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風俗画廊  作者: 南清璽
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スプレー缶が

 やはり実体として掴めずにいました。「死」なる言葉がこれほど徴表されつつあるというのに。もちろん観念した訳ではありません。生への執着はあるにはありました。でもどことなくこの雰囲気に浸っていたいという想いもしていたのです。それは偏に彼女のたたずまいが世俗と一線を画していたからかもしれません。何しろその笑みが不敵なものではなく、むしろ柔和であったぐらいでしたから。

 でも、事の次第は緊迫感を増していました。彼女はロープを引きました。軽くはあるにせよ頸部は締め付けられました。そうして私の顔に蝋燭の火で照らしたのです。

「こうやって蝋燭を点してやるの。幻惑に近い感じが得られるから。でも同時に分かったわ。自身に潜む残忍さが。ほんと不思議。全く可哀想にならない。」

 そういった内容の口述であるにもかかわらず、概念的な意味合いで受容していました。あるべき義として彼女に何か懲罰を付すなどは俗ぽく思えたのです。でも、矛盾も存在していました。そう、私の意識の中に。彼女は、今ここで破壊されるべきではと。私は単なる正義感からそう考えたのではありません。とある空想が思い浮かんだのです。けたたましい焔に彼女が包まれるという。

  むしろ彼女もそうならんと望んでいるのではと考えました。実は先ほどから指先に何かが触れていました。冷たい金属の感触です。そう、手にしていたスプレー缶でした。そうか、これからあの様な空想へと繋がっていったのでしょう。

 こうなればもはやこうするほかはなさそうです。吹き付けました。その蝋燭の炎に向けて。そして、それは同時に彼女の顔面にも向けることでもあったのです。まさに火炎放射器の様でした。炎が彼女の顔へ浴びせられました。

「ウォーッ!」

 男の声?いやありえない。心の中でこんな会話がされました。床には蝋燭が落ちてました。火は消えてなかったのです。私は作業台に載せられていたキャンバスをそれにくめました。すぐに引火し炎は大きくなりました。そして手にあったスプレー缶だけでなく作業台にあったものも同様に火の中に放り投げたのです。

 一方で彼女の様子もどうか窺っていました。まだ用心しなければいけませんから。火傷の痛みから、顔を手で覆いうずくまってはいたのですが。ただ、肌の一部がただれ、もう一つの肌があらわになっていました。そういった光景を目にすると今度はとても恐ろしくなってきました。それにまごまごしてられません。私は急ぎその場を離れました。すんでのところでした。外に出た途端轟音と共に火焔が燃え広がりました。火にくめたスプレー缶が爆発したみたいです。しかし、これで終えることはできません。官憲に事の次第を告げなければなりませんから。

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