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魔王No.0 アンノウン  作者: おとエセ
序章
9/23

A-9

 おとエセです。


 お手柔らかに、宜しくお願いします。



 アトラスが使う盾は鉄製で、指先から肩までが直径の円形で、ドーム状の膨らみを持つ。

 またアトラスは、ベルトで腕を固定されることを大いに嫌い、中心部に持ち手がある初心者向けの造りをしていた。



 『おいおい、アイツ勇者メンバーの癖に、ショッボい鉄盾なんか使ってさ!!』


 ルーネリアとアトラスがパーティーを組始めた当初、こんな皮肉めいた声がちらほらと、所々で上がってはいたものの……


 馬鹿にするなかれ。


 鉱山から取れる鉄とは違い、背面に鱗状の鉄板を持つ、体長が三メートルからなる巨大アルマジロ『アイアングリプト』。

 その、良質な鱗甲獣の硬い甲羅から造られる盾を、アトラスは愛用しているのだ。


 一般の鉄盾をランクで表すのなら、最低評価のE~D。

 だが、アイアングリプト素材の鉄盾のランクはA。

 硬さ、軽さ、性能、質をと、どれをとっても高評価である。


 鉄は鉄でも、質に雲泥の差があったのだ。


◆◇◆


「……小癪な!!」


 魔人の拳を防いでは剣を振り下ろし、蹴りを防いでは突くといった、盾を主体とした戦闘スタイルをアトラスは取り続けていた。

 だが、先ほどのアモウとの闘いに比べれば、魔人にとってアトラスの闘い方は小賢しく、物足りなさを感じた魔人は大きく口を開くと、


「カチン!!」

「ぐあっ!?」


 アイアングリプトの鉄盾を、魔人は容赦なく食いちぎった。

 

 更に、魔人の口の開閉は続き、肉を食い漁る獣の群れの様に、アイアングリプトの盾を次々と襲いかかっては、元の大きさからバックラーほどの小ささまで食いちぎっていった。


「ぐっ!? ……こ、これを食うか!?」


 左手が痺れている。

 魔人の猛攻による全ての衝撃が、盾を通してグリップを持つ左手に伝わっていたのだ。


 また、アトラスは小さくなった盾を見るや、ぞっと寒気に襲われては、全身に伝う汗が冷えるのを感じた。


「……最悪だな」


 更に、左手首を痛めるという最悪な結果。

 不利な状況に、アトラスは顔をしかめるしかない。


「ちっ!! どうす──」

「つまらぬな」

「るよ……は!? つまらぬ!?」

「そう、お主は盾に隠れる臆病者よ。それでも本当に剣士と呼べるのか?」

「……あのな!! 何で盾が存在するか知ってるか!?」

「我は弱者ではないゆえ、分かるはずもなかろう!?」

「お前!! 片手剣の基本は──」

「御託はよい」

「っ!?」


 魔人は右腕を高らかに上げ、魔力を練り始めた。

 無だった魔力はやがて性質を変え、バチバチと放電し始めた。


「か、雷!?」


 火、水、土、風の四属性をメインに、技と名付けられた無属性。

 それ以外は、オリジナルかレアと呼ばれる属性。

 雷属性はゼロではないにしろ、使用者が少ないことからレア属性であった。


 魔力が引き起こす磁気により、アトラスの持つ剣と盾が反応し、魔人の魔力に強く引っ張られる。


「ぐっ!? 奪うつもりか!?」

「お主は……もはや、つまらぬ男よ」


 やがて、バラバラに放たれていた電は収まり、魔人の手を魔力が丸く包み込む。

 やがて、魔力は魔人の手から後方の大地へと、ジグザグな線を描き伸びていった。


「なっ!?」


 アトラスが目にしたのは、魔人の後方で浮き上がる黒い何か。

 更に、魔人が引っ張る動作を見せると、浮いていた物が回りだし魔人へと引き寄せられていく。

 それを魔人が手に収めたことで、飛んできた物の全貌が明らかになった。


 魔人の身長ほどの大きさに、四本の歯を持ち、黒く光るそれは、


「フォーク!?」


 そう、農作物に使用するピッチフォークであった。


 アトラスに疑問が残るまま、魔人が先に動く。

 だが、魔人が下から斜め上にフォークを振り切ろうとする動作は、無手の動きと比べ余りにも遅かった。


 だから、アトラスは思わず釣られてしまう。


 魔人のフォークの動きに合わせ、アトラスも盾を動かす。

 そして、魔人の攻めの力と、アトラスの守る力がぶつかった瞬間、せめぎ合いの場を設けることなく、軍配はあっさりと魔人の方に上がった。


「ぐっ!!」


 力比べで勝った魔人のフォークが、アトラスの盾を難なく潰し始める。

 衝撃でアトラスの指を全て砕き、取っ手の鉄まで潰し指を絡める。

 そして、勢いは止まらず、絡めた指をちぎり出すと、盾もろとも上空へ吹き飛ばした。


「ぐぁああああっ!!」


 指を失った痛みが、徐々にアトラスに迫ってくる。


「お主も終いか?」

「…ば…す…よ」

「ん?」

「俺たちを馬鹿にするなああああ!!」


 アトラスが短剣で横に一線、縦に一線と続けて斬る。


「ぐっ!?」


 渾身のアトラスの斬撃は波を生み、走り出した波は、魔人の体の通り抜け際に傷を深く残していった。

 至近距離から放たれた斬撃波に、腹は十字に裂かれ、傷口から鮮血が吹き出し、魔人がよろけ始める。


「ぐふっ!!」


 フォークを地に刺し、体を支えようと踏ん張るも、耐えきれなかった魔人は吐血をしながら崩れ、片膝を地に着き項垂れた。


「っ!? お、お前は!!」


 アトラスが、魔人に短剣を突きつける。


「何者なんだ!?」


 見下ろすアトラスからは、魔人の腹が少しずつ修復されていく様子がハッキリと映る。

 アモウの攻撃を食らい、自分の攻撃をもろに受けても、目の前の魔人は一向に死んでくれない。


「お前は!! お前は!!」


 魔人の存在が、全てを麻痺らせる。

 興奮と焦りが、指の欠損による痛みを消した。


「……脅威だ」


 アトラスが、短剣を顔の正面に掲げ、刃を見つめ魔力を込める。

 短剣の刃に、無から風に性質を形を変えた魔力が覆った。


 アモウは火を得意としたが、アトラスは風を得意とする。


 風属性は、威力と切れ味を増幅させ、質量はそのまま魔力の分だけ、刃の大きさと長さを変化させる。

 風属性は、剣士とは相性が抜群な属性であった。


 緑に色づく短剣を握りしめ、一歩を踏み出す。


 だが、やはり全てが麻痺していた。

 冷静さを欠いたアトラスは視野が狭く、真っ直ぐ、項垂れる魔人の姿がしか映っていない。


 一瞬、アトラスが目を離した隙に魔人が投げたフォークが、半円を描き回転しながら飛んで来ていることに、アトラスは気づくどころか見えてさえいなかったのである。

 誤字・脱字が御座いましたら、指摘のほど宜しくお願い致します。

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