父の心、子知らず 3
更新が遅れて申し訳ありません。
私と騎士団長が駆けつけたのはこの後である。
私達に後は任せ、代わりの軽食を用意して欲しいと姫を退出した。
この茶会を催した令嬢達は不敬罪で叱責し、一先ず謹慎させて親族一同登城禁止にした。
断じてパンと菓子の恨みからではない。そう、断じて違う。
一方、ブランシュ=ネージュはこの日から部屋に引きこもった……。
「自分、なんで空気読まなかったんだ………」とか「うわぁあ〜〜んっ、私ってさいっていぃっ」とか「滑ったぁーーーっ」とか時折ブツブツ言いながら耳まで赤くなり、半泣きで寝台や敷物の上をゴロゴロ転げ回ったり机の上に突っ伏していた。空気は『吸うもの』で『読みもの』ではないんだが……ついでにその所作は『滑る』ではなく『転がる』ではなかろうか。
どうやら姫は『茶会=情報交換の場』と認識していたらしい。正しいのだが令嬢達との興味ある話題の差異に気づいたものの令嬢達への的外れの質問の引っ込みがつかなくなり、亡き母の代わりにと意気込んだ反動もあって意地を張って生意気な返事をしてしまったのが後になってからだんだんものすごく恥ずかしくなってきてしまったらしい。
喪中にも関わらず派手な格好でやって来た非常識の集団に相当頭に来ていたのも確かだが、若い子になに大人気ないことしてるんだ、というような内容も呟いていたらしい。
………茶会の会話としてはぎこちなかったし無理があったが、令嬢達は全員姫より10才以上年上だったんだが。だいたい呼びもしないのに父親達と共にやって来て客室を抜け出した挙句許可もなく庭で茶会を開き、更に王族を誘拐して無理矢理参加させる連中に気遣いなどいらんだろう。
それにしても一体誰が姫にこんな言葉遣いを教えたんだろう。
ともかくこの茶会より姫を狙う暗殺者が格段に増えたので、姫を誤解させたまま自室に引きこもらせた。
自分の娘を王妃に添え、国王を傀儡にして政治の実権を握ろうとする者にとって、姫の賢さは野心のある国内全ての貴族に危険視されてしまったのだ。
あの茶会の少し前より、私は静かな湖畔の森の国から女王との結婚を打診されていた。
静かな湖畔の森の国はこの国と同様一夫一婦制であるが、女子にも継承権はあった。
かの女王は先代の急死により即位した。他国に通じた貴族の手による暗殺であったと噂されているが、事実であることは掴んでいた。
我々の国の近くにまで薔薇の風薫る国の脅威は迫っていた。
彼の国は東の聖都を拠点とする唯一神教と手を組み、信仰を盾にその勢力を増して小国を次々と吸収していた。
神の御許の平等を歌ってたが男尊女卑の気が色濃く、女性を持ち物として扱い、無知であることを美徳としていた。国の長が女子であるというだけで異端扱いし、国ごと滅ぼした事もある。
また民間の医療・その土地土着の信仰をも異端とし、民間の医療従事者・他の宗教の信者を殺しその財産を奪い弾圧に参加した者に分配することを認めていた。
おまけに人族至上主義で、エルフやドワーフなどを亜人と一つに括り迫害の対象にしていた。
狂信者の集まりとも言えるこの国はこの上なく不愉快で厄介で迷惑すぎる国であった。
幸ある山の国の東に風を奏でる森の国があるが、この国は薔薇の風薫る国に対抗姿勢を見せてはいても思想が唯一神教に傾倒しつつあった。
国王としてなら取るべき道は決まっていた。しかし一度会って話をしてみたいと思い非公式の会談の場を設けた。
亡き妻シャルロットはスノードロップに例えられる控え目な印象を持つ佳人であったが、女王ヘルミーネは百合の開きかけの蕾を思わせる少女であった。
明るめの茶髪に少しやつれたような卵型の顔、紫水晶の瞳が不安そうに見上げていた。
「幸ある山の国には害虫が山林を枯れさせつつあります。私はこれから『大掃除』を始めます。
幼い子供を怯えさせないよう静かにこっそりと、しかし確実に虫を駆除するつもりです。
私は爪先はおろか髪の一筋さえも血に染め、虫の死骸を踏んで行くのを躊躇わない。
しかし、貴方はその横に立てますか?」
「………分かりません……私は戦場に立ったことも人を殺めたこともありません。剣技も政治もまだ未熟。
しかし、私は王となってしまいました。王とは民を守る者。その責任の重みを忘れる訳にはいきません。
目を背けず歩むつもりです。」
「私はこの虫達に大事な家族を殺されました。同じ轍は踏まぬよう容赦は一切しないつもりです。
虫は静かな湖畔の森の国の王族の湖にも入り込んでいるとお聞きしました。湖が赤く染まっても?」
「例え赤き川が流れようとも」
若き女王は、顔を青ざめ体を震わせながらもしっかりと目を合わせ、力強く断言した。
ならばその意気に応えようと結婚を承諾した。
本業が忙しくなって来ましたので、次回より週1の更新を目指したいと思います。




