あなたのこえをきいている
私は、丘の上にいる。
下は海。周りは、満開の桜。
私の、たったひとりの、お友達がいる場所。
つまんない学校で、つまんない授業が終わった後 放課後。
いつもの場所で、あの子と待ち合わせ。
息を切らして、走る。
「ごめんね、まったかな?」
彼女は、とっても、かわいくて可憐だ。
全然。まってないよ。
優しくて、あったかい声。
私は、彼女の声が大好き。
ねぇ、またがっこうの話をして?
いいけど、つまんないよ。
なんで?
だって、みんな同じ服を着て、怖い人に怒られながら、字を書いたりするの。
ふぅん・・・
こんな話より、あなたの故郷の話を聞きたい!
そうかな?
そうして、私たちは毎日のように自分の世界の話をする。
私は、つまらないと思うけど、彼女は楽しそうと言う、学校の話を。
彼女は、普通だというけど、私は夢のように美しいと思う、彼女の故郷の話を。
彼女の話す故郷は、本当に美しい。
桃色のすそを引く、山。
虹の橋がかかる、川。
鏡のような、二つの空。
いいなぁ・・・行ってみたい!
・・・いつか、一緒に行こう。
いいの!?やったぁ!
学校は嫌いだけど、放課後、この時間だけは、大好き。
もう、日が暮れる。帰んなきゃ。
そっか。バイバイ。
彼女は少し寂しそうに手をふった。
ごめんね。また明日。
教科書やら辞書やら、不必要なものばっかり入った重い鞄をもって、私は丘から立ち去った。
次の日の、放課後。
(遅れちゃったな・・・)
「おい、アンタ!」
呼び止められた。
茶髪で、目元がりりしい男の子。
うちの制服だ。
「なんですか?」
彼は、少し躊躇したように言った。
「・・・ア、アンタおかしいよ!」
何が?失礼な人だな・・・
私は思った。
「だって、いつも一人で・・・」
「おかしいのは、あなたのほうじゃない?じゃ、急ぐから。」
いやな気分。
「おくれてごめんね、少し変な人に絡まれてて・・・」
変な人?
そう。私がおかしい、って言ってた。
おかしくないよ。
・・・ありがとう。
ねぇ、昨日私、考えたの。
なぁに?
私、ずっとあなたのそばにいたい。
・・・私もだよ。
でも、時間が過ぎると、私たちを暗くて冷たい、ひとりぼっちの夜が引き裂く。
・・・うん。
だから、ずっと二人きりの世界・・・私の故郷に、行かない?
すべてを・・・捨てて?
少し考えてみたけど、それも悪くない、と思った。
「いいよ、行こう!」
そう?よかった。じゃ、目をつぶって、私の手を握って。こっちへ、歩いて。
彼女に手を引かれる。
ずっと、一緒だよ
潮風がふいて、私は海に身をなげた。
おい・・・おい・・・
誰かが、私を呼んでいる。
「ん・・・?」
「大丈夫か?!」
昼間の、あの茶髪の男の子だった。
「アンタ、やっぱりおかしいよ・・・!」
それから、彼がすべて説明してくれた。
「夜になるまで、ずっと一人で、何かをしゃべってると思ったら、突然、ふらふらと崖から落ちようとしたんだ。」
「ちがう・・・!私は・・・彼女に・・・故郷に!」
「おちつけ!・・・お前がずっとしゃべりかけていたのは、この桜の木だ。」
「そんな・・・!」
そんなわけない。そんなの、信じない。
だって、私は彼女の、優しくて・・・あったかい声が大好きで・・・あれ?
「なんで・・・思い出せない・・・なんでぇ・・・」
私は、何時間も泣いた。
意味が分からなくて。
どうしようもなく悲しくて。
もう一度、彼女に会いたくて。
その間、彼はずっと、私の背中をさすってくれた。
「・・・落ち着いたか?」
「・・・助けてくれて・・・ありがとう・・・」
それから、いくら待っても、彼女は現れなかった。
あの出来事から、もう何度目かの桜。
「今年も・・・会えなかったな。」
「そうかな?」
「え?」
「だって、俺には聞こえたよ。」
少し成長した彼は、微笑んで、言った。
「これからもこの子をよろしくね、って。」
三年前、変なこと言って、ごめんね。
私は、あなたのことを思っていたんだけど、それは単なる私の自己満足で、あなたには、あなたを必用とする人が、たくさんいる。
自分勝手な私を、どうか許してください。
彼と仲良くね。
それじゃあ、元気でね。
さようなら。
桜の精より。 なーんてね。
とても短いストーリーだったので、少し物足りなかったかと思うかもしれません。ですが、それぞれのキャラクターの心情を、少し早咲きの桜の風景とともに、楽しんでいただけたら嬉しいです。
読んでいただき、ありがとうございました。




