望だからしょうがない。
そんなウィルゴールと共にドランノヴァの世界を見て回っているとこのゲームが終わるのがドランノヴァと別れるのがウィルゴールと別れるのがとても寂しくなってしまう。
(願わくば夢でもいいからドランノヴァになってまだ冒険をしたいな)
そんなありもしない事を考えていると個人メッセージが届いてきた。内容は……。
「最後ですし対戦しませんか、か」
当初はこの世界をただ見て回るだけと思っていたが。
「やっぱり最後だし戦って終わるか」
そう思い俺はokを出した。
◎
場所は俺が作ったダンジョン【竜の住処】だ。このゲームはプレイヤーがダンジョンを作ることも可能で俺はそのダンジョンを自分の住処ともしている。故に竜の住処。
そしてその竜の住処の広い闘技場はPVPように作られた階層だ。俺と対戦相手は今そこにいる。
「こんにちは、ドランノヴァです」
「こんにちは、メルルです」
メルルさん。俺に対戦をも仕込んできた相手だ。その身を頭からすっぽりとマントに隠している。盗賊かとも思える格好だ。
「それでメルルさん。私はどの恰好で戦えばいいですか?」
「HPの前半半分は竜の姿で後半半分は人化でお願いしたいのですが」
「わかりました。ラスボス戦の反対みたいな感じですねw」
「はい、その通りです(笑)」
そんなやり取りをする。これはさっきも思い出していた通りドラゴンは相手にどの形態で戦ってほしいかを聞かなければいけない。
正直ドラゴンの形態だと当たり範囲が広すぎて結構削られるんだよね。人化をするとステータスが若干上がるし当たり範囲も大分縮小される。
(ラスボスには持って来いだな。ただ人化→竜がよくある感じだけど)
そんな事を考えてから。
「それじゃあ始めますか?」
「はい。お願いします」
◎
結果から言おう。俺は敗北した。
戦闘開始直後相手は身体強化の魔法をかけていた。そのすきに俺はドラゴンブレス(火)で範囲攻撃をし逃げられないように着実にダメージを与える。だがあのマントには耐性があったのかあまりダメージは与えられなかった。しかもすぐに回復されてしまった。
火に耐性があったのかそれとも遠距離攻撃に耐性があったのかはたまたブレス系にあったのか。今の行動一つでいろんな可能性ができてきた。耐性ではなく防御が高いのか。
それを調べるには一つずつ実験してみるしかない。まずは火に耐性があるのかを調べる。今度は違う属性のドラゴンブレスを使うことにした。使用したのは雷だ。与えたダメージは先ほどより多いが乱数による誤差程度の物。つまり火に耐性があるわけではない。
次にブレスだ。ブレスは遠距離であるのと同時にブレスとして一つの耐性が作られている。つまりブレスト遠距離の耐性をつけられるとブレスの威力は激減してしまう。だからこそ遠距離とブレスは別で調べなくてはいけない。
魔法は大体遠距離に設定されているので適当に魔法を撃ってみることにした。試しに下位魔法:ファイヤーボール。これはダメージ以前に簡単に避けられてしまった。ならば中位魔法:追跡弾。これは相手を自動で追いかけて何かに当たるまで追跡し続ける厄介な奴だ。
メルルはただの魔法弾と勘違いし普通に避けてしまい命中した。ダメージ量はすくない。つまりブレスに耐性がない可能性がある。
次に遠距離だ。遠距離がだめなら近距離でねっと。近距離の場合魔法等発動しなくても相手プレイヤーをクリックしておけば普通に攻撃してくれる。
ダメージは普通。まぁさっきの追跡弾の時にわかっていたことだが相手は遠距離に対して耐性を持っているようだ。
そこまで分かれば遠距離を使わずに戦うのみ。そう決断した時には遅かった。
先ほどまでは最初に身体強化をかけた後HPを回復しつつ攻撃を避け隙あらば攻撃をしてくるという王道パターンをしていたメルルだったが急に行動パターンを変えてきた。
俺が攻撃したのに合わせてパリィをして怯ませ、そのうちに攻撃をしてくる。そして俺が回復魔法をかける前に魔法を封じてくる。そして魔法を放てるようになれば発動後の硬直を狙ってくる。そしてまた魔法を封じる。
驚いた。普通の人なら身体強化の後か先に魔法を封じてから攻撃に転じるはずなんだ。だから俺は魔法を封じることができないと思い込んでいたが。まさか回復魔法をかけるまで見せなかっただけとは。初めてお目にかかる戦法だ。
みるみるうちに俺のHPは削られていきついに半分を下回った。そこでメルルの攻撃は止まる。約束通り俺はドラゴンの固有スキル人化を発動。
ここからまだ巻き返せる。なんせ当たり範囲が極端に減り人化したことにより各種ステータスが強化される。
だが俺が想定していたことは起きなかった。それはもう一方的なもの。戦いなんていうものじゃない一方的な暴力だ。
こちらの攻撃はすべてが見破られているかのように避けられ行動不可の魔法までかけられる。職業は盗賊とみてまず間違いないが今更わかっても意味は無いだろう。
PVPゆえにウィルゴールは使えないし(画面上に表示もされていない)時間停止の魔法もあるが暗黙の了解でPVP中は使用禁止になっている。昔これで炎上した奴がいたんだよね。
そんな中でも俺は必死に抵抗し何とかダメージを与えようとしたが駄目だった。
遂にあと一撃で俺のHPが尽きるときメルルの攻撃が止まった。不思議に思ったが止まったのではなく攻撃の準備だった。
俺はまた驚愕させられた。メルルが使おうとしているのは種族:神の固有魔法:断罪の剣。つまりメルルの種族は神。顔が見えないが恰好からして人間だと思い込んでいたが。やれやれ一本どころか大量にとられてしまった。
断罪の剣の能力はメルルにとって敵とみなされているものに対し壮絶なダメージを与える。並大抵のものでは一発koだろう。種族が人間であった場合最高レベルでかつどれほど身体能力を積んでいようとも一発アウトだ。そんな強力な技だからこそ条件が厳しい。一回使ったら次に使えるのが1か月後だ。そして発動までに時間がかる。おおよそ10分。そしてキャラがぶつかるだけで発動がキャンセルされる。
今の俺は移動不可の魔法も切れており反撃するなら今なのだが。どう考えても勝てない。回復魔法で体力を回復して反撃してもいいが結局さっきと同じ目にあわされるだろう。
だからこそ俺はその魔法が発動されるまでの10分間待つことにした。
そして10分後断罪の剣は発動し光の剣がドランノヴァの心臓に刺さりドランノヴァは敗北した。
途中から一方的に殴られていたにもかかわらず俺は怒りなんてものは湧いてこなかった。素直に驚愕しそして感謝していた。倒されたのに感謝していた。
自分でもわからないがなぜか倒されたことですっきりとした気持ちになっている。だからこそ俺はメルルに対し。
「ありがとう」
個人メッセージを送った。そしてメルルからは。
「ごめんなさい」
何故か謝られた。PVPは終わりを告げてメルルとは別れることになった。メルルとのPVPのおかげででサーバーが落ちるまで残りわずかとなっていた。
俺は竜の住処の俺とウィルゴールにしか入れないプライベート空間で最後の時を待つ。そしてその時は訪れた。
◎
「楽しかったなぁ」
ドラゴンノヴァのサービスが終了し小腹がすいたのでコンビニにちょっと食べ物と飲み物を買いに行った帰り先の戦いを思い出していた。
「あのメルルとかいうプレイヤー。なかなか手練れだったな」
もっと前に会いたかったと初めて思える相手だった。そんなメルルの事を思い出していると前からマントで頭もすっぽりと隠している人物が歩いているのが見えた。
「メルルさん?」
ありもしないがあまりにも似ていたためそんなことをボソッと言ってしまった。
「そんな訳ないか」
それを頭を振りすぐに否定して帰ろうとしたときいつの間にかそのフードの人物はすぐ目の前に来ており同時に胸のあたりに激しい痛みと熱を感じた。
口の中が鉄の味がして気持ち悪くなり吐き出すとそこには赤い液体……つまり血を吐いた。瞬間に理解した今このフードに自分は刺されたのだとそして意識が朦朧として今にも切れかかっているとき。
「ごめんなさい」
と謝っている声が聞こえた気がした。(だったら刺すんじゃねーよアホンダラ)と思ったところで意識が途切れた。