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風俗画廊  作者: 南清璽
2/10

画廊に案内される

「そう。リベラルアーツを。」

  リベラルアーツ?確かにその女性はそう応えました。まさに不夜城といえるこの歓楽街の一角で私にどこかへ案内しようと云ったあの女性です。もちろん大学で何を学んでいたのかと尋ねられた処で別段応える必要はありませんでした。私の手にあったモネの図録を見て、絵画でも専攻されていたのでしょうかと聴かれ“ええ、まあ”と適当に誤魔化せばよかったのかもしれません。ただ、美大生で画家志望だという誤解があってはという無用な気づかいから総合文藝部で美術史をやっていましたと答えてしまったのです。もっとも彼女の口から“リベラルアーツ”と発せられた折は少なからず相応な学の持主であるとの印象を受けました。

「どうです。そこは絵も扱っている処です。行ってみません?」

 彼女がどういう場所を案内する御仁かは存じているつもりでした。一方、高等教育を受けられている方には違いない様でもありました。訳があって単に身をやつしているだけなのでしょうか。興味は尽きなくなり、このまま付き合ってそういった事情も伺いたくなったのです。だから絵も扱っているという売春窟に案内願おうと考えました。

 彼女の説明ではここから少し離れた場所で半時間ほど歩かねばならないとのことでした。別段歩くのは苦ではありません。そう告げると彼女はやや早足で歩みだしました。ただ、知りたかった、どうしてこんな具合に風俗の関係に携わる様になったかを質すきっかけはつかめないままでした。こういった膠着状態を抜けたかったので白々しい質問を行いました。そう、「美大に通っていらしたのですか?」と。

「いいえ、女子大です。リベラルアーツのカレッジに。」にと品よく述べたのです。そうして、次のとおり梗概を語り出したのです。それはしみじみとしたもので何かを懐かしむ様でした。

 彼女の御尊父は官吏で中央省庁に勤めていられたとか。だからか身だしなみや礼儀作法に厳しく、修道女の様な教育をと考え基督教主義の女子大に附属中学から入学させたそうです。そして、大学を卒業してすぐに見合、結婚させたのが高校の教諭だったと。その夫も栄達を求め校長まで昇進したみたいでした。でも反面かなりの守銭奴で定年後はその蓄えや親から相続した田地を売却したお金で友人とソープランドを始めたとのことでした。かなり儲かったそうです。ただ、あるとき店の金庫にしまっていた株券が盗まれたと。全くそれに気づかないまま株券を善意取得したという人が顕れた様です。しかも何とその友人とグルになり夫を経営陣から追い出した様です。もちろんその後は裁判で争ったのですが、その途中で夫が亡くなってしまい身を引いたのが顛末であると。ただ、この世界で得た知己を活かし案内をしては僅かな手数料を得る様になったのだと。

 同情すべき身の上話なのでしょうか。彼女は、全く受容していました。だからかえって求めていないようでした。

「ギャップを感じないのですか?教養の持主でいらっしゃるのに。」

ともすれば意地悪な尋ねかたでした。

「ほんと。どうして父に反発しなかったのだろうかと思います。結婚相手は自分で見つけるって。反動かもしれません。だからあこぎなことをして自身を蔑んでみたいと。でもどことなく性に合っています。こういったことが。」

 彼女は淡々と応えました。ただ気付けばそこはネオンの少ない一角でした。殆どひとけはなく、先ほどの処との差異を感じていました。そうして案内されたのが画廊でした。彼女に連れられ中に入ると「いらっしゃいませ!」と。女性です。その人が店主でした。

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