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第3話の続きになります。王妃の自室にて、旅のお仲間が出てきます。

女王陛下の薬部屋で高らかに父に宣戦布告をしていたら、後を追って来た教育係達にど突かれ、正座のまま説教されました……あぁ足が痛い……。


「よろしいですか、姫様?姫の不始末は私の不始末、更には国の不始末なのですよ。このカティア、己の教育に誤りがあったのかと恥じるばかりですわ。」

「姫様、陛下が困ってますよ?姫様と違って本物の姫なんですから、怖がらせない様に猫被らないと。」

「私だって姫だってば!」

むくれてプゥと頬を膨らます姫を温かい目で見つめる周囲。侍女カティアと従者リュートは女王に膝を折った。

「お久しぶりでございます。お元気そうとはあまり申せませんが、ご尊顔を拝むことができ安心いたしました。

伝説として聞いた事がございます。

旧静かな湖畔の森の国の幻の秘宝『真実の鏡』ーー世界中の理を告げる、神からの贈り物と言われる神器ーー本当にあったのですね。」

えっ!?と目を見張りブランシュとリュートは鏡を見つめた。

「ヘルミーネ様、宜しいのですか?」

「この秘宝は後継者とその側近のみ存在を知る資格があるのですよ?」

ケンタウロスのアルタイルとエルフのコリーナが我先に問うた。

「もし私が子を産めなかったら、この国の後継者となる身です。知っておいた方が良いでしょう。

それにこの鏡については良くない言い伝えもあり、知恵を貸していただきたいと思っていたところでした。」

「良くない言い伝え?」

「この秘宝は『真実の鏡』と呼ばれ、使用者に叡智を授けると言われております。

しかし、『破滅の鏡』という別名もあり、使用者を破滅に導くとも伝えられているのです。」

「我が長老からも厳しく戒められておりました。この鏡の言葉を決して鵜呑みにしてはならない。

何事も調査と実験と実証が必要だ、と」

「エルフの里長からも言われておりました。この鏡は『魅了の鏡』であると。一度魅入られたら二度と離れられなくなる麻薬のような物だと。」

「失礼します。発言をお許しください。先ほどの姫様と鏡のやりとりで思ったのですが、使用方法さえ守ればそのような危険は回避できるのではないのでは?何か秘伝の羊皮紙とか伝わっておられないのでしょうか?」

リュートの言葉に旧静かな湖畔の森の国の面々は一時顔を合わせた。

「実は政変があり、130年ほど前に一度途絶えかけたのです。」

130年前という符号にブランシュ姫は思い当たった。

「それってもしかして人狼と吸血鬼の暴動事件ですか?」


ーー人狼と吸血鬼の暴動事件ーー今から130年前に起きた大事件である。

当時吸血鬼と人狼は人間達と対立を深めていた。二大勢力は縄張りを決め、互いに不干渉を貫く事でお互いを守っていた。

人狼は力が強く群れをなし、狩猟・多種族からの略奪を生業としていた。人間と交配が可能な為、犯罪を犯し里を追い出された『はぐれ狼』や伴侶にあぶれた人狼が人間の女性を攫う事が多かった。

また吸血鬼は動植物の生命力を触れるだけで糧を得ることができたが、主に人間に噛みつき血をすするのを好む者もいたので嫌悪の対象になり、この二種族は他の種族と折が悪かった。

それが共存の転機になったのが、130年前の事件である。


きっかけは恐水病になった動物の血を吸った吸血鬼が感染し、発病したのである。

『恐水病』とは狂犬病とも言われ、主に感染した動物の唾液などから感染し二週間の潜伏期間の後発病。初期は風邪のような症状が現れるが、その後光や水・風などあらゆる刺激に対し敏感に反応し痙攣を起こすようになり攻撃的になる。その2日後から7日後に全身麻痺を起こし、呼吸困難で死亡する。

吸血鬼はミスリルや聖製された銀製品、にんにくや太陽光に弱いが、回復力に優れた上長命で若い内に老化が止まる。それ故に繁殖力は低く仲間は少なかった。閉鎖的であった為病に対応ができず集落に感染が広がり、比較的近くにあった人狼の里を団体で襲ったのである。

感染した吸血鬼達から奇跡的に逃げ延びた人狼と吸血鬼達から多種族に情報をもたらされた時には、吸血鬼の多くはその驚異的な回復力のため正気を保つ事も死ぬ事も出来ず、屍鬼の如き存在になり果てていた。

薬を作り出し世界を救ったのは、静かな湖畔の森の国であった。

吸血鬼と人狼は辛うじて生き残った。

しかしその薬ができるまで国を一つ滅ぼし、幸ある山の国と静かな湖畔の森の国でも時の国王が戦いで亡くなっている。

人狼は略奪を生業とするのをやめ、和解した幸ある山の国の奥で暮らすようになった。

吸血鬼は生物の血を吸わないことを条件に生きる事を許されたというが、迫害されて滅んだとも言われている。


「ええ。その事件の際、暴れ回る人狼と吸血鬼を押しとどめようと時の王と王太子が前線に立ったのですが、王は死亡。王太子も一時行方不明となりました。その側近達も死亡または重症を負い、伝承が危うくなったのです。

引退していた先の王がこの秘宝の真実を伝えようと病床の中、心血注いで書き上げたのがこちらです。」

「これがっ!?」

差し出された羊皮紙の巻物を一思いに広げて、姫達は固まった。


………なんだろう、この所々にこびり付いてる赤黒いシミは。最後の方は大きなシミで見えないし……ついでにこの記号のような……絵のような……いや、絵じゃないよね……あれぇ?あれれ?


「……古代コブリン文字?」

「……古代オーク文字とか?」

「どちらもそこまでの知性はありませんよ。エルフやケンタウロスで使われていたルーン文字でもないですね……」

「暗号とか」

「それならどこかで統一性が見られるはずですけど、それも無さそうですし……」

「あの〜、お義母様達は読めるんですよね?」

多少の期待を込めて旧静かな湖畔の森の国の面々に尋ねると、女王は困った顔をして頰に手を当て答えた。


「それがね、分からないの」


絶句する旧幸ある山の国の面々。

「元々悪筆で知られた方だったらしいのよ。」

「この代でこの宝を失う訳にはいかない。後の世のためにも伝えねばと病床を押して血を吐きながらも書き上げ、無事帰城した王太子にこれを託して満足な顔をしてお亡くなりになったんです。ですが誰も読み解くことができなくて……」

「その情熱と意気込みは買うんですけどね……」

「どうせなら口伝にして書きとらせて欲しかった……」

コリーナと実際看取ったらしいアルタイルが項垂れてため息をつく。

えっ!? じゃあコレ本物の血!?

「吐血が羊皮紙の半分を染めてしまったので、後半はもっと読みづらいんですよね……何も知らずに覗いた方は呪いの書と思い込み倒れてしまいますし。」

思わずドン引きする姫と従者。強心の侍女は巻物を持ったまま疑問を口にする。

「しかし先ほど陛下が使用なされてましたよね?アレはどうやったのですか?」

「この鏡の額縁の下の真ん中にボタンみたいなのがありますよね?そこを押してーー」


縁が丸く黒の飾りのない平らな額縁。 しかもその表面は今は真っ黒な鏡と薄いガラスで一緒に覆われている。

(ねえ、リュート、コレって……)

(だよなあ?)

姫とその2歳年上の従者は大人達に気付かれないようにアイコンタクトを交わす。


(コレって、どう見ても『タブレット』だよね)


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