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風俗画廊  作者: 南清璽
7/10

殺人犯と画廊で

「もうしばらく待ってもらえませんか?」

 私がスマホを手にしているを見ての言葉でした。ただその物言いは、懇願するでもなし、哀切に満ちたものでもありませでした。だからか、意外と好感が持てたのです。だとすれば無下にはできますまい。その言に従い、110番への通報はしばらくはせずにおこうと思いました。

「それにしても大胆だね。」

 何分、あの事件の現場になった所のすぐ斜向かいだったからです。もちろん、性別は女から男へと変わっていました。しかし、それを以ってしても官憲に嗅ぎ付けられないとは限らないはずです。

「確かにそうですね。」

 それは意味深な答え方だと思いました。しかもそれに尽きるものでもなかったのです。あの事件のとき、そう、私がこの男から殺されかけたとき、買った絵がウインドウに掲げていたのです。そして、外に私を認め、誘ったときの「お待ち致してました」の言葉。やはり早々に立ち去った方がいいのでしょうか。しかし、みすみすこのまま帰らせるとは思えませんでした。何かの隙に逃げ出すのが賢明なのでしょう。まずはそういう素振りを一切出さず悟られないようにしなくてはと思いました。

「あの絵は?」

 こう男に尋ねていました。苦し紛れでもなかったのですが、手近に交わせる話題ともなれば、この絵と性転換のことぐらいしか思い浮かばなかったのです。もっとも自分が買ったものだというつもりは毛頭なく、糾すふうにならないようにしました。とっくに自身の所有にかかるものだとの意識は消え失せていましたから。であるにもかかわらず、気になっていたのです。どうやって手に入れたか、いやそれにも増して、私を誘おうとウインドウに飾っていることです。

「パトロンの方から買い取った次第です。実は、私が描いた絵は一旦はパトロンに所有権が帰属することになっていました。一種の譲渡担保ですね。売上の一部を借り入れの返済として彼に渡していました。

 あの絵は警察に押収されました。ただ、事件に関連するものの犯行に供されたものでないので没収とはならなかったのです。その結果、還付されることに。彼は設定契約書を警察に示し、それを取り戻したのです。

 でも、絵を扱ったことのない彼はあの画廊に残した絵をどう処分しようかあぐねていました。その次第を知った私は知人に仲買を依頼し、全て一括で購入したのです。」

 もっとも、一番知りたかった理由は示されませんでした。なぜウインドウに置いたかという。でも、このタイミングでそこを糾すのは危険に思われて出来なかったのです。それどころか“性転換手術を受けていらしたのですか?”と聴くまでもないことを尋ねてしまう有様でした。思考がまとまらなかったからでしょう。しかも、この状況を男性に戻ったまでと考えるべきか迷いました。もちろん、外観は男性に戻ってはいるものの、まだ、意識としては女性なのかと想像が浮かんでいたからです。だけど不思議な空間でした。焦る気持ちがありつつ、こうやってこの男との会話をだべり続けたいという。安心感とはいかないまでも、警戒心は幾分か和らいでました。そうして核心ともいえることを尋ねることにしました。

「確か、『お待ち致してました』と。」

「どうしてもあなたに聴きたいことがあって。あのとき、私に殺意を懐いてらしたかどうか?」

「それはありませんよ。」

「でも死んでも構わないと。」

そうです。検事が述べていたことです。

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