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魔王No.0 アンノウン  作者: おとエセ
序章
1/23

A-1

 おとエセです。


 お手柔らかに、宜しくお願いします。


 『偉大なるルーネリア・グランクランは、勇者であり聖女の礎となられた』


 人であれば、誰もが知っているであろう、ある書の一節。


 『聖勇(せいゆう)の書』


 これは、初代勇者とし、聖母と名高いルーネリア・グランクランを始め、聖女を讃えに讃え抜いた書物である。


 その書の中には、こんな一節もある。


「英雄とは聖女の腕に抱かれる者──」


 英雄と呼ばれる者は全て、聖女を母に持って生まれて来た者である。


「英雄とは聖女に包まれる者──」


 英雄と呼ばれる者は全て、聖なる加護を持った者である。


「英雄とは神のお膝元で眠る者──」


 英雄と呼ばれる者は全て、死後、天界に行くことを約束された者である。


「英雄とは…………ふぅ」


 まあ、これほど都合よくヌケヌケと書き連ねたものだと、アメリアは手にしていた書物を、ため息と同時にパタンと閉じた。

 無知な民衆に向けて作られた物とはいえ、余りの美化されっぷりに、呆れを通り越し逆に感心さえ覚える程であったからだ。


「英雄とは……自身の能力に酔いしれ、命果てぬかぎり愚行に走り続ける者……そう思わない? エマ?」


 アメリアと向い合わせの位置にいたエマと呼ばれた人物はというと、目を伏せ、前屈みにうつむき、部屋の揺れに合わせての船旅の真っ只中にあった。

 侍女という立場でありながら、主を前にしての堂々の居眠りに、アメリアはホトホト呆れるしかない。


 ため息を吐きつつ、部屋に設置されてある小窓を開き外の様子を伺うと、アメリアの目には、辺り一面を畑といった光景が飛び込んできた。


「確かここは……『ゼロ』の村ね」


 娯楽もなければ、施設さえない。

 言葉通り、この村には宿屋はおろか、店の一つさえもないのである。

 ここにあるのは、広大な農地とそれを耕す農民の家だけ。

 そもそも、大都市からは随分と離れ、観光地でもあるまいし、人が寄り付かないような所に施設など必要であろうか?

 いや、必要あるまい。


 したがって名付けられたのが、本当に何もない地『農村ゼロ』ということである。


◆◇◆


「エマ、エマ? 起きてちょうだい」


 進めど進めど、景色が変わらぬなか、ふと、尿意を感じたアメリアは、エマを起こすことにした。

 しかし、どんなに呼び掛けるも、一向に起きようとしない、役立たずな侍女。

 しびれを切らしたアメリアは、所持していた杖で、自身の背の方にある小窓をコンコンと二度突いたのだった。


「どうした?」


 小窓が開き、監視役の男が顔を覗かせる。


「止めてちょうだい」

「は?」

「ですから、馬車を止めてちょうだい」

「え? あっ! し、失礼しました! どうしました?」

「お花を摘みに行きたいのです」

「お花? 今は農地の横を走ってます、あってもここでは野菜しかありませんよ? やはり、お花なんてどこにも…………」

「…………」

「は?」


 アメリアは呆れ返っていた。

 しかし、男は無言になったアメリアを不思議そうに見つめ、首をかしげただけ。


「……貴方は恥ずかしい事を、女性の私に皆まで言わせるおつもりかしら?」

「!? し、失礼しました! 直に止めます」


 ようやく事に気がついた男は慌て、馬車を停めにかかろうと、前方の御者に合図を送り、馬の速度を徐々に落とさせる。

 完全に止まったところで、先程の馬車の後方にいた監視役の男が地に降り、客室の側面にある扉を開けた。

 地に降りたアメリアは、更に付き従おうとするその男に待機を命じると、身を隠せる場所がないか歩き出したのであった。


 アメリアの背後から罵声が上がる。

 罵声を浴びせられているのは侍女のエマだ。

 居眠りといい、御者への指示といい、『貴様が仕事を怠ったせいで、主に不躾な態度を取ってしまったではないか』なんて怒鳴り声が聞こえてくる。

 先程のエマのたるみ具合を思えば、これは良い薬だと、アメリアの鬱になりそうだった気分は少しばかり晴れ、進む足はちょっとだけ軽くなるのであった。




■□■□■




 『聖拳の書』


 ──あの日の事は正直、よく覚えていない。

 思い出そうとすると、何故か急に怖くなり、震えが止まらなくなってしまうんだ。


 ただ、唯一ハッキリと覚えているのは、あの時の空は、南方の果実を彷彿させるような、赤、橙、黄と鮮やかな夕日の色に、汚水でも使用したのか、宙を漂う黒く汚れた無数の水泡。


 その奥には人影が見えて、黒い水泡のせいか、金色の目がやけに印象的だったな。


 そうそう、あれは…………あれ…は…………


            アモウ・ムムタイ著──


 誤字・脱字が御座いましたら、指摘のほど宜しくお願い致します。

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