A-8
おとエセです。
お手柔らかに、宜しくお願いします。
5/27 差し述べるを差し伸べるに修正しました。
「見えた……」
メイプルが目蓋を閉じた瞬間、必死に溢れ堪えていた涙が、太い筋を作って流れ落ちた。
アモウが地に膝を着く今の今まで、メイプルは二人の闘いの一つ一つを、くまなく視ていたのだった。
「ぎぎぎっ!!」
メイプルの左側から聞こえる、激しい歯ぎしりの声。
アモウが傷つき、ボロボロになっていく姿に、心を痛めていたのは、決してメイプルだけではない。
悲しむメイプルとは違い、激しい怒りに駆られた心情。
アトラスもまた、直ぐにでも飛び出したい心境を、何度も何度も必死に押え込んでいた。
アモウの技は範囲が広いうえに、威力も大きい。
速さでも群を抜いてる為、アモウとの連携は難しく、無理に行おうとすれば、味方に被害が被る可能性が出てくる。
『アモウが全力で翔る時は邪魔をしない』
これは、昔、メンバー内で決めたこと。
このルールと、二度もアモウに静止させられたことから、皆で補うと謳いながらも、アトラスは動けずにいたのだ。
「……ルー? アト、見た?」
「…………」
「ああ、奴の口と繋がってんだろ!? あの黒泡は一体なんだ!?」
「……たぶん──」
「なっ!! 不味い!! ルー!!」
動かなくなったアモウに、魔人が旋回を始める。
「フルブースト」
メイプルが即座に、ルーネリアとアトラスに術を施した。
「うおおおお!!」
雄叫びをあげることで自身を鼓舞し、アモウを守るべく、技を放とうとする魔人に向かってトラスは駆け出した。
「っ!?」
駆けるアトラスの正面から、蹴り飛ばされたアモウが、勢いよく真横を通りすぎる。
だがアトラスは、振り返ることなく魔人に向かった。
アトラスは、自分の役割を瞬時に判断し、ルーネリアも行ったように、時を稼ぐことに決めたのだ。
アモウの治癒は、ルーネリアに任せれば問題ない。
アトラスは、背負っていた盾を左手に配置し、それを行使しながら前へと駆ける。
「……ほう!?」
「触れなければ問題ない、そうだろ? 次は俺が相手だ!! 魔人!!」
「お主、名は?」
「俺は剣士アトラス・テイナー!!
流派はガーマイン!!
アモウが拳聖を名乗るなら、俺は剣聖でも名乗ろうか!!」
「ふっ、来るがいい!!」
「馬鹿にしたな……後悔するなよ!!」
アトラスは更に勢いを増して、魔人に向かっていった。
◆◇◆
失速したアモウは幸い、メイプルの直ぐ側まで転がって来ていた。
アモウは仰向けになり、ぴくりとも動かない。
最終的にはルーネリアに任せるとして、先ず自分は、アモウの生死の確認。
もし、息があるのなら応急処置をと、 メイプルは一連の流れを頭の中で組み立てながら、
「フルブースト」
自分自身にも術をかけ、急いでアモウの側まで駆け寄ると、耳を胸にあて鼓動の確認をする。
「……よかった」
気を失ってはいるものの、胸は上下し、微弱ながらアモウに息があることに、メイプルは安堵した。
だが、ここまでボロボロになったアモウを診るのは、メイプルにとっても始めての事。
「無理しすぎ……」
メイプルは、また涙が溢れ出て来るのを必死に堪えながら、欠損箇所の止血を施していった。
「メイ……プル? ぶふっ!」
「まだ終わってない!! 喋らないで!!」
暫くして、意識を取り戻し、咳き込み吐血するアモウを制し、メイプルは急ぎ治療を続ける。
「……な、なんとも情けない!! 我の大事な武器を食われようとは……」
「だから!! ……」
手を失った両腕を宙に突き上げ、涙を流すアモウに、メイプルは言葉を失ってしまった。
「……大丈夫。ルーがいる」
「メイプル……」
メイプルの必死に堪えていた涙が、また、太い筋を作り溢れ出す。
「だから」
メイプルは、前方に目を向ける。
「……え!? ルー!?」
「どうした!?」
メイプルの目には、魔人とアトラスの姿しか映らず、アトラスと共闘しているはずのルーネリアの姿が、どこにも見当たらない。
「まさか……」
不安がよぎり、メイプルが後方に目をやると、
「嘘!? ……ルー!? ルー!!」
アトラスの補佐や術の行使など、共闘どころか、ルーネリアは先ほどいた場所から一歩も動いてない。
「メイプル!? ルーネリアがどうかしたのか!?」
「反応がない!! 固まってる!!」
「なっ!? やはりか……」
「そんな!?」
ここまで影響が生じるとは、メイプルにとって予想外であった。
「ぐあっ!!」
「「!?」」
叫び声に反応し、メイプルの顔が反射的に、前方の魔人とアトラスへ向く。
声からして、何かあったのはアトラスの方。
「メイプル!! ルーネリアを起こせい!!」
「……でも!?」
「我は十分よ!! このままではアトラスが危うくなろうぞ!? 早う!! 叩いてでも起こさぬか!! ぶふっ!」
「……分かった!!」
アモウに急かされ、メイプルはルーネリアの前まで急いだ。
「ルー!? ルー!? ねえ、ルー!? ルーネリア!!」
だが、いくら体を揺すっても、ルーネリアはメイプルに反応せず、虚ろな目が魔人の動きを追っているだけ。
まさか、このような状況に陥っていようとは、ルーネリアの『カチン』の発言が、アトラスとメイプルの判断を誤らせた。
「ルー!? ごめん!!」
意を決して、メイプルはルーネリアの頬を叩く。
メイプルの平手打ちは、術で能力が上昇しており、同じ術の下にあったルーネリアでも、意識を取り戻すには過剰すぎるの威力であった。
叩かれたルーネリアは、後方によろけ、尻を地面に打ちつけた。
「……え!?」
頬を押え、見上げるルーネリアに、メイプルが手を差し伸べる。
「……メイプル!?」
「しっかりして!! ルーは勇者でしょ!?」
メイプルの手を取り、引き起こされたルーネリアは、自身の招いた光景に絶句するのであった。
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