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父の心、子知らず 4

国は隣同士だが風土は違い、我が国はがっしりとして濃い色の髪や瞳を持ち長身な者が多いのに対し、静かな湖畔の森の国は淡い色合いでどちらかといえば小柄な者が多い。

初顔合わせの日は娘にたいそう驚かれ、また引き込もられた。

草からの報告で世間では、自分は女好きの幼女趣味で、姫が母親を亡くしたショックで引きこもったのを見かねて若い女王と結婚したことになっていた。それをたまたま聞いてしまったらしい。


………泣いていいだろうか………シャルロット、子育てとは難しいなぁ。


「それはしょうがないでしょう、兄上?兄上自身が女好きを装っておられたんです。加えて事情があるとはいえ、一回りも年の離れた少女を娶ったんですよ?世の嫉妬と恨み、怒りを買いまくってますよ。」

「シャルロットといいヘルミーネ女王陛下といい昔から美女ばかり集めやがって。顔のいい奴は得だな。少しは独身者にまわせ」

「グェンダル、50を過ぎてまだ諦めていないんですか?それに顔は関係ないでしょう。何の為に髭を生やしてると思うんだい。もう私の顔など忘れてるよ」

「剃るなよ〜?剃ったら昔に逆戻りだぞ。警備が大変だ。ただでさえ女王陛下と姫の警備が大変なんだから」

「私の警備はいいのかい?」

「痴女集団に追い回されるぐらいだろうが?暗殺者もあまりの多さに隙を見つけられず、手をこまねいている内に捕まえているしな。

………何なんだろうなぁ〜。既婚者で再婚の子持ちなのに……」

「独身時代毎晩寝床を変えてたのも、暗殺者じゃなくて夜な夜なやってくる求婚者達が原因でしたからね……相手側も結婚前には手を組んで虱潰しになってましたし。」

遠い目をして弟ロバートと元騎士団長のグェンダルが呟く。

「権力という蜜の味はそれほど魅力的なんだろう。私自身には宝冠を乗せる頭くらいしか魅力はないよ。

王妃の冠は彼女達にはさぞかし美しく艶やかに輝いて見えるけど、アレは見た目以上に重く肩にのしかかるんだ。シャルロットの代わりを務める事など、絶対に無理だ。」

そこへ元大臣のマルクが旧静かな湖畔の森の国の面々を先導して来た。

「結ぶことができたこの縁を幾久しく保たん」

「我ら平和と共存を望む者なり」

我が国の協力者は半分がドワーフや人狼で、旧静かな湖畔の森の国の女王の協力者達はエルフやケンタウロスなどの異種族が多く、あちら側には王族は一人もいなかった。

「他国の事は言えませんが、唯一神教の影響は大きいようですね」

「申し訳ありません。先王も苦労したようですが、心まではどうしようもなかったのです。」

彼らは人族とは違い長い寿命と頑強な肉体を持ち、魔法が使える種族もいる。

この中では人族が最弱である。では、なぜ王として立つ事ができたのか。

単純に数の多さが決めてであった。行動範囲が限られる異種族に対し、人族は行動範囲が広い。

多種族より短命なため、時代の移り変わりが激しくまた急激に多種族の文明を取り入れて成長することもあった。

反面エルフやドワーフなどは長命なためのんびりとした気質のものが多かったし、自らの研究などに没頭する者も多いので時代の移り変わりに気を使う者が少なかったので長命族の者が国を統べた場合、時流に乗り遅れて国を逆に衰退させ侵略される例が多かったのである。何よりも村や集落ならともかく国の統治など面倒くさがり放棄した。若者に「経験を積む」という名目で王城に代表者として派遣されるも、だいたい40年で代替わりしていた。

彼等は決して愚かでも文明の退化した野蛮人でもなかったが、彼等との接点を持たぬ者達には偏見に満ちた目で見られる事は少なくなかった。

「大掃除は必要です。しかし、本気ですか?ご息女を囮になさるなど、正気の沙汰とは思えません。」

「賢い子供とは聞いておりますが、僅か6歳ですよ。親元を離れて旅など危険極まりない。」

「今まで数多くの刺客が訪れたと聞いております。我々の手を離れる事で、更に増えるのでは?」

姫の日常を知らぬ面々が口々に計画に反対して来た。それに対してグェンダルが重々しく口を開いた。

「確かに姫は幼い。幼いがそれを上回る賢さがあります。

しかもなんでか分かりませぬが、襲って来た刺客が様々な意味で残念な結果に終わり自滅するという幸運の持ち主でもあります。

姫の価値は今は不安定です。姫が旧幸ある山の国の血しか引かないため、この国の継承権は弱い。

可能性があるとしたら、旧静かな湖畔の森の国の王族を伴侶に迎えるしかないでしょう。

その意味では姫の命の危機は一先ず遠去かったと言えるでしょう。もし姫を伴侶にしこの国の王になろうとする輩が現れた場合、姫は自分でカタをつけるだろうからまず大丈夫です。

それよりもこれからの大掃除の余波を考えたら、城を出た方が安全です。」


侃侃諤諤の討論の末、姫を勉学の旅に出した。

護衛と教育係を兼ねた供の者達との仲は良好で、方々で様々な結果を導いた。

その裏で我々は密かに大掃除を決行し、ひっそりと勢力図を塗り替えていった。

あれから4年。大元の害虫以外は排除するのに成功した。しかし私とヘルミーネの関係はまだ清いままだ。

四年前はまだ幼く大人の男性に慣れない彼女に無理強いをしたくはなかったし、ブランシュ=ネージュが落ち着くのを待ちたかった。

警護も兼ねていた為寝台は共にしていたが、決して一線は越えていなかった。

子を残すのは王族の義務である。愛し合う事はできなくても、盟友から家族になれればと思っていた。

だが、少しずつ積もっていく親愛以外の感情に気づき戸惑う自分がいた。



シャルロット、君を忘れた訳ではないんだ。

実父の所業にボロボロになっても己の足で立ち上がろうとする君を私は支えたいと思った。

ロクデナシの甲斐性なし男によって砕かれかけた君の心を私の心で埋め、温め合い共に歩んで君の願いを叶えたいと思っていた。

それは今でも同じなんだ。

君と同じく身内に恵まれないヘルミーネに同情したのかもしれない。

君と同じく現実から目を背けず立ち向かう姿に君をほんの少し重ねたのかもしれない。

だが君を思い出すたびに君に似てないヘルミーネを思うこの感情をどう扱っていいのか分からないんだ。

ブランシュ=ネージュはこんな父を見てどう思うだろう。今更ながら軽蔑されないだろうか。

ちゃんとした家族になりたい。そう話してみようと思う。

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